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        04

ちょっと長めです。 上手く配分が・・・(>_<)                  絶対に必要だったので サラッとHシーンが有りますが、続くコッテリはいずれ別枠で・・・   

その前、夜の明けないうちに宿舎に帰り着いたキリーは室内の異変に気付いていた。

一見何処も変わっていない様にも見えるが、クロゼットもデスクも、何よりトランクケースも他人の手が入っている。幾度と無く修羅場をくぐり生き抜いてきた男の眼を欺く事は出来なかった。無論、キリーは自分には解るようにして有ったのだが。

誰が入ったのか、何を調べたのかまで見て取ったが、騒ぐ事も無くシャワーを浴び、着替えてソファに座ると携帯電話を取り出した。掛けたナンバーは未知のもの、出た相手に無言のまま爪の先で数回叩くと一言も無いまま切った。

後は刻を待つ・・・

男にとってこれが一番嫌いな仕事だった。

もっと以前、若い頃はこの忍耐力の無さで痛い目にあった事も一度や二度ではない。ジーンにはよく怒鳴られた。

『お前のような若造が焦った仕事で巧く行った例が有るのか、常に自分だけでは無いんだぞ。』


あの頃は神藤中佐を失った傷が癒えきってない時代、ジーン達も若く余裕も無い中でキリーたちはこっぴどく怒られ怒鳴られ育てられた。今なら彼らの気持ちも解る。

(焦るなよキッド・・・)

携帯にメールが入る、読んですぐ消去すると立ち上がった。

刻が来たようだ。



午後1時を少し廻った時間、アジアンエクスプレスカンパニーの遠藤主任は部下の坂本と仕切られた一画で打ち合わせを行っていたが、店舗とそれに続く事務所が不意に静かになった事に気付いて顔を上げた。

