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02-07 反撃

程なくバーバラとアンガスが宿へとやって来た。

すぐに出迎えたハルに驚きを禁じ得ない二人。


「我々が来ることを知っていたのですか?」


思わずそんな質問をしてしまうくらいには驚いていた。


「先程まで聖女様の世話係と思しき女性がこちらにいたのです」


ヴェロニカも隠さなくていいと言っていた事だし、素直に事実を告げるハル。

まあ、内緒と言われていても事実を告げていたのだが。


「ヴェロニカですか!? 彼女はどこに!? いえ、聖女――アデレイドは一緒ではありませんでしたか!?」


再び驚愕した――驚いたと言うには言動が激し過ぎる――バーバラにハルは言葉を重ねる。


「はい、ご一緒にいらっしゃいました。 何でもナツ様と二人でお話がしたいと言っておられましたが――」


その言葉を聞き力が抜けたように(くずお )れるバーバラ。


「よ、よかった…」


「おっと…」


アンガスはそんなバーバラを咄嗟に支えた。

余程、気を張っていたのだろう。

安心して膝が落ちたのだ。




事の次第を聞けばこうだった。

助祭となったアデレイドに司祭の補佐を教えるのもまたバーバラの役目だ。

だが講義と実習の時間になっても一向に姿を現さない。

不審に思った彼女がアデレイドの自室に入ると、そこは(もぬけ )の殻だった。


法衣が脱ぎ捨ててあるのを見て家出かと思ったが、アデレイド一人で何が出来る筈も無く――酷い話だが事実だ――ゆっくり探そうとしたところで気が付いた。

以前にも同じような事がなかっただろうか。

あの時は確かお祭りに行きたいと言って――

バーバラの脳裏に、ある女性神官見習いの顔が浮かんだ。


「ヴェロニカはどこです!?」


アデレイドだけならばともかく、ヴェロニカも一緒となると話が変わる。

あの子は何でも如才なく――とは言えないが、卒なく熟す程度には優秀だ。

彼女がアデレイドに付いたのなら、家出も充分に有り得る。


四半刻後、二人の姿が神殿内に無いと知って不安は確信に変わり、アンガスに助力を求めて捜索に出たバーバラであった。




「――それで、こちらへいらしたのですね」


「ああ、先日のアデレイドは並々ならぬ興味をナツ殿に持っていたように伺えたのでね」


つまり、ここを捜索場所に選んだのはアンガスと言う事だ。

中々に優れた推理だと言えるだろう。

普通は公の面前で自分に恥を掻かせた相手に会いに来ると考える者はいない。


「少し、ナツ様にお任せしては如何でしょうか?」


ハルは、ナツがアデレイドに思う所があり、肩入れしている事を知っている。

ハルとしては少々面白くないが、似たような境遇の相手にシンパシーを感じるのはよくある事だ。


「それは、どう言う事でしょうか?」


その辺りの事情を知らないバーバラが尋ねて来る。


「あの晩、聖女様と初めてお会いした日に、ナツ様はおっしゃいました。 彼女は自分と同じだと――」


ハルはこの二人に警告を込めて語る事にした。

無論、馬鹿正直に全てを教える事はしない。

ナツの望む結末に近付くよう、あくまでも援護射撃だけを行うつもりだ。

そして例の設定を交えて、ナツとアデレイドの似た境遇を挙げていく。


子爵家跡取りとして必要な知識を詰め込むような教育を受けた事。

更には仕来りとして世界を旅して回らなければ、正式な跡取りとして認められない事。

前当主が急逝して、通常より五年も早く旅に出なければならなくなった事。


「確かによく似ている」


アンガスは、それが癖なのだろうか、腕を組み瞼を閉じて考えるようにして話を聞いている。


