02-01 遭遇
旅を続けるナツとハル。
目的は未だに決まっていない。
そんな二人は途中、縁があって旅の仲間を増やしていた。
新たなメンバーは、栗鼠の姿をした月の精霊獣ルナと、虎の姿をした雷の精霊獣ユッピーだ。
ルナとユッピーは精霊獣なのだが、精霊を忘れて久しい人々に説明しても理解されないだろう。
故に、人に聞かれた場合は、ただの栗鼠と虎と言い張るつもりだ。
どうせ只人に判別など出来まい。
(その内、飽きて消えると思いましたが、中々粘りますね)
ここまで一緒に来たハルの感想だ。
中々酷いが、気紛れな精霊を的確に表しているとも言えた。
「あ! 河だー! よーし、ユッピー、競争だ!」
そう言って走り出すナツ。
即座に反応し、あっと言う間にナツを追い抜くユッピー。
端から勝負になどなりはしないのに、最近のナツは、よくこういう事をする。
(その分、よく笑うようになりましたね)
子供の情操教育に良いと言うアレだろうか。
(もしそうなら、ナツにとっては良かったのかもしれません)
そんな事を考えつつ、ルナを肩に乗せてナツを追うハルであった。
河で水遊びをするナツとユッピー。
そこにルナが加わった。
ナツの着替えを出し終えると、淡々と食事の用意を始めるハル。
ハルが食事の準備を終えるとナツが水遊びに満足して戻ってきた。
「あー、楽しかった」
「グルル」
「キュ」
ルナとユッピーも同じ意見らしい。
「それは良かったですね」
知らない人が聞いたら、拗ねたか嫌味を言ったと思うような声音で告げるハル。
だが、ハルはこれが素なのだ。
そこに言葉以上の意味は無い。
ナツの着替えを手伝い終えると宣言する。
「さあ、食事にしましょう」
「はーい」
「グルゥ」
「キュ」
(この旅も、随分と賑やかになったものですね)
ナツが楽しいのなら、それもまたよし。
どこまでもナツが基準のハルであった。
「このような大河があると言う事は?」
「街が近い!」
「はい、その通りです」
水は生活必需品だ。
人の営みは必ず水と共にある。
無論、それだけが理由ではないが、水のある所に人が住みやすいのは確かだろう。
そして、街を目指して来たナツ達だ。
そこに、このような大河があるとなれば、街が近いのは間違いない。
過去の経験から、街に対して後ろ向きなナツだったが、ユッピー達のお陰でそんな事はすっかりどこかに飛んで行ってしまったらしい。
こんなところにも精霊獣効果が表れていた。
彼らの旅は、順調に進んでいた。
ここまでは。
「あれ、何だろう?」
街まで恐らく、後一日二日と言った距離まで来た所で、ナツが疑問の声を上げた。
ナツの視線の先では、砂埃のような物が立っている。
林と街道の境界線のようだ。
林の先は森だろう。
「どうやら、キャラバンが魔物に襲われているようですね」
ナツの視線の先をじっと見ていたハルが告げた。
相変わらず目がいいハルだ。
「大変だ! 助けなきゃ!」
即断即決。
救助を宣言するナツ。
無論ハルは、ナツの決定に逆らう事は無い。
しかし、今回は一言あった。
「ナツ、銃器類の使用は厳禁ですよ」
この世界に存在しない筈の武器類を、こんな大きな街の近くで堂々と晒す訳にはいかない。
銃器の使用を禁止すると念を押すハルであった。
「う…分かった。 この連弩なら、いいんだよね?」
「はい、それなら結構です」
そのため、こんな時に使える武器を、ナツには予め渡してあった。
弾倉を備えた小型の弩、連弩である。
機械式で矢を自動装填してくれる優れものだ。
「よし、ユッピー行くよ!」
「グルルル」
早く乗れと言わんばかりの態勢で待っていたユッピーに跨るナツ。
ナツを乗せたユッピーは、猛スピードでキャラバンへ向かって走っていった。
「オークの群れ如きに今更後れを取るナツではありません。況してユッピーもいる事ですし、ゆっくり行きましょう」
「キュ」
そんなハルの肩では、賛成!とでも言わんばかりにルナが声を上げていた。
それは、大きなキャラバンだった。
大型の馬車が三台に小型の馬車が四台、計七台の隊列である。
それがオークの群れに襲われていた。
「よし、この辺でいいよ。 降ろして」
「グルル」
「僕はここから連弩で撃つよ。 ユッピーは無理しない程度に連中を追い払ってね」
「グル!」
了解! と言った感じでユッピーはオークの群れに飛び込んでいった。
ユッピーにとって、あの程度の群れは無理でも何でもないらしい。
「よーし、僕もやるぞ!」
気合いを入れてオークを射る。
