第1話 一目惚れ
新ストーリーです。よろしくお願いします。
俺は松坂奏真。19歳で、今年そこそこ有名な大学、SN大に入った。(磁石の研究はしてないからな)。とは言っても地元なので家から通っている。で、今日は休日なのだが、俺が入っているサークルの催しで、紅葉狩りに来ている。……もうすでに木の頭が寂しくなりかけているが。寂しい木々を見回し、溜息が出るのは仕方の無いことだと思う。
何故こんな山奥なのかとか、何故もっと早く来なかったのかとか、何故人の所有地をわざわざ使うのか。サークル長に聞きたいのは山々だが、まあ、良い。あのサークル長だ。いろいろと準備でもしていたのだろう。このサークルはものすごく少数で、一人一人の個性がものすごく生かされる。活動内容は追々話すとしよう。
ただの学生生活の思い出作りだったのに、俺はここでとんでもない出会いをしてしまった。そう、それこそ、運命の出会いを。
◇ ◇ ◇
私は鷲谷蛍子。18歳で、今年超有名大学に推薦で入学しました。少し遠くなので、電車で通っています。今日は、休日でサークルの予定もありません。のんびり私有地の山を散歩していました。随分と秋も深まり、落ち葉も落ちきっていました。秋の日差しが遮るものなく直接地面に届きます。今日も良い天気ですね。暖かくはありませんが。
家はこの山の麓にあり、この山は我が家の私有地です。私の家は鷲谷財閥と呼ばれ、国を代表する大企業の一つです。言っちゃうとお金持ちです。私の将来は確定していないのですが、父さんと兄さんの手伝いでもしようかと考えています。
いつも通りの散歩だったのに、私はここでとんでもない出会いをしてしまったようなのでした。そう、まさに、運命の出会いを。
◇ ◇ ◇~奏真視点~
「ううっううぅぅ」
「だ、大丈夫ですよ!焼けば味は同じですから」
「でもおぉぉ」
「ほら、準備しちゃいましょうよ」
頭の横の空間に『ずーん』とある気がするサークル長を、女陣が必死で慰めている。サークル長は女性である。そのステイタスには、ある種の男性にはポイントとなるドジッ子が付いている。だが、ここまでくるとドジッ子という可愛い物では済まされない。
どうやら、予想通りサークル長がサプライズを用意していたらしい。
サークル長は、バーベキューの準備をしていたようだ。彼女の運転してきた車にはたくさんのバーベキュー用品が積まれていた。肉や、野菜類、飲み物まで準備されていた。準備されていた(大事なことなので二回言いました)。 ただ、どんな道を通ってきたのか、ぐっちゃぐちゃになっていた。それはそれはすさまじい有様だった。
端っこに組み立て式コンロが倒れていて(何で車の中で組み立ててあるんだ)、食料の入っていた発泡スチロールは横倒しになり中身が飛び出し(何でふたをしていないんだ)、包丁が床に刺さり(普通食料は切って持ってこないか?っていうか、持ってくるならカバーをしろよ)、飲み物は散らばっていた(液体が容器に入っていただけましというべきだろう)。
突っ込みどころだらけなのはおいといて、これでは準備までしばらくかかるだろう。俺たち男陣は女陣がサークル長を慰めている間に、サークル長の車から、コンロ、折りたたみ椅子or机、食料、その他諸々を手早く外に出し、セッティングする。車には包丁の刺さったあと以外残っていない。我ながら良い仕事をしたと思う。
「ほら、ちゃんと綺麗にセットできますから」
「男の力仕事のあとは、女の料理です」
「みんなお腹すかせています。さあ、がんばりましょう!」
「うん!ありがとぉ~!」
サークル長がやる気を出したようだ。もう安心だろう。ここは女に任せよう。料理は野郎が作るより女が作るのが良い。それはどの国でも共通認識だろう。
俺は少し気分転換に散歩をしてくると言って、その場を去った。決してサボりではない。
ただ「ほ、包丁何処!?」どんがしゃがちゃ。騒ぎに「「「サークル長………」」」巻き込まれ「大丈夫ですかー!?」たくない「やっちゃった~!」だけである。
決してサボりではないので安心してほしい。
俺は森の中に入っていった。外はまだ明るい。獣道だが、方向感覚はあるので問題ない。
息を吐くと、白くなって出てくる。ひんやりと冷たい風がほおを撫でる。行儀が悪いが、ポケットに手を突っ込む。
ザクザクと枯れ葉を踏む音を聞きながら、森の中を進んでいく。やはり人の私有地だからか、人が少ない。時たますれ違う人たちは、みんな作業着でこの山を整備するために雇っている人としか思えない。きちんと整備されている分、人気が無いのに違和感を感じる。客を呼んだらどうだ。きっと儲けるだろう。ここは他の山に比べ、緩やかで低い。1~2時間歩けばすぐ頂上にたどり着ける。うん、絶対に儲けるな。やった方が良い。
―――― ザク。
俺は思わず足を止めてしまった。驚いて、目を見開いた。
そこには、女性がいた。それも、かなり綺麗な人。横を向いているが、横でも十分分かる。まっすぐに伸びたセミロングで艶のある髪。垂れ目の大きな目で左側に泣きぼくろがあるのが特徴的だ。白い膝丈ダッフルコートに茶色のロングブーツ。背は平均よりも少し高めだろうか。のんびりで温厚そうな印象を受ける。黒髪黒目の純日本人で、大和撫子という言葉を人物化したような人だ。
彼女は、まわりの木より、遙かに大きい木を見上げていた。すると気付いたのか、不思議そうにこちらを見る。
ああ、やばい。心臓がはじけそうだ。
俺は、この人に
一目惚れをしてしまった。
◇ ◇ ◇~蛍子視点~
この木は、確か大昔の人が、ある願いを込めて植えたと聞いています。山で一番大きく、歴史ある木です。ここのそばに来ると不思議と落ち着くのです。
――――ザク。
足音が聞こえました。そちらを見ると、男性が驚いた顔をして私を見ています。
彼は、ワイルド系で厳しそうな顔のイケメンでした。少々長めに切られた髪は、もともとくせっ毛なのか、あちこちにはねています。釣り目で、濃い焦げ茶の目と髪。茶色のジャケットと紺色をした細身のパンツ。背が高くて、顔と合わせてものすごい圧迫感があります。でも今は驚いた顔で、圧迫感が緩んでます。
とくり、と心臓が鳴り響きました。
私は、この人に、
一目惚れをしてしまったようです。