表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/54

亜湖 01

妄想と白昼夢から創り始めました。

気に入らない方もいらっしゃると思いますが、小生の乏しい脳みそに免じてお許し下さい。

小生、全くのノンポリで御座います・・・言い訳ですが・・・。

彼女は働かなくてはならなかった。

大学がほぼ義務教育化された今の時代で在りながら、大半の友人が当たり前のように進むその路を、彼女だけは行くことが許されなかった。

だが、高校が最終学歴では職は選ぶ程の数も無い。

学校側でさえも力を入れてはくれなかった。

「せめて通信大学ぐらい取らないと・・・」

担任の女性教師は、首を傾げるのと肩を竦めるのを器用にも同時にこなしながら呟いたきり、99.9%の生徒達へと意識を切り替えていった。


身体が弱く登校がきつい者でも、今ではPCを利用した3Dシステムが確立されている。

一般の学部では無く専門大学へと通う者も・・・

100数名の卒業生の中で就職はただ一人であった。

そして・・・高校三年の冬、彼女は狭く限られた中からひとつの道を取る事となった。

周囲の人たちは驚いたが何も云わなかった。

同情に満ちた視線を投げながらも何も云えなかった。

身売りする哀れな娘に差し伸べられる手は無く、これから先もそれは無い事を彼女は改めて思い知った。




「お前たちは屑だ。」

その男の第一声はそれだった。

確かに当たっている。

ダラダラとだらしなく広がり、頭を掻いたり尻を掻いたりしている小汚い連中は揃いの作業着を着ていても崩れきった印象しか与えない。

そしてそう言い切られても何の痛痒もない様はいっそ見事としか云いようが無かった。

「国はお前たちのような屑に大金を払った。元は取らなくてはならない。安心しろ、責任を持って俺が何とかしてやる、ひと月でな。」

力む訳ではない、声高に怒鳴る事も無い。むしろ淡々とした物腰で告げた男は軍曹の徽章を着けていた。





西暦2030年に日本国はそれまで頑なに護って来た専守防衛、自衛としての組織、自衛隊を軍隊へと改めた。

賛否は当然のごとく国内外から溢れかえった。

世界各国で沸きあがった軍国主義の復権への懸念に対して日本が採ったかたちは完全なるシビリアンコントロールであった。

軍人および軍関係者には一切の政治力を与えない事、関与もさせない体制を創りあげ当時全世界の70%加入を果たしていた国連へと持ち込んだ。

今のままでは大国としての責任を果たす事が出来ない。

過去を踏まえた上で、その路に進む事のないよう日本国民と国連に監査組織を編成するよう依頼し、全ての声を受け付ける機関を新たに設立した。

それを評価し受け入れた米国の後押しでEUも承諾する。

しつこく反対したのは中国、韓国、そしてロシアであった。

国内では・・・確かに否の声はあった、が・・それよりも尚、諾の声が多かった。

2000年初頭から表立ってきた領土問題が、2010年にははっきりと世論を騒がせ、その二年後に銃撃戦が起こった事で日本中に戦慄が走った。


太平洋戦争以来、過敏すぎる程の神経で平和を訴え続けたのは他国に対しての贖罪も当然ながら、何よりもあの苦しみを、あの辛さを、身に沁みて知っていたからであった。

それほど遠い過去ではない。飢える切なさを、父や夫という大切な人を失う悲しみを、侵略される恐怖を骨の髄まで知り尽くした日本人が口伝として残し何よりも恐れた戦争。 それが領土の端で起こっている。

