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359回目のプロポーズ  作者: 28号
本編
7/30

初めての友達

 ヒグマ組。

 可愛いらしさが微妙に欠けているそのネームタグがついた教室が、私のクラスだった。

 名前のセンスからヤクザの息子でもいそうだなとうっかり思ってしまったが、さすが先生が見つけただけあり、クラスメイト達は皆育ちの良さそうな子供ばかりである。

 とはいえ普通だからこそ、彼らは季節外れの新顔を警戒していた。

 でもこの手のことには慣れている。こっちは場数が違うんだ場数が。

「チカです。チカちゃんってよんでください」

 女の子に嫌われないように照れを8割、男子に好印象を与えるように可愛らしさ2割の挨拶をすればクラスメイト達は皆チカちゃんチカちゃんと笑ってくれる。

 その後お絵かきの時間やお歌の時間を使って園児達の力関係を観察し、必要なところに媚びを売れば、あっという間にクラスに馴染んだよい子の出来上がりだ。

 女王様系の女子がいないのも功を奏し、ひとまずクラスでの居場所を確保した私は、「完璧園児チカちゃん」となるべく、お昼寝前の自由時間を使い、幼稚園中の園児と先生の動向を観察していた。ちなみに校庭の端にある、ジャングルジムの上からである。

 園庭には子供が多くいるが、ジャングルジムは流行ではないのか私の城となっている。

 そこの頂きに立ち、幼児どもの一挙一動を観察する私は我ながら腹黒いと思うが、3年ものあいだここに通うのである。下手に弾かれたら先生が心配するだろう。

 とはいえ正直なところ、少しくらい心配させたい気持ちもある。

 世の中の4歳児がこの手の施設に通うのが当たり前となっているのはわかる。わかるけれども私は普通ではないし、それを先生もわかってくれていると思ったのだ。

 そりゃあまあ、実際は通ってみるとお絵かきの時間は楽しい。

 ピアニカを吹くのも悪くないし、カスタネットを叩いているとテンションも上がる。

 けれど私は先生の恋人で、奥さんになる予定の存在なのだ。

 それを幼稚園に入れるなんて信じられない。

「お前を閉じこめておきたい。俺の腕の中にずっと」位の気持ちがあってしかるべきだと思うのだ。

 なのにあんな軽々とバスに放り込まれたら、さすがの私も傷つく。

 キスは……キスは思い出すだけでにやけるほど嬉しかったけど、やっぱり悔しいのだ。

 私は一体先生の何なんだろう。

 そう柄にもなくナイーブになるくらいに、私は傷ついたのだ。

 とはいえクヨクヨもしていられない。わからないならわからせればいい、それが私のポリシーだ。

 とりあえず、私に好意を抱いている園児が既に3名ほど居るので、彼らをたらし込み、先生の前でキスのひとつでもしてやろう。そうすれば先生もやきもちを焼き、きっと私の大切さを認識するに違いない。

 そうだそれがいい、そうしよう。ちょっと心は痛むが、これも夫婦円満のためである。

「いやそれ、絶対上手く行かないと思うよ」

 不意に、酷く大人びたツッコミが聞こえてきがした。どうやらうっかり考えを漏らしていたようだ、危ない危ない。

「ねえちょっと、きいてる」

 私はハッと口をつぐむ。それから慌てて視線を下げると、そこには同じクラスの…えっと…。

「タカシだよ。長谷川タカシ」

 慌ててジャングルジムの下に立つ少年を見れば、彼は見覚えのある笑顔を私に向けていた。

「あんたの通ってた高校にいる長谷川は俺のオヤジ。あんた、噂のチカちゃんだろ?」

 何故それを知っているのか、そもそも何故こんなにも大人びた喋り方をするのかと驚く私に、タカシ君はもう一度微笑んだ。

「君のことは親父からきいてたんだ。前世とか運命とか凄い言葉で高校教師をたらし込んだ子がいるって、親父が笑いながら喋っててね」

 その説明の仕方はどうなのかと思うが、今の問題はそこではない。

 流暢に喋り、そして無駄に色気たっぷりに微笑むタカシ君である。

「そう警戒しないでよ、俺が君に興味を持ったのは俺が君と同じ境遇だからなんだ」

「同じ境遇?」

「俺も前世を覚えてるって言ったら、少しは興味出た?」

 出るところではない、驚きのあまり、私はうっかり足を滑らせた。

 けれどそんな私をタカシ君は軽々と抱きとめる。凄いなタカシ君。

「二人でちょっとフケない? チカちゃんとは色々お話ししたいんだ」

 そう言うタカシ君には物凄く驚いた物の、はじめて見る同類に私は思わず頷いた。

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