眼にしたのはおびただしい警察官の群れだった。

「非合法ドラッグ、パラダイスドリームの密輸に関して聞きたい事が有る。同道願う。ああ、スイス銀行の口座は押さえて有るからそちらは諦めた方が良い。」

腕を獲られた男達に警官が続けた。

「私達の紅龍の行方も聴かせて貰おうか。」

蒼白の表情、およいだ視線、わななく様に遠藤が告げたのは、

「私達は、日本人だ・・送還して貰いたい。」

中国人警官は薄気味悪いほど愛想良く応えた。

「勿論だ、日本陸軍の軍法は我が国よりも厳しいそうだな。

他国で罪を犯した軍人を許しはしないだろうが、私達の捜査が終わり次第確実に送り返してあげよう。」



警察車両に押し込まれる男達を見ていたキリーの肩を叩いたのはヒョロリと長身の痩せた男だった。

「役に立ったか?」

キリーの眼が和んだ。

「助かった、後はあっちだけだ。恩に着るよバード。」

G倶楽部の頭脳と呼ばれるほどの知性を持つこの男は、どう云う訳か日本に帰りたがらない。

だが、キリーは何度か供に任務をこなす内にこの変わり者と仲が良くなっていた。

ジーンはそれを見越してバードに繋ぎを取り香港に呼び出したのだ。自分達は派手に動き眼を引きつけて、裏の捜査を任せたのは正解だった。

「去年は良い仕事をしたらしいな。

ジーンが嬉しそうだった。

面白い面子が揃ったと聞いたぞ。」

ボソボソとした口調はウルフに云わせると

『箇条書きで喋る。』

だそうだ。

実に的確だ。


「カズマは元気か?」

バードの視線がスィと逸れる。

「・・・何とかしてくれ。

あの若いのはキッドに負けまいと張り切りすぎだ。

おぢさんは疲れる。」

「ジーンには言っておくよ。」

笑いを堪えて手を出した。

「たまには帰って来てくれ、ガキ供に逢わせたい。」

その手を握り返してバードも応えた。

「2.3ヶ月したら帰る。

みんな揃えておけ。

お前もな。」

さっさと歩き出す背中を見送ってキリーも表情を改めた。

後は九龍島。




午後の陽射しを照り返す島は静けさを保ちながら何処か危険な空気感を含んでいた。

上陸したキリーは濡れた衣服を乾かす間もなく珀龍の館へと動き出した。

九龍島は静かであったが、その中に隠されたビリビリするような空気感は男の皮膚に突き刺さり焦燥を煽る。


『珀龍には言われているんだが・・・済まないな、今は向こうには渡れない。』

船を出すことを断った人足の言葉はそれは彼等の生きる為の本能だった。3キロの遠泳程度はキリーに取り大した難事では無かったが武器を運べないのは痛かった。

館までの道程で敵の数がそう多く無い事は分かったが、やはり要所は固められている。

だが所詮は素人でキリーは目についた敵を制圧しながら南下し、驚くべき速さで館へ到達した。

彼にとって一地方の反乱など恐れるに足りないものだった。


(珀龍を探すか、敵の頭をたたくか・・さて・・)

館の内部に潜入したキリーは容易く珀龍が監禁されている部屋をつきとめ滑り込んだ。

「・・キリー? よく此処が判ったな。」

見張りの男二人を瞬く間に倒した戦闘兵士を珀龍は驚愕して見上げた。

表情を消して珀龍の傷を検めながらキリーは今までの経緯を手短に告げる。

「此方サイドは以上で完了だ、残るは九龍島のみ。

本来ならば俺の仕事はここで終了なのだが・・・キッドが此処に乗り込んでいる以上傍観も出来ん、手を貸そう。」

珀龍が大きく息をついた。

「有難い、敵は碧龍。末の弟だ。彼は蒼龍を恐れている、殺すつもりだと思う・・・」

「了解した、なるべく生かして捕える。その前にこの内部を片付けて行くから暫く此処で待て。」

その暫くが15.6分だと知って珀龍は愕然とした。

決して狭い建物ではない、それを短時間で完全に制圧できる能力は見た事が無いものだった。

閉じ込められていた使用人や警固の者に迎えられて、自室に入った珀龍は呆れるばかりであった。


『武器の類は此処にはほとんど無いが、蒼龍はいざという時の為に隠してある。南の森にある小屋だ、ベッドの床下に諸々用意して在る筈だ。』

敵を認識するのは簡単だった。彼らは碧龍の薫陶篤く単独では動かない、必ず二人から三人で行動して居る為キリーには判り易い標的で片端から片付けて行き、森影の小屋を視界に捉えた。




「陸の奴、長いんだよなぁ。」

小屋の外の男がぼやくと別の男も勢いづいたように頷く。

「初めてだといよいよ長いぜ、お前ら知らないだろ、前に紅龍を犯った時なんか3時間もやりっぱなしだった。」

「おかしいんじゃないのか?」

「そうさ、自分でも言ってたぜ、何処かがスコンと抜けてると、だから何度でも出来るんだとさ。」

「・・・じゃあ当分順番は周ってこないのか?」

情けない声に男達が笑った。

「そういう事だ、陸が云う事を聞くのは碧だけだ。」

「碧か、奴も妹を犯っちまうなんて相当にイカレタ野郎だ・・・おい!」

男達の中に飛び込んで来たのは怒り狂った竜巻だった。


「・・・何だ?・・」

ふっくらと盛り上がった乳房から男は顔を上げた。

外から聞こえてきた短く鋭い声が幾つか・・・

「順番決めで揉めてるのか?・・馬鹿な奴らだ・・」

陸の眼がキッドの顔に向けられ、そこに浮かぶ恐怖と屈辱を探す、が見つけたのは冷ややかな眼差しだった。

「・・可愛がってやろうと思ったが・・残念だな、お前みたいな女は手加減はいらない。哭いて許しを請うま・・・」

ドアが弾け飛んだ。

思わず身を起こした陸の前に立っていたのは蒼龍。

陸の反応は速かった。ベッドの向こうに立て掛けてあった、小銃に飛びつき振り向き様に引き金を引く。が、キッドの脚が銃口を弾き銃弾は天井に突き刺さる。蒼龍にはその一瞬で十分だった。