すぐそこの小さな島で。


腹をくくるしかない。

穏やかな農耕民族であり続けるには自らを自身の手で護る以外にない。 

米国に頼るだけの他力本願では外交さえ満足に出来ない。

沸きあがる世論にそれでも政府は慎重に事を運んだ。

全世界を敵に廻す訳には行かなかった。

世界各国と日本国民が納得するような形を創りあげなくてはならない。

表むきのジタバタとは裏腹に内閣府は密やかに、だが確実に一つずつ組み上げていった。


日本国軍となったその年かねてからの案件、領土問題が再燃した。 相手は中国、そして韓国。

まるで打ち合わせたように尖閣諸島と竹島をめぐってずかずかと踏み込んで来たのだ。

それは以前の小競り合いでは無くれっきとした戦闘であった。広大な大地と無尽蔵なマンパワーを有する大国、中国と、国力を国民の知識として備えた韓国は強気であった。

日本が過去に犯した過ちを、声高に叫ぶ。

だが、掴み掛かった手は弾き返され、土足で踏み込んだ脚は鮮やかに掬われた。

20年以上の年月を掛けて積み上げてきた隙の無い鉄壁の防護は今までの先守防衛を旨とした自衛隊の生きた遺産である。

そして両国は日本国軍の洗礼を初めて受けたのだ。

陸海空三軍に拠るバランスの取れた攻守は、まるで演習のような的確さで自国領内を席捲した。

だが、その攻撃はあくまでも領海内に留まった。

どちらの国も領内侵犯を誘うべく、攻めてはさがりを繰り返したが日本軍は冷静に対応し小さな島を護りぬいた。

無論、両国共黙っては居なかった。

日本の過去を責め、未来を責め、今現在をも当然責めた。


『日本は軍国主義に戻った!』

『日本は戦争を仕掛けている!』

『日本は他国に攻め入るつもりだ!』

『アジア諸国は日本の植民地にされる! 昔のように!』

火を噴くようなその剣幕に、だが日本は沈黙を守った。

領土は護りながらも戦線を広げる事無く、冷静な外交を駆使して国連が乗り出すのを待ち続けた。

全世界が注目する中、メディアを通じて日本国軍は生真面目で整然とした態度を終始一貫つらぬき通した。

挙がりかけた国内の不安と怯えの声は速やかに沈静化し、部外国も冷静に成り行きを見守る中、国連は中国と韓国の感情を逆撫でしないように働きかけた。

穏やかに、宥めるように。 だがそれはふたつの島の正当な所有権がどこにあるのかを全世界に知らしめる事となる。

あまりにも冷静な世論に中国はなにを思ったのか、思わぬほどあっさりと引き下がった。

まるで仲介者の顔を立てるかのような物腰に、日本の政治家達は表向きの笑顔とは別に更に気持ちを引締めた。

韓国は・・・その翌年、政権の動きと共に突然の国交断絶を宣言し、それまで盛んだった文化交流も一切断ち切られた。日本は政府もマス・メディアも常に声を掛け続けたが、

プライドの高い韓国がこれに応えることは2048年の今になってもなかった。





そこはなにも無ければ相当に広い空間であろうが、ぎっしりと詰まったトレーニング・マシンのせいで相当に手狭に感じられ、ましてそのマシンの半数が使われている今は激しい息遣いと熱気で息苦しい程であった。