「違いがあるとすれば、それは本人のためか、それとも周囲のためかと言うところでしょう」


ハルは長い説明を終えて、いよいよ本題に入った。


「それは、我々の行いはアデレイドのためではないと言われるのですか」


さすがにカチンと来たのか、ハルを睨むように言い返すバーバラ。


「あなた方の神に誓って、違うと言えますか?」


「…………」


だが、ハルの鋭い切り返しに言葉を失くす。


「我々はナツ様の成長のために――それは、ゆくゆくはマクガヴァン子爵家の繁栄のためではありますが、ナツ様ご本人のためであるところが大きいのです」


多少設定を交えてはいるが、ナツに大きく成長して欲しいと言う願いが込められているのは同じである。


「翻って聖女様はどうでしょうか。 そこにダナ神教の権威を取り戻す以外の目的はありますか?」


「当然です! 我々は、そんな人でなしではありません!」


やはり反論するバーバラ。

だがその答えには、全く理屈が伴っていない。

感情だけだ。


「ナツ様は聖女様の事を『酷くチグハグだ』とおっしゃいました」


だから、いとも容易くハルに論破されてしまう。


「それはっ!?」


「現実を知らず、世間を知らず、一人では生きていけない人間を自分達の都合で作り出しておいて、人でなしでは無いとおっしゃるのですか?」


「…………」


最早バーバラは反論する事も出来ず、力なく項垂れるしかない。

そんな彼女に、ハルは更に言葉を重ねる。


「そもそもやり方に問題があります」


「…問題?」


項垂れたバーバラが顔を上げた。


「純粋培養されたその信仰は、一見堅固ですが、反面脆くもあります」


「…………」


思い当たる節があるのだろう、バーバラは目を伏せた。


「それは世間を知らな過ぎると言う事です。 現実を知り、自らの信仰に疑問を持った時、彼女は容易く堕ちるでしょう」


「…堕ちる? それはどういう意味でしょうか?」


「言葉通りです。 純粋故に高位であった。 それが堕ちたならば、深く魔に染まるのも道理です」


神話や伝説に時折現れる魔人、魔女。

それは人災と呼ばれる、災害の一つの形であった。


そこに思い至り、ぶるっと身を震わせるバーバラ。

黙って聞いていたアンガスも厳しい顔をしている。


「話はここまでにして、そろそろ二人を迎えに行きましょう」


そう言って席を立つハル。

その肩にはルナが乗っていた。

ハルは、すでにナツがこの近くにいない事に気付いている。


バーバラ達と話している最中に、急速に離れていくナツの気配を感じていた。

そして、ハルに指示を受けなくても、すでにユッピーがナツの後を追っている。


「キュ」


後はルナの誘導に従えばナツのいるところに着くだろう。

むしろ、バーバラ達二人に事情を説明しなければならない事に疲労感を覚えるハルであった。







「いやあああああ!」


ホールに響くアデレイドの悲鳴。

彼女はジョナサン大司祭に襲われている。

それに対するナツの行動は早かった。

一瞬の迷いも見せず、連弩を大司祭に向け、矢を放つ。

その狙いは過たず、(クォーラル )は大司祭の右腕に突き刺さった。


「ぐあああ!」


次いで、大司祭の悲鳴がホールに響き渡る。

しかし、そのために生じたナツの隙を見逃すほど、男達は優しくなかった。


「今だ! 押さえ込め!」


『応!』


ナツの周りを囲んでいた男達が一斉に飛び掛かる。


(…3…2…1…今だ!)


だが、それはナツも想定済みだ。

連射の利かない――従来のクロスボウに比べれば遥かに連射出来るのだが――連弩では、囲まれた状況では利点が活かせない。

そこでナツが取った手段は――


“…コロコロコロ”


“――ビカッ!”


