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359回目のプロポーズ  作者: 28号
本編
9/30

秘密の場所と呪いの秘密

「ここは俺の秘密の場所なんだ。園児もロクに来ないから普通に喋っても大丈夫だよ」

 そう言うタカシ君に連れてこられたのは、体育館の裏にある大きな木の根本である。大きいと言っても樹齢何百年もあるような物ではないが、根本の地面がくぼんでおり、小さな子供なら隠れられるような穴が居ているのだ。

「ほらおいで」

 と紳士的に私を穴の中に座らせてくれる彼は、やはり4歳児の風格ではない。

「そんな警戒しないでよ。別にとって食おうってわけじゃない」

 何て台詞を4歳児に言われるとは思っていなかった私は、自分の隣に腰を下ろすタカシ君をしげしげと見てしまう。

「あなたも前世を覚えてるのよね」

「そうだよ。それに境遇もかなり似てる」

「境遇?」

「僕は悲恋57回目」

 思わず息をのんだが、タカシ君は笑顔のままだった。

「恋を奪う呪いって結構メジャーなんだよ。だから、同じ境遇の奴は沢山いる」

 そしてタカシ君が口にしたのは、同じクラスの園児達の名前だった。

「私、全然知らなかった」

「でも君のことはみんな知ってるよ。357回なんて凄い記録だし」

「そっそうかなぁ」

 褒められた気がして思わずにやけてしまった。いかんいかん。

「そうだよ。だからずっと会いたいと思ってたんだ」

 そう言ってい頂けるのはありがたい。

 ありがたいけれども、さり気なく腰に回された腕は凄く気になった。

 どうやらタカシ君はスキンシップが好きらしい。そう言えばお絵かきの時間も、複数の女の子の頭を撫でたり肩を抱いたりしていた。

「チカちゃんのことは、親父から色々きいてたんだ。だから是非慰めてあげたいなって」

「慰める?」

「無理しなくて良い。一人でずっと辛かっただろう?」

 更に詰まる距離。そして腰に回された腕にこもる力強さに、私は思わず悲鳴を上げかけた。

「たっ確かに幼稚園に放り込まれたのは悲しいけど。でもやっぱり、私には先生がいるし、人妻だし、こういうふれ合いはダメだよ」

 先ほどの計画を棚に上げ、私は取り乱してしまった。

 外見はまだ子供だが、タカシ君のスキンシップは情熱的すぎるのだ。その上隙が無く、いつの間にか逃げ道もふさがれている。

「大丈夫、僕は君を見捨てたりはしない」

「かっ格好いい台詞だけど、そう言うのは別の人に言いなよ。それにさっきも言ったけど、私には先生がいるし。っていうか先生しかいないし」

 途端に、タカシ君は酷く切なげな顔をした。それも様になる可愛らしい顔をしているが、だからといって抱きしめられたくはない。

「可哀想に、まだ恋人のことが忘れられないんだね」

「忘れるも何も、先生と私は恋人同士だから! だから腕を放して!」

 暴れる私に、タカシ君が今更のように眉を寄せる。

「もしかしてチカちゃん気付いてないの?」

「何をよ」

「チカちゃんの呪い、もうとけてるんだよ」

「えっ! それってまさか私もう先生と……!」

 思わずガッツポーズをしようとしたが、その腕をタカシ君がギュッと掴んだ

「やっぱり、チカちゃんは知らないんだね」

「だから何の話よ」

「てっきり無駄を承知でアタックしている物かと思ってたんだ。そうか、知らないからあんな無謀なことができたのか……」

 さっきからどうも話が噛み合わない。その上彼の発言はあまりに失礼だ。

 ここは多少手荒な手に出ても致し方あるまい。

 そう思って彼の体を突き飛ばそうとしたとき、タカシ君の口からあまりにも突然すぎる告白をされた。

「残念だけど、君の恋人はもう君を好きじゃない。呪いがとけたのは、その所為だよ」

 彼をはね除けようとした腕が、中途半端なところで止まってしまった。

 その上タカシ君があまりにも真剣な顔をしたので、私はただただ動揺することしかできなかった。

「ショックかも知れないけど君のために言うよ」

 そう前置きされたときも、彼から視線をそらすことしかできなかった。

「あの呪いは愛の力では絶対にとくことが出来ないんだ。どちらかが呪いに負けを認めて、愛を諦めない限りはね」

「でも私は諦めてない」

 ようやく喉から零れた声は自分でもビックリするくらいか細い物だった。

 それを聞いたタカシ君は残念だと繰り返し、私の頭を撫でる。 

「君が諦めて無くても、君の恋人は違うんだ。親父からきいたけど、君の恋人は前世の記憶がないんだろう?」

 小さく頷くと、タカシ君が大きなため息をつく。

「記憶がないことが何よりの証拠だ。愛を諦めると、それまでの記憶を全て失う。そうしないと新しい人生に進めないからね」

 その言葉を否定したかったが、どこか辛そうに歪んだタカシ君の顔がそれを止めた。

「俺の彼女もそうだったんだ。ヒグマ組の南先生なんだけど、毎日会ってるのに全然気付いてくれない」

 それが正しいなら先生は……、彼は私を愛していないと言うことになる。

 でもそんなはずがない、そうだったら私を家に置いてくれるはずがない。

 先生は違う。ただなにか違う理由で、うっかり忘れているだけに決まっている。

 そう宣言しようとしたのに、口から零れたのは弱気な質問だけだった。

「記憶を無くすのも、呪いが起こす障害の一部って事はないの?」

「それはないよ。今まで前世の記憶を持つ人に沢山会ってきたけど、例外はいなかった」

「でもほら、私の記憶はあるし」

「それを言うなら俺もだろ?」

 言葉を返せずにいると、タカシ君が私の肩を優しく叩く。

「けど安心して、呪いが消えたって事は恋が出来るって事だ。普通にキスしたりデートしたり結婚したりもね」

「でも、先生じゃなきゃ嫌なの」

「気持ちはわかるけど、君もきっとすぐ慣れる。それにどうしても辛いなら負けを認めればいい、そうすれば全てを忘れられる」

「先生を忘れるなんて無理」

「でも片方だけ記憶があるのも、辛いもんだよ」

 タカシ君は笑った。けれどその笑いはどこか自虐的で、見ていてとても辛かった。

 そのとき、遠くから私達を呼ぶ南先生の声が聞こえてきた。

 二人で木の根本から出れば、少し怒ったような先生の顔が見える。

「先生ごめんなさい」

 そう言って駆け出したタカシ君を待ちわびるかのように、先生が彼の体をしゃがんで抱きとめる。

「もう、心配かけないでね」

「うん、ごめんね」

 そう言って、タカシ君は先生の頬に可愛らしい口づけをした。

 先生は驚いたが子供のイタズラだと思ったのか、優しく怒っただけだ。

「タカシ君はおませさんね」

「先生にだけだよ」

 そう微笑んだ笑顔は大人びていて南先生が僅かにハッとする。けれどその言葉の意味を、南先生が理解することは永遠にないのだ。

 そして二人のやり取りに、私は理解してしまった。

 私と先生は、もう運命の相手ではない。そしてそれを選んだのは、他ならぬ先生なのだと。

※11/18誤字修正しました(ご指摘ありがとうございます)

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