20歳前半から30歳前半の逞しい7,8名の男達は黙々と自らの身体を鍛え上げていた。

彼等の多くは一見すらりと細身に見えるが、引き締まった強靭な筋肉に覆われ、しなやかな鞭のように柔軟だった。

残りの幾人かはまだその域には達しておらず、別のひとりは上背も横幅も文句無く巨漢としかいいようが無い。

その巨漢はごく小さなアラーム音が鳴った途端にベンチプレスの台から立ち上がった。

「おう、終わりだ!」

唸るような声に若い男がその童顔を向けた。

「ウルフ、終わりの時はやけに耳が良いね。」

「始まりも聞こえれば良いのにな。」

汗みずくのTシャツを脱ぎながら通り過ぎた男が笑った。

「なんだと・・・」

「時間だ、さっさと支度しろ。」

どこか笑いを含んだ、だが冷ややかな声に巨漢と童顔は急いでその後を追った。


「カズマ、今年のクズ共は見たか?」

シャワー室で勢いよく裸になりながら訊ねたウルフに、童顔が肩をすくめて応える。

「あぁ・・何だか女が多くてさ、今年も無しみたいだよ。」

「おまえ、チェック早いなぁ・・若いなぁ。」

呑気そうな声にカズマが振り返った。

「だって俺の下ですよ、二年も無しで今年で三年目ですよ。

いい加減に来てくれないと、今年もまたウルフのお世話係ですよ、俺。」

いくつかの笑い声が上がる中、ウルフが不思議そうに振り返った。

「え・・・俺、お前の世話になってたっけ?」

カズマの手から拾い集めたデカい下着が落ちた。


シャワーを済ませ、ロッカールームから現れた男達は様子が一変していた。

白と灰色の美々しい第一級軍礼装に身を包み、鏡のように磨き上げたドレスシュ-ズを光らせ、顔つきまでもが厳しく引き締まっている。

「さて、行くか。 クズ共を迎えに。」

白手袋を嵌めながら男が顔を上げた。



西暦2048年5月 関東地区陸軍第一師団立川連隊の入隊式が厳粛に始まった。

民間人の居ない、制服姿が大半の中、中央に並んだクズ共はひとつき前ではおよそ考えられない程軍人らしく見えた。

スチール椅子に真っ直ぐ座り、真新しい制服の背を伸ばして前を見つめている。

式次第は実に簡潔なもので、氏名を呼ばれると返事をして起立、全員が揃ったところで担当軍曹の声が掛かった。

「気を付けーい。 連隊旗に向い、敬礼っ!」

ざっ!・・・

「直れ!」

毛一筋の乱れもなく直立し礼を執ったクズ共に軍曹は内心の安堵を隠したまま冷ややかな視線を投げた。

この入隊式の為だけにひとつきを費やして来たのだから、上手く出来て当然ではある。

だが、今年ほど胃の痛む年度は初めてであった。

喰いっ逸れた最低のクズ共は総勢104名、内女性は3割に達し、潜らせた10人も未だに扱いに戸惑っている。

歩き方、走り方、整列から敬礼を繰り返し、身体、知能の公式、非公式のテストが繰り返され、出るべくして出た脱落者を除いてこの場に立てたのは94名。+10人。

しかし女性は未だ3割をわずかに下回ったに過ぎない。

かてて加えて、軍歴12年のベテラン軍曹に冷や汗と脂汗を流させたのは未だかつて無い事態、知能身体すべてのテストと能力評価でトップの成績を修めたのが、この春高校を出たばかりの子供で、しかも女性で在る事実であった。


高村亜湖

第一番目に呼び上げられた姓名はそれを明白に告げていたが、その場の誰もが微動だにしなかった。

ここは学校ではない。

これからの初等訓練で生き残る事が出来て初めて兵士として認められ、クズから脱却できるのだ。

三ヶ月の訓練、それは地獄と呼ばれていた。

そして、その後の順位こそがクズ共の今後を大きく左右することとなる。


入隊式後クズ共はそれまで使用していた個室から自分の荷物を運び出し、部屋割りに従って大部屋へと移った。

自衛隊から軍隊への移行はそのシステムから大きく変わったが、何よりも注目されたのは男女混合の編成であった。

10名前後で仮チームを組み初等訓練を受け、その後生き残りで正式なチームを組み上げたならば、それは軍においてファミリーと称される。

いくつかの例外は有るものの、配属先は勤務地となり家から通う形になるのだ。

高村亜湖のAチームは10人編成で、女性は3人であった。居室は広かったが三段ベットが三面の壁を占め、残りの一面は引き出し式の簡易ベッドと出入り口のドアで埋まっている為、閉塞感は著しい。