『ぐわぁぁあああ!』


「目が! 目がぁああ!」


「見えねぇ! 目が見えねぇぇええ!」


――閃光弾だった。


全員の視線が自分に集中した瞬間を狙って、足元に閃光弾を転がしたのだ。

その効果は覿面だった。

屈強な男達は一人残らず目を押さえて転げまわっている。

少なくとも半日は彼らの視力が戻る事は無いだろう。


「アデレイド! こっちに来て!」


壇上に向かって駆け出しながら、ナツはアデレイドに指示を出す。

二人がバラバラになっていては彼女を守れないかもしれない。

そう思い、彼女を自分の傍へ(いざな )うが、それは叶わなかった。


「うふふ、逃がしませんよ、ナツモ殿。 バーバラを超える魔法の使い手たるあなたを、街のごろつき如きに押さえ込めるなどとは、初めから思っておりません」


ジーザイア司祭が勝ち誇ったように告げた。

壇上とナツの間には全身鎧を身に纏った騎士達が立ち(はだ )かっていたのだ。


騎士達はご丁寧にも巨大な盾を用意していた。

全員が全員ではないが、先程のナツの連弩を見ていたのだろう。

急いで用意した物に違いなかった。

盾を持った騎士が前面に立ち、徐々に距離を詰めて来る。


(あのフルフェイスの兜じゃ閃光弾も効果が薄いよね)


フルフェイス型の兜は視界が悪い。

しかしその反面、閃光弾のような視界に訴える類の効果を受け難いと言う利点があった。


万事休す。

事態は膠着状態に陥った。


否。

徐々にだが、ナツが不利になっていた。




アデレイドは自己嫌悪に襲われていた。

自分がナツの足を引っ張っている、その自覚があった。

ナツ一人だけなら、先程の隙に逃げ出せていた筈なのだ。


「ナツ様…」


涙でその顔を濡らしながらも、彼女はナツに頼るしかなかった。

今、何をしていいのか、自分に何が出来るのか、彼女は自分で判断出来ないのだ。


「おのれ…クソガキが…虚仮にしおって…」


ジョナサン大司祭が矢の刺さった右腕を押さえながら呻くように立ち上がった。


「絶対に生かしては帰さぬ。 ――だが、まずはお前からだ、アデレイド」


再度ジョナサンはアデレイドに襲い掛かる。

右腕の痛みを堪え、動く左腕でアデレイドの衣服を掴み、そのまま引き裂いた。


「い、いやあああ!」


恐怖から身動き出来ないアデレイドはジョナサンの為すがままだ。

悲鳴を上げるが、然したる抵抗も出来ずにいる。


(どうして? なぜ、こんな事になったの?)


彼女はナツとの幸せな未来を思い描いて神殿を出て来た。

二人で話し合い、お互いの理解を深め、想い合うために。

決して、こんな血走った目で睨まれ、衣服を切り裂かれ、辱めを受けるためでは無かった。


きっと、これは現実では無いのだろう。

彼女の意に添わぬ出来事ばかりの現実など、今まで一度として無かったではないか。

きっと、これは夢だ。

そうだ、悪い夢でも見ているに違いない。


(そう、これは夢。 朝起きたら、今度こそ本当にナツ様にお会いしに行こう)


――そして、二人で幸せになるの


自身の心の平穏のために、アデレイドは逃げた。

この厳しい現実から目を背けて逃げたのだ。




『我がダナ神様は「厳しい現実に立ち向かう者の助けと成れ」と言うのが教えですの』




それは、癒しの女神ダナの教えに反する行為だ。

人の助けと成るには、まず自分が現実に立ち向かわなければならない。

己に出来る事だからこそ、他者を助ける余裕が生まれ、説得力に繋がるのだ。

現実から逃げたアデレイドは、このままでは女神の加護を失う。




“ガアン!”




ホールに大音響が轟いた。

アデレイドが女神の加護を失う、その瞬間。

まさに、その寸前で彼女の意識を現実に戻したのは一発の銃声だった。


「ぎゃあああああああ!」


次いでジョナサンの悲鳴がホールに響いた。

ジョナサンは右足の膝から下を失い、血を撒き散らしながら転げまわっている。


ナツの両手には拳銃が握られていた。

右手の銃口からは硝煙が立ち昇っている。


(あ~あ、使っちゃった。 ハルお姉ちゃんには内緒にしないと怒られちゃうよ)


だが、已むを得まい。

己の勘が使えと囁いていたのだ。

今使わなければ、きっと後悔すると。


使用した銃弾はホローポイント弾。

銃弾の持つ衝撃を、高効率で標的に与える破壊力重視の弾だ。

人間の関節に当たれば、引き千切る事など容易い。


その光景に呆然と立ち竦む騎士達。

その隙を見逃すナツではなかった。


“ガアン!” “ガアン!” “ガアン!” “ガアン!”


