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        02

才能というのは何処で買えますか  (;_;)                   

それはどう見ても不審な三人連れだった。


白髪交じりの中年男と育ちの良さそうな少年は欧州人で、頑張れば親子に見えない事は無いが、そこに東洋人の若い娘が加わると途端に何者か判らなくなった。

尤も、三人はまともな旅を出来ない身を承知して居た為、大半を徒歩だし国境も山越えのルートを取っていて人目につく事は多くは無い。

開けた土地は避け山を縫うように進んでいた。


「今の処は良いが、アルバインを囲むポーランドとリトアニアの国境越えは厳しい事になるだろうな。」

今はポーランドとベラルーシの国境を付かず離れず進んでいたが、最終的には決めなくてはならなかった。

国境の原生林は良い隠れ蓑になった。

ウィーンを出て既にひと月以上が過ぎていて、アルバートはすっかり旅慣れて小汚い小僧以外には見えないが、脚も達者で厳しい旅にも一言の不満も口にしない。

ウイルは此処まで仕込んで呉れたキッドに感謝していた。


「首都はバルト海に近いケーニヒだ、おそらく上も下も囲まれているだろうから最短距離を狙ってみる。

こちらの味方のアルバイン軍も出張って来る筈、とにかく入ってしまえば何とかなる。」

「王宮か城かは知らないが出来ればそこまでは届けたいな、はっきり言って文官も軍人も当てにはしたく無い。

いよいよとなれば私が引き付ける隙にお前が抱えて突っ切れ、私では誰が味方か判らないからな。」

無造作なキッドの言葉に眼を走らせる。

「それは最終手段だ。明日はフロドナの街に降りてくる、連絡の確認と食料を仕入れて来るが何か居る物は無いか?」

「匂いの少ない石鹸とタオル。」


九月の終わりの森は肌寒く、すぐに訪れる長い冬に備えて葉を落とし始めていた。

小さな焚火の横で眠るアルバートからキッドの横顔へ視線を移してウイルは微笑んだ。

ろくに身体も洗えない野宿ばかりの旅でもキッドの美しさには何の変化も無い。

痩せたのは三人とも同じだろうが。



翌日、街から戻ったウイルは石鹸と朗報を持ってきた。

「ルドヒア皇子がアルバインを落ちた。国民が立ち上がったぞ。これでアルバート様が堂々と帰れる。」

だが、

「ウイル、連れて来たぞ。」

言い様アルバートを掴んで跳ね飛んだ。

其処に振って来たのはボウガンの矢。

突き刺さったそれを見る前、風切音で跳んだウイルの姿が掻き消えた。


瞬く間に片付けた男は奪ったボウガンをぶら下げて現れた。

「生かして捉えようとしている。」

アルバートだけではなく。

その狙いに気づいた男は内心でギリリと歯を噛み締めるが、キッドは平然と鼻で笑っていた。

「お前でも油断をするんだな、今の顔は見ものだったぞ。」

「済まない、これで・・・」

「ああ、これで場所が割れた。一気に突っ切るか?」


今までの旅が無事に済んだのは広い東ヨーロッパの山に紛れて居た為だった。

だが、いったん場所が知れたなら動きは判り易い。どちらにしても行く場所は決まっているのだから・・・

後はスピードが総てだった。

アルバートをウイルが背負い、その後ろをキッドが護りながら原生林を走り抜ける。

ウイルは確かに脚は速かったが長くは持たなかった。

それは正規の軍人として訓練されたキッドとは格段に違う事実。すぐにキッドが変わりウイルが後ろに着いた。

走って走って走る



「さすがに軍人は違うな、こんなに細いのに脚力は大した物だ。」

「ふん、三月も走っていればこんなものだ。」

フル装備に小銃まで持って走り続けた経験は思わぬ処で役に立つ。

休むのも早足でこなしながら夕方まで駆け続けた。



「アルバート様は気配を殺すのが上手いな、キッドに習いましたか?」

夜、目立たない小さな焚き火を囲んでいる時ウィルが尋ねると、少年はどこか自慢げに頷いた。

「ウイルが出てからずっとキッドが教えてくれた、現状では一つでも身を護れた方が良いからと。誰にも秘密でね。」

「脚も強くなったし、何より余計な声をたてないのは良い事です。」

褒められたのが嬉しかったのかアルバートが頬を染める。

「泳ぎも習ったんだ、潜るのも出来るよ。」

ウイルの動きが止る。

横目で見ると澄ました表情のキッドと眼が合った。


「・・・なるほど、手の内は明かさないか私はすっかり騙されたようだ。得物さえあれば脱出も可能だったな。」

「ざまあみろ、これだけが言いたくて来たようなモノだ。」

黙っていれば大輪の華のような圧倒的な美を誇るのにとんでもなく口が悪い。

カジノではそこまで判らなかったが。

不意に笑いがこみ上げて来た。

この数年、いや物心がついて以来こんなに笑った事は無かっただろう。

腹を押さえて声を殺して笑う男を、キッドは胡乱気にアルバートは心配そうに見つめていた。




「おい、奴等の財源はどれほどあるんだ?」

三日のうちに四回の襲撃を受け、それを躱しながら走るのは相当にきつい。

さすがのキッドも泣きが入る。

「傭兵崩れが多い、あぶれ者なら端た金で請け負うだろうが・・・キリが無いな。」

最初のうちはキッドの美貌に欲をかいていた筈だが、もうすでにそんな余裕もないらしい。

アルバートの命を奪う本来の目標に立ち返り刺客は容赦が無かった。


アルバインまで後数キロを残して五回目の攻撃を受けた時は三人ともぼろぼろになっていた。

「今回は多いぞ、総力戦か。」

「アルを隠せ、ケリを着けてやる。」

沢の近くの茂みに押し込んだウイルが振り向くと既にキッドの姿は無い。


小銃の連射音が響き男達の声が飛ぶ。

ウイルはにやりと笑った。殺し屋には音は誘う声だった。

気配からして十数人はいるが樹木の影や草むらを利用して倒して行くと、じわじわと恐怖が広がって行くのが手に取るように判る。

「ペーター! 何処だ!」

「馬鹿、黙れ。」

「奴は死んだぞ、俺は降りる。まるで悪魔だ・・・」

と、立て続けに発砲音が響いた。いきなり静まり返った森からキッドが滑るように姿を現した。

「・・・銃の腕もさすがに良いな。」

「当然だ、G倶楽部を舐めるな。」

確かにどれも頭を撃ち抜かれた死体は腕の確かさを示していた。

「スカウトしたいぐらいだな。」

「・・・・・・行くぞ。」



転がり込むように国境を抜けると脚を緩める事も気を抜く事も無く走り続け、夜半になって小さなだが美しい城を眼にしていた。取り巻く城下町はささやかだったが、絵の様に綺麗な街。

