表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
359回目のプロポーズ  作者: 28号
本編
4/30

苦難の始まりは身内と同期から

「真田、お前子どもが出来たって本当か!」

 同僚の長谷川が大声で怒鳴り込んできた瞬間、俺は色々な意味で終わったなと思った。

 朝の職員室には教師だけでなく生徒も多くいたし、そのうちの何人かは俺の返答も聞かずに物凄いスピードで教室を出て行った。

 たぶんあの顔は新聞部の生徒だ。きっと次の休み時間には、誤解まみれの号外が学校中に張り出されているだろう。

「黙ってないで何とか言え!」

「お前こそ黙れ」

 本気で睨めば乱暴な言葉は引っ込んだが、周り全員が俺の答えを待っているのは明白である。

「誰から聞いたんだその話」

「聞いたんじゃなくて見たんだよ! 俺のかみさんが、郊外のショッピングモールで、お前が小さい女の子連れてるのを!」

 人目につかないよう近場での買い物は避けていたのに、まさかこの男の身内に見られるとは俺も本当に運がない。

「それで、あの女の子は誰なんだ!」

 親戚。

 と思わず答えそうになったが、ここで下手に嘘をついても調べる輩が出てくるのは明白だ。ならばおかしな誇張を加えられる前に、真実を話した方が賢明かもしれない。

「訳あって引き取った子だ」

「それってつまり養子って事か? それとも元々はお前の子で、それを元カノが隠してたとか修羅場的な……」

「勝手に昼ドラみたいな妄想すんな!」

「けど突然すぎるだろ」

「俺だって困ってる。引き取ってきたのはそもそも兄貴なんだ、付き合ってた女の子供らしくてな」

「じゃあ兄貴の隠し子か?」

「全く関係ない子だよ。実家が資産家だってこぼしたら、『代わりに育ててください』って手紙と一緒に押しつけられたって話だ」

 やっぱり昼ドラじゃねぇかと言われ、俺は少しだけ考えを改める。

 もっとおかしな事があったので失念していたが、確かにこれはフィクション並みにきてれつな話だ。

「でもなんでそれをお前が」

「兄貴の性格知ってるだろ。カッコつけて貰ってきたはいいが収入もロクにねぇし、実家に預けてトンズラだ。オヤジとお袋は激怒してガキを今すぐ捨てるとか言い出すから、渋々俺がな」

「俺がなってお前、子供なんて育てられるのかよ」

「ある意味手はかからないガキだから、まあなんとか」

「でもお前まだ30だろ、子供なんかこさえて結婚とかどうする」

 あんな子供じゃ逆立ちしたって無理だろう。と思ったが勿論それは言わなかった。

 言えるわけがない。子供が出来たことはともかく、これだけはばれるわけにはいかない。

 あのガキが、まさかあの問題児だったなんて。

「あっいたいた! 先生!」

 けれど運命とは残酷な物で、どういうわけだか職員室の入り口に、最も見たくない小さな人影が立っていた。

 その上そいつは俺の所まで来ると、もう4年ほどおいたままになっているパイプ椅子を開き、そこにちょこんと腰を下ろす。

「何しに来た」

「お弁当忘れたから届けに来ました。っていうかこの感じ久しぶりですね。あ、校長先生お久しぶりです! 長谷川先生も老けましたねぇ、ジャージが前より似合ってますよ!」

 言いながら俺の肩に頭をくっつけてくるその姿に、長谷川が時を止めている。

 彼だけでなく、古株の先生達が物凄く驚いた顔をしている。

 この椅子に座り、毎日のように輪廻転生や悲恋の話をしていた生徒のことは、俺だけでなくみんなの記憶に焼き付いているのだろう。まあ忘れようがないインパクトがあったのは事実だ。

「真田、まさかその子……」

「俺も信じられないというか信じたくないけどな」

 俺の言い方が不満だったのか、こちらを睨む視線を感じる。勿論無視したが。

 その一方で、長谷川が諭すように俺の肩を掴んだ。

「……ロリコンは、ダメだぞ」

「誰が手を出すかこんなちんちくりん! 兄貴の拾ってきたガキじゃなかったら今すぐ捨ててるところだぞ!」

「でも、だってお前、これお前のチカちゃんだろ……!」

「お前のってなんだよ」

 長谷川の言葉に俺は唸り、代わりにチカが得意げに胸を張る。

「そうです! 真田先生の永遠の恋人小林千佳です! っていっても今は北山姫輝芽ティアラって酷い名前なんですけど、ともかく帰ってきましたよ!」

 机の上に立ち胸を張る4歳児に、何故だか職員室に拍手がわき起こった。

 中には感動して泣いている教師もいる。と言うか校長と教頭は号泣しすぎてティッシュを消費しまくっている。

 でもここは感動するポイントでも喜ぶポイントでもない。

 そう言いたかったが、多分誰もきかないので俺は黙って耐えるほか無かった。

※11/18誤字修正しました(ご指摘ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