立て続けに四発、騎士達の関節に向かって銃を放ち無力化する。

銃弾を喰らった騎士達は例外なく、膝から下を失い倒れていた。


我を取り戻し、ナツを囲もうとするが、もうそこにナツはいない。

銃弾の犠牲者によって生じた抜け道を駆け抜けて、さっさと包囲網を突破していた。


“ガアン!” “ガアン!” “ガアン!”


更に拳銃を撃ち放つ。

その度に騎士は倒れ、数を減らしていった。


足を使い乱戦に持ち込んだために、盾が意味を成していない。

盾を持たない騎士の、がら空きの関節を狙い、銃弾を撃ち込んでいく。

その数が五分の一になる頃には、騎士達は戦意を喪失し降参していた。




しかし、それで戦いが終わった訳では無かった。


「まだです。 まだ私は諦めませんよ。 むしろ、ますます惚れました。 必ずナツ殿を私の物にして見せます」


我に返ったジーザイアが、新たな騎士達を呼び寄せていたのだ。

数は先程の倍はいるだろうか。


先程は虚を突かれ、戦いを有利に進められてしまったが、本来このフルプレートアーマーは拳銃に対して有利な戦法である。

ホローポイント弾は衝撃が凄いので無傷と言う訳にはいかないが、正面から襲い掛かる限り致命傷を負う事は無いのだ。

況してナツには、彼らを殺す気が無い。


再び窮地に追い込まれたナツ。

呆然自失で動けそうにないアデレイドを救うには、この場の全員を行動不能にするしかないのだ。


(でもなあ、この人達を真正面から倒せる武器となると、あれしか…でも黙って使ったのがバレたら、お説教じゃ済まない気がするんだよ)


この期に及んで、ハルに怒られる事を恐れているナツだった。

だが、その心配は杞憂に終わる。

何故なら――




突如、騎士達の包囲網を軽々と飛び越えて、ナツの隣に巨大な影が現れた。


「ガルルルルル!」


低い姿勢で唸り声を上げながら周囲を威嚇する四足の獣。

巨大な虎が今にも飛び掛からんと騎士達を睨みつけている。




――ユッピーがナツを助けに来たからだ。


「ユッピー! 助けに来てくれたの!?」


「ガル!」


そうだ! と言わんばかりに一声吠えるユッピー。




突然現れた敵意剥き出しの虎に、騎士達は動揺した。

そんな騎士達にジーザイアは苛立ちながら叫ぶ。


「そんな獣風情に尻込みするなど、それでも誇りある神殿騎士ですか! 一斉に掛かりなさい!」


その言葉に、謎の武器を持った子供を相手にするよりマシと考えたのか、騎士達が動き出す。


「ユッピー! 来るよ、気を付けて!」


「ガルル!」


心配して声を掛けるナツだが、ユッピーは 大丈夫! と言った感じで一声吠えるだけだ。

そして自ら騎士達へと駆け寄っていく。


「ガアアアッ!」


ユッピーが駆けながら吠えた。


“――パリッ、パリパリッ”


同時に、何かが弾けるような小さな音が周囲に響く。


“――バリバリバリバリバリッ!”