アルバートの頬が誇らしげに上気している。

「さて行こうか。」






総てが上手く収まったのを確認して二人がアルバインを後にしたのは十月も半ばだった。

北の国は既に時折雪をちらつかせていたが本格的な冬が訪れる前にキッドは帰りたかった。

あれからもう一年近くが経っている。


「なぜベルリンが良い? ワルシャワの方が近いが。」

ウイルはアルバートに今後のボディガードを依頼されたがそれを蹴っての帰国となった。

もっとも何処に帰るのかは判らないが。

キッドもアルバインから連絡するように言われたが断っている。

日本軍が関わってはまずいぐらいは心得ていたからだが、今は少し後悔していた。

相変わらず山の中を二人で歩いているのだ。


「ベルリンには軍事外交官がいる。話が早いからな。」

「なるほど、ClubGか。」

舌打ちをしてキッドが尋ねた。

「お前はなぜ残らなかった、良い就職先だろう。」

「私が居てはいずれ迷惑が掛かる、今は良いがな。それに宮仕えは性に合わない。」

何となく解かる様な気がした。

「まだ殺し屋を続けるのか?」

「そうだな・・・日本軍を首になったら一緒に組まないか? 君なら一流になれる。」

冗談とも言い切れない響きがあったがキッドは鼻で笑った。

「殺し屋にスカウトされても嬉しくは無いな。」



今は守らなくてはならない対象が無いだけ気楽な旅だった。寒さは厳しいが二人とも仕事上脚は達者だったし、襲撃も無い・・・筈だった。

襲われたのはポーランドも半分を過ぎてから。

完全な油断だった。

何故ならそこには殺気は無く、冬に備えて得物を狩る猟師の只中に入り込んで居た為だった。

散弾を浴びたのはウイル、それでもとっさに身体を捻ったお蔭で腰の一部だけで済んだのだが、キッドが引きずって逃げたのには今は表沙汰には出来ないからだった。

「私たちは他国人だ、大事になるぞ。」

騒ぎが大きくなるのを望まない習性が二人を隠れさせた。


夜まで待ってウイルの処置を済ませるがキッドの腕では取り出せない弾が二発残ってしまった。

「済まない、私では無理だ。早く医者に行こう。警察に捕まっても死ぬより良い、私も一緒にい・・」

「駄目だ、それよりベルリンの方が良い。あそこなら私の身分証も有るし・・散弾なら問題ない、動ける。」

「・・・・解かった。」


それは思ったより辛い行程となった。

この時期には滅多に無いのだが雪では無く雨が降り出したのだ。

避ける為に斜面を下り川の橋桁の下に入り込んだ。

小さな火を起こし身体を寄せ合って暖を取る、一晩を過ごすと二人とも浮浪者の様になってしまった。


「ひどい格好だ。」

「お前こそ・・・あと少しだ、行こう。」

ちらつきだした今度は雪を衝いて歩き出す。

国境を越えた時には眼も当てられない姿になっていた。

ベルリンの街は薄く雪化粧をしていたが二人とも気にもしなかった。

早くウイルのアジトに辿り着かなくてはならない。

ブランデンブルク門の裏通りに向かう脚が止ったのは・・・いきなりウイルの手がキッドを跳ね飛ばし、ぶつかって来た男を抑え込んだ。

パタパタと雪が赤く染まる。

それが血だと、ウイルの血だと見た瞬間キッドの中で何かが弾け爆発した。







朝倉聖に対して抵抗を覚えたのはイヴだけでは無かった。

むしろ女のイヴよりも却って男連中の方が大きかったかもしれない。

女性兵士にと云うより、男が女に求める物が彼女には欠片も無かったからだ。

可愛げだの、愛らしさだの、初心っぽさだのは一切無い。


イヴからすればそんな物は兵隊には必要が無い物だから無くても一向に構わなかったが、今までの第二戦闘兵士は天然の可愛さが在った為つい比べてしまうのだろう。

イヴが表に出さずにムッとしたのは今までキッドが使っていた隣の部屋を朝倉聖が使い出した事と、キリ-が付っきりで訓練をつけていた事だった。

キッドの荷物はイヴとジ-ンが片付け今ではジ-ンの部屋にしまわれている。


『そう落ち込むな、帰ってくれば何とかするから。』

ジ-ンの言葉に頷いたが何とかするとはどうする積りか。

このままキッドが忘れられてしまう怖さが在ったが、今のイヴにもどうしようも無いのも事実だった。

格闘訓練は厳しかった。

コオの手はキリ-の言葉の通りに動き、一切の容赦も無い。

自らはまだ直接の相手をしていなかったが、その眼の真剣さがイヴには怖かった。

相談しようにも、エラ-はMITに行っているし、ナイトはまだ初年兵に掛かっていたし、ルウは来年までバハマから帰る予定は無い。

落ち込むあまり滅多に無い事に表情まで暗くなったイヴを見かねたのは、他でもないキリ-だった。


「最近元気が無いな、エラ-が居ないと淋しいか?」

それは朝倉聖が正式にG倶楽部に入った八月の終わりだった。

「貴方が・・・」

イヴが自分でも驚いた事にぼろぼろ零れる涙は止まらなかった。

すかさず出されたハンカチはいつもはキッドの為に用意されて居る物だと知っている。

だから尚更泣けて来た。


「・・・お前が気にしてるのは知っている。キッドの為に泣くのもな・・・だが、今は堪えてくれ。G倶楽部にはどうしても戦闘兵士が必要だ。俺の負担を考えてジ-ンが手を打てずにいるのはまずい。」

