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ルナとユッピー

「ナツの武装を代えましょう」


旅の途中、ハルが突然そんなことを言い出した。


「な、なんで…?」


何か不手際でも起こしただろうかと不安になるナツ。

いや、今までの事を考えれば不手際だらけと言えるのだが、年齢を考えれば充分に及第点だろう。

本人だけが、それに気付いていない。


「そんな情けない顔をしないで下さい」


「だって…」


そっとナツを抱き締めながら言葉を続けるハル。

ナツは不安からか、抱き締めるというよりも、ハルにしがみ付いている。


「この先には、しばらく人里がありません。 しかし、その先には大きな街があるのです」


「街? バイロン村の前に寄ったような?」


ナツが知っている街と言えば、あそこだけだ。

あまりいい思い出が無い――はっきり言ってしまえば、悪い思い出しかない――せいで、街と聞くと身構えてしまうのだ。


「あれとは比べ物になりません。 今度の街は、領主自らが治める街ですから」


前回寄った街は領主の配下、男爵の治める街であった。

街としては充分に大きいのだが、伯爵――領主――が自ら治める街とは比べ物にならない。

領主が治める街とは、領主にとって言わば己の権威の象徴と言えるのだから。


「それと僕の武装にどんな関係があるのさ…」


不貞腐れ気味にナツが話を戻す。


「簡単です。 目立たないように、です」


実に単純な理由だった。


「でも僕、剣とか使えないし…」


そう、ハルと過ごした五年間。

あらゆる才能を引き出そうと、ハルはナツに様々な訓練を行った。

それでも、いっそ見事と言えるほどに近接戦闘に才能を見出せなかったのだ。


最もその分、射撃や射出武器には人並み外れた才能を見せた。

特に拳銃との相性の良さはズバ抜けており、拳銃さえあれば接近戦にも耐え得るのだから不思議と言うより他に無い。


閑話休題。


不安を隠し切れないナツに、ハルは優しく諭すように言う。


「そこで、これの出番です」


そう言って手にしたのは、いつも肩から下げているバッグだ。

ハルはバッグに手を入れてキーワードを口にする。


「検索――この世界の技術力で作れるナツ向きの武器、“a”から順番に」


そう言いながら、バッグをがさごそと(まさぐ)っている。

暫くすると、その動きが止まった。


「hit――」


そして“ぱぱらぱっぱぱー”と言う効果音が聞こえて来そうな手付きでソレを出した。


「“連弩リピーティングクロスボウ”」


それは一言で言うと《弾倉付きの弩》であった。


「なるほど、火薬が無いから弓。 その上で銃のような連射を可能にしたと言う事ですか」


何やら一人で納得しているハルを、ぽかーんと眺めているナツ。


(いつも思うけど、あの鞄の中ってどうなってるんだろう)


そんなナツにハルは連弩を渡して言う。


「ナツ、これからは人目のある場所では、これを使うように」


「はーい」


と言う訳で、街までの間、慣らしを兼ねて連弩で狩猟をするナツであった。







連弩の練習は順調であった。

使用する(クォーラル)はダーツ並みの小ささだし、連弩自体も非常に小型で、ナツのような子供でも取り回しが楽に行えた。


「今夜は、ここで休みましょう」


「これ何?」


数日後、ハルとナツは森の一角で一夜を明かす事になった。

普通は森で夜を越すなど自殺行為なのだが、この二人には通用しない。

もっとも今回は、それだけが理由でも無さそうであった。

いかにも意味有り気な碑が傍にあるのだ。


「これは祭壇です」


「祭壇?」


「はい。 太古からこの世界を治める精霊を祀る祭壇です」


「その割には寂れているけど…」


「しかし、この祭壇は生きています。 その証拠に野獣はおろか魔獣すらここには近付きません」


つまり、ここなら変な手を加えなくとも獣に襲われないと言う事らしい。

納得したナツは、ハルを手伝って野営の準備を始めるのだった。




やがて夕飯の準備が整うと、ナツが今までに無い行動に出た。


「ナツ、何をしているのですか」


「うん、せっかくだから精霊さんにお裾分け」


ハルに答えながら、祭壇にお供え物――肉とシチュー ――を置くナツ。


「物好きですね」


「えへへ~」


会話は終わり、食事に集中する二人。

無言だが、心地よい時間に身を置く。


変化はその後、深夜になってから起きた。







(何か眠れない)


何故か目が冴えて眠れないナツである。

何度も寝返りを打ち、もぞもぞと動いていれば過保護なハルが気付かない訳もなく…


「眠れないのですか?」


「あ、ごめんね。 起こしちゃった?」


「気にする必要はありません。 それより、どうしたのですか?」


「うん、なんだか目が冴えちゃって…」


ナツは、申し訳なさそうに告げる。

無論、そんな事で怒るようなハルでは無い。


「では、何かお話でもしましょうか」


そう言いながら、ナツを自分のマントで包み込む。


「じゃあ、精霊のお話して欲しい」


「私も詳しくは知りませんが、それで良ければ――」




精霊は大きく二つに分類される。

即ち、動と静。

または表と裏。

それは更に各々四つに分かれる。

動は“陽”“炎”“風”“雷”

静は“月”“湖”“地”“樹”