ベッドを飛び越えた蒼龍の身体は全身が凶器となった。

キッドが縛られた手を解く間に陸は咽喉への正拳突きを受けて倒れこんだ。

「外は?」

尋ねた素っ裸のキッドにちらりと視線を投げて蒼龍は床の衣服を投げて答える。

「済ませた・・大丈夫か?」

「助かったよ、ありがとう。」

「・・別に助けに来た訳では無い、此処に隠してある銃火器を取りに来ただけだ、奴らの話を聞いて・・・」

わずかな笑みを隠しながらキッドは靴の紐を結びなおした。

蒼龍、珀龍が捕えられた、救いに行こう。」

男たちを括り、小銃と弾薬、大型ナイフを身につけると二人は小屋を後にする。




視界に捉えた。と、同時にキッドのシグナルをも。

それは小屋の後方、二段したにある森の中からだった。

近づく以前に銃声が響く、驚いた事に機関銃の咆哮さえ轟く。木々の影から覗くと斜面の下、敵の背中が見える。

小銃が4人、厄介なのは機関銃を積んだジープが一台あることだった。向こうの森にキッドが居る。

シグナルを出すとキッドのそれが点滅、キリーは行動を開始した。


「蒼龍、味方が来た。注意しろ。」

言い様飛び出す。斜面を飛び越えるキリーを援護、キッドの目前で男の身体がジープ目掛けて突っ込むのを見た、走りながらの一連射で二人を倒し転がってぺたりと地面に伏せる。

ジープを制圧したキリーが飛び出すのを待ってキッドはダッシュボードに銃弾を浴びせた。爆発した余韻が消えぬうちにキッドとキリーは敵の武装解除を済ませていた。


「蒼龍か? 碧龍はどれだ?」

答えを聞くまでもなかった。蒼龍の火を噴くような視線の先に肩を打ち抜かれた男が倒れたまま睨み返している。

「珀龍の元に連行する。」

夕陽が長い一日の終わりを告げようとしていた。





「お前はそれで後悔しないのか?」

「・・・判りません、でも今でなくあんな状況にまたなったらきっと後悔するのは判ります。貴方が嫌なら・・いいです、何とか考えますから。」

キリーの表情は変わらなかったが内心では頭を抱えていた。

何を考えると云うのだか・・・

「嫌だと云うのとは違う、今後に響かないかを考えている。

俺たちの仕事は割り切りが必要な場合が多いし、生死に関わるからな。それに・・・俺が云うのもおかしいが、出来ればお前には・・・好きな男とそうなって貰いたい。」

少し驚いたようにキッドは顔を上げた。

「いつ出来ますか?そんな人。」

連隊内部では恋愛は奨励されてはいなかったが禁止もされてはいない

。問題になるのは揉め事になった時だけだし、軍を追放されたくない者は気を付ければ良いだけの話である。

だが確かにキッドほどの未成熟な小娘が一人の男を恋愛対象として認識するまでに係る時間は全く想像しかねた。


(・・だからと言って・・教えろと言われてもなぁ・・)

夜半、自分に与えられた部屋を訪ねてきたキッドはレイプされる前に一度知っておきたいと言い出したのだ。

「聞いて良いか? 何故俺なんだ、ジーンやコオでなく。」

キッドはまじまじとキリーを見つめた。

「その方が良いですか? それならそうします。」

頬杖をついたままキリーは僅かに笑った。

「質問に答えてないぞ。」

瞬きをひとつ・・

「私を一番よく知っていて呉れるのは貴方です、私が求める物を与えられるのも・・私は優しく護られたい訳じゃないから・・」

なかなか鋭い眼を持っている。ジーンもコオも口程の冷酷さは無かった。どちらかと云えば女にはとことん甘いのだ。

「シャワーを浴びてこい。」

甘いのは彼等だけではない・・だがここまで来たら後には引けなかった。

実際のところレイプされかけた話を聞いて動揺したのは事実だし、キッドの恐怖も伝わって来た。

経験でレイプの恐怖がなくなる訳では無かったが、初めてでは相当に怖いだろう。

キッドの中に恋愛感情が在るなら一切の手出しをする気はないが、あくまでも仕事の一環として割り切れるなら、自分の感情など幾らでも抑え込んで見せる。そのうえでセックスの本来の意味を教えておきたかった。