解かってはいる。

それでもどうしても聞きたかった。


「キッドを忘れませんね。今は居なくても。」

キリ-の眼が柔らかく微笑んだ。

「どうして忘れられる、俺の一番弟子を。」

それだけでは無い事も知っていた。

云う事は出来なかったけど・・・それでもその言葉が聞きたかったのは事実だったし、僅かでも安心したのも本当だった。

「済みません、洗って返します。キッドが戻る前に。」



イヴの落ち込みがキッド絡みだとは承知していたが、これで気が晴れたらしい。

「まだ在るからそれは取っておけ。何でキッドもお前も持ってないんだ?」

「・・・持ってます。でも貴方の方が早く出すから。」

どうやら可笑しな特技を身に着けてしまったようだ。

今度は自分で出すまで見ていようか・・・きっと無理だろうが。


「ウルフは彼女の名前を決めないんですか?」

「それなりに悩んでるらしい。お前たちも時間がかかったが、実は俺も三か月近く決まらなかった。

エラ-もマッドも決まったのに。ウルフには俺達には解からないこだわりが在るようだな。」

なにげに酷い言葉を吐き出す先達に思わず笑うとキリ-が呟いた。

「イヴ、俺はキッドが必ず帰って来ると思っている。お前も信じて居てくれるか?」

「はい、私も、ナイトやルウやみんなも信じて居ます。」

どちらもそうと確認することで僅かな安堵を繋いでいる。

細い糸のような頼りないそれに、それだけに心を寄せて。


「ひとつ教えてやる、ジ-ンもコオやモクも実は信じて居るんだ。エラ-も未だに捜索を続けている。

俺達だけじゃない、G倶楽部は仲間を見捨てない、諦めない。」

キリ-の眼が静かで強い光を放つ。

この人はまだ自分たちの担当伍長なのだ、と理解した。

どんな時も自分たちの後ろに居ると、いつか言ってくれたように。

この一番苦しい刻、一番苦しんで居る筈のキリ-はそれでも支えてくれるのだ。なれば・・・

「もう大丈夫です、もう・・負けません。」

こうしてイヴを気遣ってくれるキリ-に甘えているだけではいられなかった。



九月に入って朝倉聖と海堂寺衡太の名前が決まった。

身長172㎝、体重56㎏ 男性並みの体格を誇る朝倉聖はカイル、

身長166㎝、体重51㎏ 少女のような海堂寺衡太は那智。


G倶楽部の誰もが、長い付き合いのジ-ンでさえ、未だにウルフの命名の本意を理解できなかったが、とにかく決定した。

カイルに対してはコオを相手の格闘訓練がキリ-の指導の下に本格的に始められ、並行してジ-ンの語学等も入り始めた。愛想の欠片も無いし可愛げも無いカイルでも、さすがに毎日気を失う姿を見ているとイヴでさえ気の毒になる。


