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359回目のプロポーズ  作者: 28号
本編
8/30

片づけられないパイプ椅子

「お前、今日やたらと時間気にしてるよな」

 長谷川が絡んでくるのはいつものことだが、今日はいつにもまして馴れ馴れしい。

「まあわかるぞ。俺もタカシがはじめて幼稚園に行った日は、ずっとそわそわしてた」

「お前と一緒にするな」

「うんまあそうだよな。チカちゃんは子供兼奥さんだもんな」

「だから違う」

「隠さなくていい。大事で仕方ないんだろ、目に入れても痛くない、むしろ目に入れたいくらいなんだろ?」

 一人盛り上がる長谷川があまりに五月蠅くて、俺は思わずチカにやるのと同じ要領で奴の頭に拳骨を入れてしまった。

「これ以上何か言ったら、今度は本気でやるぞ」

「素直じゃねぇな」

 言いつつ、長谷川はチカのパイプ椅子に座り語るモードに入っている。

 どうして今日に限って、こいつと同じタイミングで授業がないのだろう。

「まあ安心しろ、チカちゃんだったら上手くやるさ。むしろ今頃友達100人くらい作ってるかもな」

 実際に作っていそうだから怖いのだ。俺が絡まなければあいつは何でもそつなくこなせる器用さがある。

 高校時代だって俺にアタックする所為で女子生徒からいじめまがいのことをされていたが、同じ数の女子生徒から応援されていたのも事実だ。

 多分コミュニケーション能力は無駄に高い。それを俺に使ってくれないのが腹立たしいところだが。

「あいつが上手くやるのはわかってる」

「じゃあれか、今頃違う男に言い寄られていないか心配してるのか?」

「男ってお前なぁ」

「幼児だと思って甘く見たらダメだぞ、俺の息子なんて毎週遊んでる彼女が違うんだ」

「……その年で女たらしか、将来が心配だな」

「俺に似ていい男すぎるだけだよ。紳士的で顔も良いし、チカちゃんもうっかり惚れちゃうだろうな」

 それは多分無いだろう。長谷川はともかく彼の女房は美人なので顔はそれなりに良いかも知れないが、相手はあのチカだ。

「今あり得ないって思ったな」

「だから何だ」

「そう言う慢心が駄目なんだよお前は。4年前だって、余裕ぶっこいてたからキスのひとつも出来ずにチカちゃんは……」

 思わず眉をひそめれば、長谷川が慌てた様子で後退した。

「そんな怖い顔するなよ。お前無駄に目力あるんだから」

 そんな顔をしているつもりはなかったが、確かに少し眉間に皺が入りすぎていたかも知れない。

「ともかく、今度はさっさとプロポーズしろよ! 今度手放したら、お前絶対前以上に荒れると思うんだよ」

「荒れてない」

 その顔でよく言うと苦笑して、長谷川は逃げるように自分の机へと戻っていった。

 それに軽く睨みつけてから、俺は長谷川が出したままになっているパイプ椅子に目を向ける。

 座る者のいない椅子は酷く邪魔で、いい加減倉庫に片づけたい。

 そう思いつつも、「めんどくさい」と椅子から目をそらした自分が何より腹立たしい。

「プロポーズもなにも、相手は幼稚園児だぞ」

 思わず呟いて、そしてそんな自分に更に腹が立つ。

 あいつのことを考えるたびに、俺はいつも腹を立てている気がする。

 我ながらそこまで邪険にしなくてもと思うのだが、自分の意志とは関係なく、チカの事を考えると愛おしさとは真逆の感情が出るのは前からだ。

 そしてその所為で、酷い後悔をしたこともある。けれどそれでもまだ、俺は自分の感情が上手く扱えない。

 まるで自分がもう一人いて、チカのことを拒もうと必死になっている。そんなことを時々思うほど、俺の心はチカによって掻き回されている。

 それはとても不快で、チカごと捨ててしまいたいと思ったこともある。けれどチカの座る椅子すら片づけられない俺には到底無理な話だろう。

 拒むことも出来ず、不快感を消すことも出来ない。

 その間で上手く立ち回る方法があればきっとチカを傷つけずにすむのに、俺はそのやり方すら今だわからない。

 もし俺に記憶があったらこんな事にはならなかったのだろうか。

 なんてガラにもないことを思ってしまった自分にまたしても腹が立ち、俺は堂々巡りの考えに頭を抱えた。

※11/18誤字修正しました(ご指摘ありがとうございます)

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