今までそんな眼で見た事が無かったから気づかなかったが、キッドは均整のとれた綺麗な肢体を持っていた。

まだ若い身体は弾けるほどの弾力と肌理の細かい滑らかな肌に包まれ、小ぶりながらも突き上げるような乳房、引き締まったウエストから雪のように白い内腿に続いている。


「これは愛を交わす行為だ、どちらも与えて受け入れる。

歓喜の中で絶頂に昇りつめてこそ知った事になる。

キッド、今夜一晩だけのレクチャーだ、全部受け入れろよ。」

「・・はい。」

生真面目な返事は微かに震えた。



触る手はどちらかと云えば素っ気ない。首から下に降りて行く掌は熱だけが伝わるだけで不安や恐怖が入り込む余地も無い程だった。陸とは全く違う感触は相手に対しての信頼度の差だろうか。

だからその場所に指先が振れても竦む事も無かったが、ビクリと身体が跳ねたのは反射だった。


「此処が女の身体で一番敏感な部分だ。」

状況説明の様な冷静な声にまた身体が跳ねる。

指先が挿しこまれ僅かに力が入る。

「・・・苦労しそうだな、俺はバージンには慣れてないからキツイかも知れないぞ。」

「慣れなんてあるんですか。」

この状態での質疑応答はジ-ン辺りに知られたら爆笑物だろうがキリ-は苦笑を隠して答えた。

「ああ、痛みの程度は変わらないそうだが慣れた奴は巧く気を逸らせるらしい。」

「大丈夫です。戦闘訓練受けてますから。」

その痛みとは天と地ほど違うと思うが此処で笑う訳にも行かない。

「力を抜けよ。」


最初はそうでも無かった。だがゆっくりと押し入られるほどに引き裂かれる痛みに身体が逃げようとする。

手が男の胸を叩き押しのけようとするがその腕はあっさりキリ-に抑えつけられた。

「痛い、キリ-痛い・・・い・・・」

「落ち着け、もう少しだ。」

キッドが暴れても泣いてもキリ-は歯牙にも掛けない。

決して乱暴では無いが確実な動きで侵入してくる。


やがて身体の中で何かが弾けた。


声にならない叫び声をあげたキッドの頭を抱いてキリ-が囁いた。

「もう終わりだ、痛みは此処までだから落ち着け。」

泣きじゃくりながら眼を上げると汗にまみれたキリ-の静かな双眸が見下ろしていた。

「良く頑張ったな。」

大きな掌で涙を拭われてやっと身体の力が抜けて来た。

「い・・痛かった・・・」

驚くほど優しい笑みがキッドに向けられる。

「此処で止めるか? 続けてももう痛くは無い筈だが。」

おそらく意味が判らないのだろう、如何にも不思議そうにキッドが尋ねた。

「続ける・・と、どうなるんですか?」

「・・・気持ち良くなる、どちらもな。」

「・・・・・もう痛くない?」

ゆっくりと動いたキリ-に息を飲んだがさっきまでの痛みや衝撃は襲って来なかった。

「続けてみるか、嫌ならすぐに止めてやるから。」

はい、と声を立てずに唇が動いた。


慣れさせるための緩やかな動きにキッドは眼を閉じ息を殺して耐えていたが、やがてキリ-の動きが変わった事に気付いた。抱きしめる様に触れていたキリ-がいつの間にか離れている。キッドの腰を掴みあげ律動的に動き出したキリ-に堪えていた声が上がった。