那智にはモクの仕込みが入っていた。

『奴は眼が良い、冷静だしスナイパーの資質が在る。』

照準の先の人間の命を奪えるかの確認だけはモク立ち会いの元でジ-ンが確かめた。

返された返事は、

『僕は軍人です。ただの人殺しにはなりません。』

長く重い狙撃銃を扱うためのトレーニングはウルフの管轄だった。

一見すると如何にも荒々しいウルフだが実は細やかな神経を持っている。

慣れない那智の身体が着いて行けないような無茶はさせなかった。


「いいか、お前は非力なんじゃ無い。力の使い方を知らないだけなんだ、俺が教えてやる。

お前に必要な筋肉は固い物じゃ無く、柔らかくしなやかな物だ。焦らなくていい、じっくりやって行こうな。」

大人と子供のような組み合わせには誰もが笑ってしまう。

もっともウルフとイヴの組み合わせでG倶楽部員はだいぶ慣れては居たのだが。

やがて2m近いウルフの後をついて歩く那智の姿が日常になって行った。


そしてカイルは未だにコオを躱すことが出来ず今もトイレに駆け込んでいた。

「俺が代わろう。」

キリ-の声にコオの表情が動いた。

「馬鹿を云うな、今からお前では奴だって保たないだろう。」

「嫌なんだよ、あんたが女を叩くのを見るのは。」

キリ-の本気で嫌そうな顔にコオが吹き出した。

「ほほう、お前でもそんな事を云うか、キッドは本気で叩くくせに。」

「・・・・あれは、別物だ。」

不意にコオは真顔になった。

「キリ-、一つだけ言っておくぞ。キッドはお前の最初の弟子だ、それが特別の物だとは俺も承知している。

だが弟子にとっては最初も最後も無い、師匠は常に師匠なんだ。おかしな区別はするな。」

一瞬、キリ-は息を飲み・・・そして頷いた。

「了解した、胆に命じておく。」


いつまでたってもジ-ンやコオには追いつかない、自分が大人になりきれてないのを知るのはこんな時だった。

キッドに細心の注意を払うのは自分だけの感情からくるもの、だがカイルには何の関係も無い。

彼女がG倶楽部で生き抜いて行けるように育成するのがキリ-なら、育て方で分け隔てをしてはならなかった。


「それでもなぁ・・・」

コオがため息をついた。

「ロゥを2週間で躱していたキッドとでは、差は歴然だな。

本当に奴は物になるのか?」

初めて見てからキリ-もジ-ンも何度も脚を運び演習を見たし、ナイトにも確認は取っていた。

間違っているとは思えない。

だが、今のカイルは動き自体がひどく固く強張っているように見える。

そしてそれは身体だけでは無いようだ。


「少し話した方が良いかもしれないな。」

朝倉聖のプロフィールは知っている。

だがなぜ軍に入ったのか、何を考えているのかを知った方が指導にも広がりが出る筈だった。

戻って来たカイルにキリ-は告げた。

「今日は此処までだ、少し付き合え。」


キリ-とカイルが入ったのは普段はジ-ンが使っている部屋だった。

珍しげに辺りを見渡すカイルに男は座る様に促した。

「体調はどうだ? お前には戦闘兵士としての訓練をつけているからきついだろうが、やって行けそうか?」

「・・・大丈夫です。」

「気になる事や心配な事は無いか?」

「はい。」

無口というか寡黙というか、女性には珍しい程口が重い。

それを言うと思わぬ表情が浮かんだ。

似合わないどこか皮肉な笑み。

「そうですか。こんな物ですが・・・貴方は何が知りたいんですか?」


確かに可愛げの欠片も無い。思わず苦笑したキリ-にカイルは困った様に頭を掻いた。

「済みません、私は一般的な女性にはなれそうも無い。此処、軍隊ならそれを気にしなくても良いかと思って来たんです。」

