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01-06 第一波

ナツはレーザーライフルのスコープで確認した。

確かに遥か彼方に土煙が見えた。

ナツは子供二人に声を掛ける。


「ユージーン、ヒラリー、今までご苦労様。 二人は家に戻るんだ」


「え!? ここに運ばなきゃいけないんだろ?」


「それは、お父さん達にお願いして。 二人はもうここに来ちゃだめだからね」


「やだ~、お兄ちゃんのそばにいるのー」


困った事に、子供達が駄々をこね始めた。


「え~…」


ナツが困っていると意外な所から援軍が現れる。


「おら! ガキは家で寝んねしてりゃーいいんだよ!」


「きゃあ~、なにするのー」


見ればイントッシュがヒラリーを抱え上げている。


「ラザラス! サイモン! お前らはユージーンを取り押さえろ!」


「イントッシュ…お前」


「あ、ああ、分かった!」


ラザラスと呼ばれた若者はイントッシュの突然の行動に呆気に取られ、サイモンと呼ばれた者は、すぐに真意に気付いたのか指示に従った。


「あっ!? 何すんだよ、サイモン!」


「煩せえ! サイモンさん、だ! 何度言えば判るんだ、このガキ!」


ユージーンも抱え上げられ、声を上げるが後の祭りだ。

それを見ていたナツはイントッシュに礼を言う。


「…イントッシュさん、ありがとうございます」


「煩せえ、お前の知ったこっちゃ無えんだよ」


「それでも、ありがとうございます」


「…ちっ。 で、なんだ。 後は食料を持ってくればいいのか?」


「…はい!」


ナツの返事を確認すると、イントッシュ達は村へと走っていった。


「えへへ…」


そんな彼らを見送りながら、ナツは笑っている。


「どうなる事かと思いましたが、やる気が出たようですね」


「うん!」


ハルの言葉に元気よく頷きながら、ナツはやる気に満ちていた。







迎撃作戦は実に簡単だ。

ナツが遠距離から射撃で出来るだけ数を減らし、零れた魔物をハルが各個撃破する。

ただそれだけである。


この数日で防壁は城壁かと思うほどに堅固な物となっていた。

その上にある射撃場からナツは狙いを定める。


「う~ん、凄い数なんだけど…あれに一発一発撃ってたら切りが無いよね~」


そう言うと、ナツはレーザーライフルのスコープを取り換えた。

二回りほど大きく、更には何やらアンテナのような物が幾つも生えている。


「よいしょっと。 じゃあ、行きますか~」


そう言ってレーザーライフルを抱え直すと再度狙いを定める。


「マルチスコープ展開」


“ピッ、ピピピピピピ――”


すると大型スコープの中で、複数の魔物に照準が定まっていく。

その数、凡そ100。


一斉射(フルファイア )


“シュパパパパパパ――”


スコープの中では、狙われた魔物が全て地に倒れ伏していた。


「マルチスコープ展開」


“ピッ、ピピピピピピ――”


無論、それだけで“魔物の暴走(スタンピード )”が終わる訳は無い。

ナツは淡々とその作業を繰り返す。


一斉射(フルファイア )




前線にいるはずのハルは暇を持て余していた。

服装はエプロンドレスに、髪は結ってホワイトブリムも完備だ。

要は、いつも通りである。


とてもではないが、これから魔物と戦闘をするようには見えない。

そのままお茶の用意をする方が似合っている。

実際、本気でそうしたくなるほど彼女は暇であった。


「張り切り過ぎです、ナツ」


ナツの弾幕を抜けて来れる魔物がいないため、呆っと立っている事しか出来ないのだ。

とは言え、これは第一波。

いくら種として最強クラスに育っていると言っても、所詮は表層の魔物。

ゴブリンやコボルドが強くなった所で、高が知れていると言う物だ。


そして、ナツのマルチスコープも同じことが言えた。

あれは一発の威力を減らすことで狙いを分散しているのだ。

第一波には通用しても、中層の魔物である第二波には通じないと思った方がいい。

今回とは別の対処をしなければなるまい。


「凄えな…」


そんな事を考えていた彼女の耳は、他者の呟きを拾った。


「…何をしにここへ来たのですか」


声のした方に目をやれば、イントッシュ達三人がハルの傍へ来ていた。

取り付く島も無いハルの言葉に、だがイントッシュはたじろぎながらも先を続けた。


「俺達にも手伝える事は無いか?」


「ありません」


漸く告げた言葉にも素気(すげ )無く言い返され項垂れる。


「そう言わないでよう、何か出来る事無いか?」


撃沈したイントッシュに代わり、サイモンが粘る。

ちらとハルが彼らを見る。

やる気はあるようで、それぞれ剣やら斧やらを持参していた。


「…戦闘の経験は?」


突然の質問に仰け反りながらもイントッシュが答える。


「お、おう! ゴブリンやらコボルドなら何度か経験したぜ。 俺達はこう見えても自警団なんだ!」


「…いいでしょう、まずはここで待機。 ナツの弾幕から漏れた魔物を個別に倒します」


「おう! 分かったぜ!」


俄然、やる気に満ちた三人だ。


「但し! 必ず三人で一緒に行動する事、標的一体に三人掛かりです」


が、次のハルの言葉に愕然とする。


「そりゃねえぜ、嬢ちゃん。 いくらなんでも俺達をバカにし過ぎだ」


必死に言い返すが、ハルは聞き入れない。


「それが聞けないと言うなら結構です。 お帰り下さい」


「ぐぐ…」


イントッシュ達は唸るが、それで事態が好転したりはしない。

結局折れたのは彼らの方であった。







魔物の暴走(スタンピード )”が始まって数時間。

時間が経てば経つほどに魔物達の圧力は増していった。

ここまで来るとナツの弾幕から漏れ出す魔物もチラホラ現れ始める。

しかしそれは予定通りハルが倒していく。


そんな中、予定と違う事態も起こっている。

言うまでもない、イントッシュ達の事である。


(まさかハルお姉ちゃんがあの人たちを受け入れるとは思わなかったけど…)