「・・・キリ-・・キリ-・・・」

喘ぎの中に混ざる名前にキリ-は動きを止めないまま答えた。

「どうした、嫌か?」

「・・・嫌・・じゃない・・・なんか・・変・・・」

「抑えるな、その感覚に身を任せて見ろ。」


キリ-には解かって居た。知って居ての動きだった。

最短で絶頂に導くツボぐらいこの歳になれば知って居る。

ただバージンで何処までそれが通用するか、それだけが心配だったがキッドはキリ-の言葉に何の疑いも無く身を委ね真っ直ぐに頂点に駆け上がって行った。

掠れた声が途切れ、硬直したまま動きを止める。

やがて天から落ちる様にベッドに崩落ちた。

身体が離れたがキリ-は微笑ましい想いでキッドを見つめる。

荒い息を整えながらシーツで額の汗を拭いてやるとキッドの眼が開いた。


「解かったか、これがセックスだ。女を甚振るだけのレイプとは違う。」

潤んだ瞳が男の眼を捉え、濡れた唇が僅かに震えて声が出される。

「・・・違う・・これは・・・」


キリ-の呼吸が止まった。この状態で否定から入られるとは思わなかった。

自分のセックスの何処が不満だったのかとぐらぐらしながら考える男にキッドは続けた。

「あ、貴方はまだでしょう・・・これだと半分・・」

身体中から力が抜けて行く、抜けきってから僅かに息を吐いた。

「・・・俺は気にするな・・・お前に教えるのが目的だ。」

狼狽えた間抜けな顔を見せたく無い。

背中を向けて、

「動ける様なら部屋に帰って寝め。送って行くぞ。」

床に落ちたバスローブを引っ掛けながら表情を取り繕うが、返事の無い事に振り返ってまた動きが止ってしまった。

ベッドの上に座ったキッドが声を立てずに泣いている。

ボロボロとこぼれ落ちる丸い粒はキッドの膝の上にパタパタと散った。

「おい、どうした・・・」

「・・・ごめんなさい・・」

やっと聞き取れる声で告げるとキッドはベッドを滑り降り、畳んだ衣服を抱えると裸のままドアに向かう。

最大戦速よりも早い、もはや瞬間移動でキリ-はドアの前でキッドの肩を捉まえた。


「どうしたんだ、何で泣いている。」

「・・・嫌だったでしょう・・・こ、こんな事を頼んで、貴方の気持ちも考えなくて・・・・ごめんなさい・・」

どうやらキッドはキリ-が頼まれて嫌々相手にしたと思い込んでいる様だった。

「泣くな、嫌で出来る事じゃ無いだろう。」

「で・・でも・・・」

「男は本気で嫌なら出来ない様になって居る。」

実際にはそんな事も無いのだが、と思いながら続けた。

「お前が嫌だとかじゃない。」

むしろその反対なのだがキッドはうなだれたまま声を殺して泣くばかりだった。


何処かで理性の糸が切れた。

「・・・・解かった。」

ひょいっと抱きかかえると戻ったベッドの上にキッドを投げ下ろす。

驚いた表情のキッドから服を取り上げて捨てた。

「・・・キリ-・・?」

バスローブを脱ぎ捨てキッドの顔の両脇に手を着いて見下ろした。

「今度は俺も楽しむ、泣いても許さんぞ。」




キッドは最後の長い痙攣に身を任すと深い吐息を一つ、そして気を失った。

投げ出された手足に力は無く身体も何の抵抗も無い。

「やれやれ・・後を教えられないな・・・」

ゆっくり身体を離しながらキリーは後悔していた。

キッドに対する気持ちが確定してしまった事に今更ながら気付いたのだ。

シーツを掛けてタオルで額の汗を拭ってやりながら自制の糸が切れた。

ふと唇が寄せられる。

愛を交わす行為としてのセックスを教えながらも口づけだけはしなかった、出来なかったと云って良い。

それをする事で自分の想いが露見する事が怖かった。

細い腕も、華奢な肩も、真っ白な胸と何より濡れて開いた唇からは必死で眼を逸らし続けて来たがこれが限界。

意識を失くしたキッドの唇に深く優しいキスを一つ落としてシャワールームへ向かった。


亜湖の時は容易に扱える感情だった、子供を見守るように育てて来れた。

キッドでも何とかして来た、厳しいトレーナーはローワン同様キッドの才能だけを見れば良かった。

今度は奴は何になるのだろう。自分はキッドが死んだ時にはどうなるのだろう。

泣く為の肩をまさかジーンに貸せとも言えまい。

こうしてシャワーを浴びながら泣くしかないのだろう・・・今、この時のように・・・





夜明け近くキッドが目覚めると広いベッドにキリーの姿は無かった。

体中に刻まれた訓練とは異なる筋肉痛と言う印しが無ければ夢を見ていたような錯覚を起こす。