「御両親は反対しなかったのか?」

彼女の父親は聖職者、神父の筈だった。

「当然しました、だから勘当同然で陸短に入りました。

衡太・・那智も家はお寺です。私たちは親からすれば鬼子なんです。」

それだけとは思えない。僅かに首を傾げた男にカイルは今度は綺麗な、だが何処か淋しげな笑顔を見せた。

「私も那智も大丈夫です、此処で頑張ります。キリ-、私達は他には行けないんです。」

「見捨てる心算なら端から此処に入れる事は無い。モクやウルフも那智をかってるしな。ただ、今のお前の動きでは厳しいぞ。何か有るなら解決しておく方が今後にも良い、云いたく無い事まで聞き出そうとは思わないが。」

カイルの眼が上げられキリ-を正面から捉えた。

それは今まで見た事の無い揺らぎをチラつかせていた。


「・・・もう少し・・時間を貰えませんか・・・」

キリ-は頷いた。

「俺も人には言いにくい過去が有る・・有った。G倶楽部は外では偏見の眼で見られることも個性として扱われる。俺では心配ならジ-ンでもコオでも構わないからいつでも云いに来てくれ。」

「・・・はい。」


言葉は少なかったが眉の辺りに在った僅かな翳りは薄れて、以来その話が多少は良かったようでカイルの動きも滑らかになり始めた。

コオの格闘訓練は続いていたが辛うじてではあるが躱しはじめ、キリ-も愁眉を開いた。


九月も半ば、イヴがキリ-を捉まえた。

「言って良いのか分からないんですけど・・」

困った表情のイヴをキリ-が促す。

「まずい話なら俺が始末をつける、言ってみろ。」

「・・・カイルの部屋に、那智が来ます。」

「・・・で?」

「ここ一週間、毎晩です。ずっと話し込んでいます。」

「付き合ってるようには見えないが・・・」

「恋愛とは違うようです。だから判らなくて・・」

「あの二人にはそれとは違う繋がりが有るようだ、暫く様子を見てみよう。」



ジ-ンに呼ばれたキリ-が出向いた時、其処にはコオハクとモクが揃っていた。

驚いたのはナイトが居た事。

「何だ、何が有った?」

「カイルと那智に関して何か聞いているか?」

何処かで予感していたのかもしれない。

キリ-はカイルとイヴから聞いた事を話した。


「時間を呉れと云ったんですか・・・」

考え込んだナイトにキリ-は続けた。

「お前には話したのか?」

「・・・はい、だから迷ってます。」

「迷うなら云うな。」

キリ-の言葉にジ-ン達でさえ驚いた眼を向ける。

そんなみんなを一顧だにせずキリ-は続けた。

「お前に話したならお前はそれだけ信頼されていると云う事だ。俺達はまだなんだろう。

奴らが話す気になった時、実は知っていたと俺は言いたくない。今は多少の時間が掛かってもおそらく必要なものだと思う。」


ナイトのホッとした顔にコオが呟いた。

「生意気な口を利くようになりやがって・・・」

「担当伍長を命じられた時には泣いて嫌がったくせになぁ。」

と、ハクが言えばジ-ンが笑った。

「大人になったな、キリ-坊主。お父ちゃんは嬉しいぞ。」

とことん嫌そうなキリ-の表情をナイトは初めて見た。


「忘れるなよナイト、この舅、小舅連中には隙を見せるな。

何時だって性悪なあげ脚を取る気満々だからな。」

「・・・は、はい、では帰ります。」

そそくさと出て行く背中には怒涛のような罵り合いが聞こえて来る。

勿論ナイトは振り向きもしなかった。



怒涛の勢いで、しかも調子に乗って書いたものを改めて読み返すと・・・意気消沈。  頑張ろう。 頑張ればいつかはきっと・・・( ̄^ ̄)

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