それはナツにも意外な事だったらしい。

ユージーン達を家へと連れ帰り、言葉通り食料と飲み水を運んで来た彼らは、まずナツに協力を申し出ていたのだ。

しかし、ナツの傍にいても何も出来ない事に変わりは無い。

そこでナツは「ハルお姉ちゃんに聞いて」と、ハルに丸投げしたのだ。

丸投げしておいて勝手な言い分ではあるのだが、意外な事は意外な事なのだ。

しかし、しばらく眺めていて合点がいった。


(なるほど、確かに三人一組(スリーマンセル )なら大丈夫かな)


暴走している魔物は、そこいらで見かけるゴブリンやコボルドとは違うのだ。

見た目は同じでも強さが格段に違う。

いつもと同じ調子で戦っていたら、返り討ちに遭うのは間違いなかった。

だからこそハルは頑なに、三人で一体の魔物を相手しろと言ったのだ。

それを何よりも肌で感じているのはイントッシュ達本人だろう。


「ぜえ、ぜえ、ぜえ、何だって…ゴブリン風情が…こんなに…強いんだ…よ!」


「分かんねえ…けど…あの嬢ちゃん…はあっ、はあっ」


「ああ…言ってくれなかったら…俺達…死んでた…なっ!…ぷはあっ」


彼らはゴブリン一体倒すだけで疲労困憊していた。

だが“魔物の暴走(スタンピード )”の圧力は増すばかりだ。

漏れ出る魔物の数は増えていく。

もう次の魔物が弾幕を抜けて来ていた。


「ヤー! ヤー!」


またしてもゴブリンだった。


「あんな間抜けに見えるのに強えんだもんなあ…」


「愚痴っても仕方ねえだろう、行くぞ」


「へい、へい」


短い休憩から立ち上がり、戦いへと赴く三人。

結局、彼らは何も出来ない自分に苛立っていたのだろう。

その捌け口にナツを選んでしまっただけなのだ。


無気力な大人達に何を言っても無駄だった。

だからと元気な子供に辛く当たってもいいとは言わないが、彼らもやるせない気持ちに燻っていた口だったのだ。

それが証拠に、口では文句をを言っていても今の彼らは活き活きとしていた。







そして、そんな若者達の行動は、大人達をも動かした。


「子供と若い連中だけに任せて、いい大人が家に引っ込んでいていいはずが無い!」


そう言ったのはダリルだった。


「そうさねえ、災害だからって黙って受け入れて死ぬのは間違ってるかねえ」


宿の女将、ジェインがそれに同意した。

同様に頷く村人達。


「判った。 それが村の総意で構わんのだな?」


村長のグレゴリーが最後に確認する。


『おう!』


村人達の声が揃った。


「では仕事の分担だ。 ギネスとアイザックは自警団を集めてイントッシュ達に合流。 現場の指示を仰げ」


「おう! 任せろ!」


「ハムは残った男連中を集めて食料の確保。 集めた食材は宿に纏めろ」


「了解!」


「ジェインは女連中を集めて食事の用意だ。 女達はジェインの指示に従ってくれ」


「あいよっ! ポーラとリベカは、あたしに付いてきな。 スーザンとテリーザは食材が集まったら宿に持ってきておくれ」


『分かりました!』


「残った連中と年寄は体を休めておけ。 いざという時に動けるようにな」


「なんじゃ、わしらは邪魔者扱いか」


『わっははっははは』


抗うと決めてからの村人達の行動は早かった。

グレゴリーの指示も的確である。


ここへ来て、バイロン村は息を吹き返した。







深夜、ハルが造った防壁の外。

死屍累々。

魔物達の死体の山が出来上がっていた。


同様に村人達も地に倒れ伏している。


但し、こちらは死体では無い。

単に疲労で倒れているだけだ。


そう、彼らは勝利した。

魔物の暴走(スタンピード )”に打ち勝ったのだ。


「あ~、終わった~」


レーザーライフルを置き、伸びをするナツ。


「お疲れ様です、ナツ」


何時の間にか傍に来ていたハルがナツを労う。


「ありがとう。 ハルお姉ちゃんもお疲れ様」


「いえ、私は村人達が応援に来てくれたおかげで、そこまで疲労していません」


いつも通りの無表情でそう言うハルだが、その途中から応援に来てくれた彼らは、皆同様に昏倒しているのだが…


「それに、まだ終わってはいません」


「…そうだね」


そう、これは第一波なのだ。

一番弱い表層の魔物の群れ。

第一波が来た以上、第二波、第三波も来るに違いない。

むしろ、ここからが本番と言えた。







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