これを以て八大精霊と言う。


精霊は万物に宿る。

故に実際には更に細分化されるのだが、それらは何れも八大精霊の眷属として扱われる。


かつて人は精霊と共にあった。

精霊を敬い、精霊の力を借りて人は営みを続けた。


だが、いつしか人は精霊を忘れた。

精霊に頼らなくとも生きていけるようになったからだ。


それは神々の台頭。

人々の中で、より力を持つ者は位階を昇り超越者となった。

超越者は更に力を得るために、人々に直接力を分け与え信仰を集めた。

宗教の始まりである。


その陰で精霊は人々の記憶から忘れ去られ、そして姿を消していった。




「何だか悲しい話だね」


「そうですね」


「精霊は姿を見せなくなっただけで、まだいるんでしょう?」


「はい。 そこの祭壇が生きていますし、私の使う魔術も精霊に力を借りています」


「え!? そうなの?」


「はい。 私の魔術は、既存の魔術と精霊魔術のハイブリッドなのです」


――精霊魔術は、人々に忘れられて久しいですけどね




そんな話をしていると、漸くウトウトとし始めるナツ。

夜のお話もこれでお開きかと思われた、その時――




突如、膨大な魔力がその場を包み込んだ。




突然の事態に身動き出来ないナツ。

すぐにナツを抱え込み、周囲に気を配るハル。


「――獣はもちろん、人や魔獣の気配もしません。敵と呼べる者はいないと思いますが、そこを動かないで下さいね」


「うん、分かった」


慎重に周囲を伺うハルに対し、ナツはマントから頭を出してキョロキョロ顔を動かす。


「あれ?」


何かに気が付き、声を上げるナツ。


「どうしました、ナツ?」


「うん、あれ何?」


ハルが訝しみながらナツの視線を追うと――


頭に栗鼠を乗せた虎が祭壇の上にいた。








栗鼠と虎はナツとハルの警戒を解くようにゆっくりと二人に近付いた。

すぐ傍まで来ると栗鼠は、その円らな瞳でハルを見上げ、虎はナツに向かって頭を垂れた。


「僕らに用があるって事でいいのかなあ?」


「そうですね。 私達に仕えたいと言う事でしょう」


「仕える? 何で虎と栗鼠が僕らに仕えたがるの?」


「見た目こそ虎と栗鼠ですが、この子達は動物ではありません」


どう見ても虎と栗鼠に見えるのだが、実際は違ったらしい。


「この子達は精霊獣です」


そう言われて「ああ、そうなんだ」と理解できる者は少数だろう。

当然ナツは疑問を口にする。


「精霊獣って何?」


「精霊が実体を持った姿と言われていますが、はっきりとは判りません。 さっきも言ったように、人間が精霊との関係を断って久しいのです」


過去の関係が古過ぎて、文献も殆ど残っていないらしい。


「じゃあ、もしかしたら、お供えを気に入ってくれたのかもしれないね」


「…あり得ます」


精霊はシンプルなのだ。

それ故に、深読みして儀式を失敗した事もあったと数少ない文献には記載されていた。


「ハルお姉ちゃんのご飯は、いつも美味しいもんね」


(あら、お世辞が上手くなったものですね)


ナツの言葉は本音ではあろうが、ハルは別の狙いもあると看破していた。


「ハルお姉ちゃん、この子達連れてってもいい?」


案の定である。

とは言え、これに否と答えるほどハルは狭量では無い。


「気に入らなくなれば勝手に消えるでしょうし、害は無いと思われます」


随分と遠回しな言い方だが、許可が下りた。

栗鼠と虎もピクリと反応する。


「やったー! じゃあ、名前! 名前決めなきゃね」


「キュ」「グルゥ」


栗鼠と虎も賛成のようだ。

ナツは、うーん、うーん、と悩みだした。

そして思い出したようにハルに問い掛ける。


「そう言えば、この子達は何の精霊なんだろう?」


「月と雷です」


あっさりと答えたハルにナツが吃驚する。


「何で判るの!?」


「私は精霊魔術も使えますから、判別は可能です」


先程は突然の事態に警戒が先に立ったが、害が無いと判れば状況を把握するのは容易であった。


「この栗鼠は私に懐いているようなので、私が決めますね」


「うん、分かったー」


「では月の精霊なのでルナと」


「キュ」


「わ、あっさり。 しかも気に入ったっぽい返事まで…」


ふと気になって虎を見ると、期待に満ちた眼差しと目が合った。


「うわあ、プレッシャーが…」


その後、悩む事数分。

ナツがぼそりと呟いた。


「…ユッピー」


それを聞いた虎はキョトンとしている。

まあ、無理も無い。


「ナツ、その名前の由来は何ですか?」


ハルが見兼ねて助け舟を出す。


「えっと、強くて雷でって考えた時に浮かんだのが雷撃砲だったんだ」


「ああ、なるほど」


「雷撃砲の名前がユピテルサンダーなんだけど、長いから縮めたの」


「それでユッピーなんですね」


「うん」


それを聞いて納得したのか、虎改めユッピーがナツの顔を舐めた。


「グルゥ」


「どうやら了承したようです」


「よかった~」


ほっと胸を撫で下ろすナツであった。




こうして、月の精霊獣ルナと雷の精霊獣ユッピーが二人の旅に加わった。







 

閑話その2

本文向きの話じゃないので、ここに。


精霊獣がリスとトラなのは、深い理由はありません。

決してリストラされそうとか、そんな事は無いです。

本当ですってば。

 

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