その小さな音は、突如閃光を伴った空気を引き裂く大音響に変わり、周囲にいる者達を襲った。

この現象は…そう、雷である。


ユッピーは雷の精霊獣だ。

雷を自在に操る事が出来る、雷の化身なのだ。

全身金属鎧の騎士達など、いいカモでしかなかった。

しかも巧みにナツとアデレイドを攻撃対象から外している。


「み、耳が…」


しかし、音だけは如何ともし難かったようだ。


「やるならやるって言ってよ。 まだ耳がキーンとするよ」


「ガルゥ…」


ごめんね? とでも言っているのか、しょぼんとしたユッピーがナツの隣で座っていた。


「でも、助かったよ。 ありがとね」


お礼を述べたナツにユッピーは顔を上げる。


「ガウ!」


どういたしまして! とでも言っているのか、その姿は先程とは違い誇らし気だった。




魔法で回復したナツがアデレイドに近付くと、アデレイドは泣きながらナツにしがみ付いてきた。


「耳は大丈夫? 目も眩しくなかった?」


優しく背を撫でながら――いつもハルが自分にしてくれるように――アデレイドに話し掛ける。

こくこくと彼女は無言で頷きを繰り返すだけだ。


「怖かったよね。 好きなだけ――いっぱい泣いていいよ。 その間は、僕が傍にいてあげるから」


「ううう…ぐすっ」


背を撫でながらそう言うと、アデレイドはもう一度頷くと僅かに声を上げて泣いていた。







一頻り泣いたら落ち着いたのか、アデレイドはナツから離れた。

落ち着いて彼女を見てみると、その姿はとてもあられもないもので…

すぐに目を背けて自分のマントをポーチから取り出すとアデレイドに差し出した。

それで漸く自分の姿に気付いたアデレイドは急いでマントに身を包んだ。


「た、たいへんお見苦しい物をお見せしてしまいました。 申し訳ありません」


落ち着くと、何故か謝られた。


「い、いや、僕こそごめんね? 気が回らなくて…」


いえいえ私こそ、いやいや僕の方が。

そんなお互いが謝り合う時間が暫く続き、その後、お互いの顔を見て、噴き出して笑い合う。

そんなお約束をキッチリ果たし、今度こそ本当に落ち着いた。




騎士団や大司祭、司祭は気絶している。

手加減されたとは言え、ユッピーの雷を真面に喰らったのだ。

それも仕方あるまい。


「さて、それじゃみんなを治療してから帰ろうか」


「え?」


アデレイドが驚いて声を上げた。


「ナツ様を襲った彼らを癒すのですか?」


「うん、変かな? 騎士団の人達は大司祭や司祭の命令だったからだろうし、そっちの二人は、これ以上大事になると面倒臭いから」


街の中で大司祭と司祭が殺されたとなれば領主も動かざるを得ないだろう。

それこそ指名手配でもされたら後々面倒だ。

彼らには後でよーく言い含めておけばいい。


(丁度いい魔法もある事だしね)


治癒魔法と聞くと体に良い物ばかりのような気がするが、実はそうでもない。

身を守るためのものもあるし、攻撃のためのものも僅かながら存在する。

そしてナツは高等技の反転詠唱も行える。

トラウマを癒す魔法を反転すれば、相手にトラウマを与える事も可能になるのだ。


(僕らの事は諦めて貰おうっと)


大司祭と司祭を癒す際に、自分達に対するトラウマ植え付けるナツだった。

ナツとアデレイドの事を考えただけで震え、敵意を持ったなら(おこり )、近付けば失神、と段階を追って症状を厳しく設定した。

これでもう手を出そうなんて考えられなくなるに違いない。


騎士達の千切れた足や腕を治していると、アデレイドも加わってきた。

その姿を観察してみれば、成程バーバラより遥かに治癒魔法の効果が高い。

自分に匹敵するかと問われれば、よく分からないと答えるしかないが。


そもそもナツの魔法は“apostrophe”の力であって、自身の力ではないのだ。

勝った負けたどころか、比べる事自体が間違いなのである。

だからナツが思う事は一つだ。


(その力をみんなのために使って欲しいなぁ)


そう願ってアデレイドを見詰めていると、視線を感じたのか彼女が振り向いた。


(にっこり)


ナツの思いを知ってか知らずか、アデレイドは輝くような笑顔を見せてくれたのだった。







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