咽喉の渇きに苦労して身を起こすと既に服を着て正面のソファに座るキリーと眼が遭った。

「あ。」

つと立つと何の障りもない身軽さで近づきグラスの水を手渡してくれる。

ゆっくり飲み干したキッドに男は一切の感情を消した声をかける

「もう少し休め、間に合うようには起こしてやる。」


空のグラスに水差しから水を注ぐと小さな錠剤と共にキッドに出した。

「事後ピルだ、まだ排卵日では無かった筈だが二十歳前後では安定していないからな、念の為に飲んでおけ。」

黙って飲み干してから首を傾げた。

「いつも持ってるんですか?」

何とも云えない表情が浮かぶ。

「俺には必要無い、ジーンがお前に渡せず俺に押しつけた・・・まずいかな、これを使った事がばれると。」

「貴方は悪く無い、私が頼んだんですから。」

ふっと息をついてキリーは微笑った。

「良い、気にせず寝ておけ。初めての時は身体がきついだろう。」

「・・・貴方は?」

一瞬、男の表情が変わったが、それは素早く消える。

「やめておく、また抱きたくなると帰国が遅れそうだ。」

真っ赤になったキッドはシーツに潜り込んだが眠気は無くなっていた。

「キリー、話をしても良いですか?」

ソファに行きかけた背中が止り、戻るとベッドの端に腰を下ろす。

「何だ?」

ポケットから煙草を取り出し火をつけた。

「・・・あの・・皆あんな風になるんですか?」

「さあな、個人差が有るから判らんが。」

「・・・・・・・・・・」

「・・・キッド、最初の相手は男にしろ女にしろ忘れないと云うが、お前は忘れた方が良い。

今回はたまたま俺だっただけだ、仕事絡みのレクチャーだと割り切れよ。

いずれお前が心から好きになる男の為にもその方が良い。」

「・・・そんな人、出来るかな・・・」

出来ない訳が無い。

これほど可愛い娘を愛さない男は居ない。

「戦闘訓練を見せなければ大丈夫だ。」

くすくすと笑う声にキリーも微笑んだ。

「ジーンには何て云うんですか?」


ジーンの、いや、G倶楽部の連中の顔が浮かびキリーはため息をついた。

「・・さて、正直に言ったら吊るし上げになるし・・ボコられるな、黙っていた方が無難だ。」

「何かあっても貴方に迷惑は掛けません。」

そう云う問題では無かったが、キッドには男全般の心情を理解する能力はまだ育ってない。たぶんこの先も無理だろう。

「いや、これは俺の問題だ。まさかお前に襲われたとも云えんだろう。」

「そ、そう云っても良いです。」

思わず吹き出した。


白みかけた空に眼を向けてキリーは新しい一日が始まるのを知る、思わず呟いた。

「・・・キッド、これからも辛い事も苦しい事も多いはずだ。でも生きろよ、何が遭っても俺より先に逝くな。

俺達の命は決して安くは無い。」

「はい、貴方も生きて下さい。私よりも一分でも長く。」

白んだ空が鮮やかな朝焼けに染まり始めていった。






駄目だ。と、キリーは思った。

ミリタリーではなく民間の旅客機を降りたのは羽田空港、そこに迎えが来ていたがキッドの変化は隠しようも無かった。一晩でこれほど綺麗になるものなのかと、キリーでさえも瞠目するほどの変化は誰の眼にも明らかで、事実エラーは何とも云いようの無い視線をキリーに投げつけた。

当然、G倶楽部に戻っても一瞬の間に冷ややかを通り越した空気感は氷柱の刃となってキリーに突き刺さった。

報告を済ませるとジーンはキッドは解放した。キッドだけは・・・



「さて、キリー。他の報告すべき事を聞こうか。」

18期生はその場には居ず、年季の入った親父達に囲まれたキリーはすでに諦めていた。

キッドを責めないだけ良しとするしかない。


「見た通りだ、言い訳をする気は無い。」

コオの手が伸びキリーの胸ぐらを掴む。

「お前か、キリー。」

不気味なほどの低い声に怒りが籠っている。

「あんな子供に手を付けるか? ふざけた真似をしや・・」

「コオ、待て。」

ジーンの声さえ固く響く。

「キリー、俺達はその言い訳を聞きたい。何があった?」

報告ではキッドが襲われた件は端折られ蒼龍がタイミング良く現れ助けられたとされていた。正直に言えばキッドのG倶楽部員としての今後に関わる話だった。

「何も無い、俺の不始末だ。」

いきなり殴られた。続けざまの数発は鍛え上げたキリーが思わず膝を着くほど強く、日頃は滅多に見せないジーンの怒りが見える。引きずり上げられたキリーは唇の端から血を流しながらも一切の抵抗はせず、ジーンの眼を見る。