ベッドの割り振りは出来ていた。


「女性は全員最上段、後は好きにして良いらしい。」

そう告げた男を亜湖はまじまじとみつめた。

引き締まった長身といかにも有能そうな言動は、自身で手一杯の亜湖であっても最初から眼に入っていた。

自分達とは明らかに違う存在、素人では有り得ない男。

そんな人間を押しのけて第一順位で名前を呼ばれたのは・・・


「なんだ高村、考え事はひとりでこっそりするものだぜ。」

余裕のある笑顔で亜湖ははっと気づいた、が。

「ああ、はい。」

梯子を昇り遮光のロールスクリーンを上げるとシングルベッドよりも多少広いスペースがあった。梯子と反対の枕元には掌紋ロック式のロッカーが有り私物を入れられる。

「聞いてくれ。」

さっきの男の声に下を見るとなにやら紙を見ている。

「Aチーム専用のトイレ、シャワー、ロッカールームは向かいのドアらしい。 必要な場所の見取り図をここに張り出しておくから確認してくれ。 この後は昼飯とミーティングで・・時間がないぞ、急いだ方がいいな。」

男のベッドは思った通り、プライバシーのない予備のものであった。


食事は量も質も申し分なく、熱いものは熱く、冷たいものは冷えていたがチームごとのテーブルはまだぎこちない。薄いグレーの作業着に縫い取られた名前を読みながらの会話より、食べるほうに皆の意識は向きがちだった。

「ねぇ、自己紹介しない? 私は鈴木歩美、20歳よ。」

つやつやした短いボブを振って笑いかけた先は、あの男だった。 

「あぁ、俺は河野卓、24歳。」

「俺・・かな、 篠崎亮介 22歳だ。」

次が亜湖であった。

「高村亜湖 18歳。」

一瞬みんなの動きが止まった。

「・・・えぇっ、18?  若っ。」

亜湖の隣の男が笑った。

「木村英嗣、23歳だ、 エースが18とは思わなかった」

「・・・? 」

戸惑う亜湖に英嗣がまた笑う。

「お前、第一順位じゃないか。 よろしく頼むぜ。」

「・・あ、あぁ・・こちらこそ。」

ひと通りの紹介と挨拶が済むとチームの最年長の河野卓が穏やかに告げた。

「仲良くやって行こう。最低でも三ヶ月、長ければ一生物の付き合いになるんだ。お互いに少しづつ助けあえればきっと乗り切れるだろう。俺たちはファミリーだ。」


「以前は大変だったそうよ。」

Aチームの女性ロッカーで歩美が囁いた。

慌ただしく支給された通常軍服や備品を片付けながら、もうひとりの女性隊員 高橋真理が顔だけ向けた。

「聞いた事ある、盗難やレイプは頻繁だったって。」

真理は小柄ながらも筋肉質の、まるで猫のような運動神経を持った22歳で、表情も明るい。

「亜湖、あんた気を付けなよ。」

華やかで女らしい歩美とは全く逆の無造作な言葉に、亜湖の手が止まる。

「何を?」

「あんた若いし、可愛い顔だし。でもね何よりこの立川連隊18期生の第一順位のエースだ。引きずり落とそうとする連中からは真っ先に狙われる。」

「そうよぅ、男の嫉妬はタチが悪いから。女に負けることを認めたくない奴が案外多いのよ。」

ふたりの言葉に亜湖は驚いた。

「そうなんだ。でも順位なんて・・どうせ暫定のものだし、私は公務員の仕事を選んだだけなのに。」

歩美と真理は顔を見合わせ、一瞬後 吹きだした。

「・・なに?・・」

ゲラゲラと笑いながら真理が涙を拭った。

「そうか、確かにそうだな、あんたの言う通りだ。」

「あははっ、公務員ねぇ・・公務員かぁ。」


「私、驚いたなぁ。 公務員の仕事だなんて考えてなかったから。」

歩美が呟いたのは亜湖がトイレにたった後であった。

「あぁ、私も・・・似たようなものだ。」

「私も同じ、体育教師よりは良いかも程度。ねぇ、私達は上手くやって行けそうじゃない?」

真理が頷いた。

「そうだな、エースは天然のガキだけど素直だし、男を当てにするより、三人で手を組んで乗り切ろう。」

 





PCはにがてです。

頑張る私に愛の手を・・・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