“バシュッ”
“キリキリキリ…”
“…カシャン”
「えい!」
“バシュッ”
“キリキリキリ…”
“…カシャン”
「…………」
“バシュッ”
“キリキリキリ…”
“…カシャン”
(お、遅い…)
試し撃ちでは一発で獲物を仕留めていたので気にならなかったが、連射が必要な事態にこのテンポは焦れったかった。
(やっぱり銃がいいよう、ハルお姉ちゃん~)
そのハルお姉ちゃんは、ゆっくり歩いて来ている最中である。
この場に着くのは、戦闘が終わった直後であろう。
計算され尽くした速度であった。
それでも着実にオークを仕留めていくと、その場に別の馬車と護衛と思われる騎士達が現れた。
立ち所にオークを蹴散らしていく騎士達。
ハルは、まだ着いていない。
乱入者により計算が狂ってしまったようだ。
「グルルル」
何時の間にかユッピーが傍に戻ってきている。
キャラバンの人達は騎士達にお礼を言っているようだ。
ナツは離れた所にいたので気付かれていないのだろう。
「どうやら無事みたいだから、僕らは戻ろうか」
「グル」
その場を離れる判断をするナツだったが、騎士の一人がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
どうやら、ここから動く訳にはいかないようだ。
騎士が近付くにつれて思わず身構えるナツだが、騎士から掛けられたのは労いの言葉だった。
「そう警戒しないでくれ。 見事な腕だね、坊や」
そう言って面当てを上げた騎士は、四十歳前後の男性だった。
その騎士はアンガスと名乗った。
ナツも名乗り返すべきかと思い、言葉を口に乗せようとする。
しかし、その時にキャラバンから悲鳴が上がったために中断してしまった。
「何!? まだオークが残ってたの!?」
「…いや、これは恐らく」
そう言ってアンガスと言う騎士はキャラバンへ向かっていってしまった。
取り残されたナツは、今更戻る気にもならなくて、仕方なしに騎士に付いていった。
「誰か! 誰か、ベニーを助けて!」
そこにはオークにやられたのか、血塗れの女の子と助けを求めて声を上げる母親らしき女性がいた。
周囲の人間は、皆顔を背けている。
もう助からない。
その顔が告げていた。
「僕が――」
ナツがそう言いかけた時、背後からナツを押し退けて来る人がいた。
「はい、どいてどいてー」
それは、ハルよりも年上の女の子だった。
一般的に言えば、まだ少女と言える範疇だ。
その少女の後ろから、更にもう一人の女性が来る。
その女性は、トウが立つと言ったら怒られてしまうだろうか。
それくらいの歳に見えた。
少女が道を開け、女性が通ると、瀕死の少女の傍らにしゃがみ込んだ。
そして何やらぼそぼそと呟いている。
「魔法だ! あの子は助かるかもしれない」
キャラバンの誰かが言った。
周囲で見守る人達の顔に安堵の色が広がる。
「いや、無理だ。 怪我が酷過ぎる、あの子は助からないだろう」
ナツのすぐ傍で否定の声が聞こえた。
幸い、その声は小さく、周囲の雑音に紛れたが、この場で言っていいセリフでは無かった。
その言葉を発したのは、あのアンガスと名乗った騎士だ。
魔法の呪文を唱える女性のコートと同じ紋章を付けた外套を身に纏っている。
「あの人は、おじさんの仲間じゃないの?」
ナツの口から疑問が零れた。
その声が耳に届いたのだろう、アンガスはナツに向き直ると言った。
「私が守るべき司祭様だ。 無論、尊敬しているし、大事な仲間だ」
酷く真面目な顔でそう告げた。
「なら何で否定するの?」
ナツが想像していたのとは正反対の言葉を告げた騎士に、更なる疑問が沸き起こった。
「否定した訳では無い。 ただ事実を述べたまでだよ」
その言葉を証明するかのように、周囲から落胆の声と悲鳴が上がった。
ナツが振り向くと、司祭だと言う件の女性は肩で息をしていた。
しかし、血塗れの少女の目は開かない。
息をしているのかすら判らない。
キャラバンに絶望が広がった。
「どいて、僕にやらせて」
ナツは、その女性の脇に立つとそう宣言した。
「何このガキ、司祭様に対して失礼ね!」
そんな声が聞こえたが、まるっと無視すると、ナツは血塗れの少女に向かって手を翳し詠唱を開始する。
「“apostrophe” お願い、癒して――」
ナツの眼が青く光る。
「――“快癒”」
数秒後、キャラバンに歓声が広がった。
とりあえず、更新。
終わりまで書くのを待つと長そうなので。
次回更新日未定。