「何があった?」

首を横に振る。

「・・何もない・・」

更に殴られる、ジーンの怒りの大きさにキッドへの愛情の深さを思い知らされる。

( キッド、お前はこんなに愛されてるぞ・・)

誰もジーンを止めようともしなかった。其処には手塩にかけた仲間を思う気持ちしかない。

キッドの顔がちらつき意識が途切れる。

( 泣くな、亜湖・・・)



解放されたキッドが胸騒ぎを覚えて戻るとキリーが確かに言葉通りにボコられていた。

割って入ろうとしたキッドを止めたのはウルフ、エラーは低く尋ねる。

「何が有った?」

倒れこんだキリーを見て覚悟を決める。

キリーには口止めされていたが此処まで来たら黙っては居られなかった。

「私が頼みました。」

それは思ったよりも大きくはっきりと響き全員の眼が向けられる。

ジーンは・・ジーンだけは背中を向けていたが。

「嘘の報告はしていませんが、数人の男にレイプされそうになりました。それを飛ばしました。それを知ったら任務に出して貰えなくなると思って・・幸い救われましたが、任務を終わらせた後、私からキリーに頼みました。」

キッドは感情を無理やりに抑え込んだ。

「初めてで・・それはきついです、向こうに着いてすぐキリーには釘を刺されました。

例え何が有ってもお前に変わりは無いからそんな事で自爆はするなと、みんなが心配して呉れてると。

だから死ぬ気は無かったけど・・・怖かった。もし、助けて貰えなかったら男に対しての恐怖や嫌悪感は消えないだろうと思ったし、女がこれほどの重荷になるなんて今まで・・・・」

それ以上は言葉にならなかった。

堪えようもなく込みあげる熱い塊を必死で飲み下すキッドにハンカチが差し出される。ジーンだった。


「判った、もう良い。誰かキリーを救護室に運べ。」

ウルフに担がれたキリーが運び去られると申し合わせたように全員が立ち去り、キッドはジーンと二人で立っていた。

「済まなかったな、人に聞かせる話ではなかった。キリーにももっと上手く話を聞けば良かったんだが・・・」

久しぶりに突き抜ける怒りを抑えきれなかった。

「あの・・何故解かったんですか?」

間違ってもキリ-が話す事は無い筈だった。

男の眼が呆れたようにキッドに注がれる。

「経験の差だな、俺も聞きたいよ。何故解からないと思ったのか・・・」

こんなに綺麗になって・・・


「キリーに惚れたか?」

それに答えが返されるまでに長い時間がかかった。

それほど難しい質問では無い筈が、キッドは自分の中を確認するように考え・・・やがて顔を上げる。

「済みません、惚れるって良く解かりません。ジーン、私がキリーに頼んだことを怒ったんですか? 誰なら良かったんでしょうか?」

このキッドの中に恋愛感情の欠片も無い事に愕然とした。

「・・・いや、お前が決めた事だ、文句を言う気はない。」

ジーンの言葉に、だがキッドは容赦は無かった。

「では何故、キリーを殴ったんです? 何故、誰も止めなかったんですか? キリーに頼んだ私には何も言わずにキリーだけが責められるのはおかしくないですか、私はこれからの事を考えて・・・自分自身で決めました。キリーは止めてくれたけど私が押し切ったんです。

ジーン、何故、キリーを、殴ったんですか。」

怒っている。

怒りの閃きを星のように瞳に宿らせたキッドは大人のジーンでさえ身を引くほどの迫力があった。

「済まない、キリーには後で詫びを入れる。」

そうとしか言いようが無かった。




救護室には意識の無いキリーとキッドも以前に世話になったDr佐和の二人だけだった。

「・・・おやぁ、キリーはジーンにやられたのね。ウルフが口を割らない筈だわ。」

「・・・・」

黙り込んだキッドに佐Dr佐和は真面目な顔を向ける。

「相手は?」

キッドの視線が向いた先を確認して僅かに息をはく。

「そう、なら安心だわ。ピルは?」

「飲みました。」

「・・ジーンに渡した物がキリーに渡ったか。キッド、次の任務が入ったら出る前に来なさい、色々と有るから。」

「はい、Dr佐和、何でみんな解かるんですか? 顔に書いてる訳でもないのに・・」

「書いてあるのよ。」


一言で終わらせると顔をこするキッドに笑いかける。

「キリーなら病気の感染の心配はない、避妊だけで十分よ。

でも相手によってはね、出来るだけコンドームを使って貰いなさい。」

「私はバカンスで出る訳じゃ無いです。」

その一言で彼女は理解した。

「・・そうね、G倶楽部の男連中に言えない事が有ったら来なさいね。カウンセリングは必要よ。」

笑って頷くキッドの表情は女の眼にも眩しく映った。

「で、キリーはどうだった? 良かった? こいつは猫みたいに自分のそう云う部分を見せないから、キリーと寝た女の意見は貴重だわ。」

「・・・よ、良かった・・です。」

「ふーん、どう良かったの? 何回イッた?」

「・・・・」


「その辺にしておけ、ガキを甚振るな。」

キリーの声にキッドは真っ赤になり、Dr佐和は弾けるように笑い出した。

「いつまでも狸決め込むからよ、起きたのならベッドを開けなさい。それくらいじゃ死なないわ。」

「ひどい医者だぜ・・」

キリーは顔を多少腫らしてはいたが身軽にベッドから降りるとキッドを促した。

「行くぞ、此処にいると碌でも無い事ばかり聞かれる。」




明るい笑い声に送られて救護室を出ると暫く二人は無言で歩いた。先に声をかけたのはキリーだった。

「ジーンに話したのか・・・黙っていればいい物を。」

キッドは黙っている。

「奴らが怒るのは当然だ、この程度で済むなら上等だぞ。

俺は袋叩きぐらいは覚悟していた。」

「何故、貴方が殴られるか解かりません。」

キッドのはっきりした怒りに男は噛んで含める様に説明を始めた。

「男は女の処女性を、たぶん女よりも大事に見ている。あのコオでさえ口では色々と云ってはいてもな。

お前がG倶楽部に入ってからY談が激減・・・絶滅と云った方が良いくらい減った。それくらいみんながお前を大切にしている、それは判るな?」

頷いたキッドに男は続ける。


「出来る限りお前を護りたい奴等ばかりの中で・・下世話に云うなら『可愛いキッドのバージンを頂いちゃった男』の俺を許せる訳が無い。反対の立場になれば俺でもそうなるだろう・・・判るか?」

何とも不可解な表情のキッドは首を傾げる。

「では私がレイプされてバージンを失くした方が良いと?」

キリーの脚が止った。

「ある意味では・・・知らない男ならとことん憎める。奴等が追いかけて殺す前に、まず俺が殺すとみんなが知っているしな。ところが相手は俺だった。」

「キリー、貴方に云う事じゃないけど・・そんな男の非現実的な心情に付き合う気は私には無いです。

後で殺して何になるんです? 元には戻りませんよ。」

男は鮮やかに笑った。

「それで良い、お前は付き合う必要は無いさ。俺は男だから奴等の気持ちが解かるが、お前は気にするな。」

少しだけ解かったような気がした。キリーはいつでも応えてくれるから、つい聞いてみた。


「みんな何故解かるんですか? 顔には書いてないですよね。」

キリーの脚が再び止まる。

見下ろした視線にキッドの眼が上げられた。

夜目にも判る眩いばかりの肌の艶は内側から発光しているように輝き、大きな瞳は潤んでいる。唇は一番変化が大きかった、少年のように引き結ばれていたそれはふっくらと柔らかく、男の視線を釘付けにする。


「書いて在る。」

「何処に?」

「・・・自覚は無いだろうが、経験者にはお前の変化は大きく書いて在るようにはっきり読み取れるんだ。」

「どんな風に?」

キリーはほとんどヤケクソで言い放った。

「綺麗になった。」

そのまま歩き出す。

笑いが込み上げて来る。表面の変化は確かに大きいがキッドの中身は何も変わっていない。

それが嬉しかった。

振り返ると立ちすくむキッドが居る。

「どうした? 行くぞ。」

その声は去年の今頃、河野班長として亜湖にかけた声、キッドの原点となった言葉であった。

それだけを頼りに必死で走り抜けた先にこの場所があった。

行ってみよう、と、キッドは決めた。

この先へ・・・。



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