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359回目のプロポーズ  作者: 28号
番外編:ランドセルが似合う頃に
25/30

4月馬鹿

エイプリルフール記念。

「タカシ君と、お付き合いすることになりました」

「ああ、そう」

 終わった。

 寝ないで必死に考えた告白だというのに、「ああ、そう」の一言で終わった。

「先生聞いてましたか?」

 聞いてるよ、と布団に潜ったまま先生は言う。

「タカシ君ですよ。クラスで一番のイケメンの」

「しってるよ。あの、ランドセルに仮面ライダーのシール貼ってる奴だろ」

 よく遊びに来るじゃねぇかと眠そうな声で先生は言う。

「彼に告白されたんですよ」

 うん、なのか寝言なのかわからない声で、先生呻いた。でもコレは私が欲しかったうめき声ではない。

『俺はお前の女だろう。タカシって誰だ、今から殺しに行ってくる』

 くらいの熱い反応を私は期待していたのだ。

 なのに先生は相変わらず布団から出てこない。

 声にやる気もない。

 コレが深夜ならまだわかるが今日は日曜日の、それももう昼の1時過ぎである。

 先生が休みの日に寝てばかりいるのは今に始まったことではないが、人が真剣な告白をしているというのにこの反応は何なのか。

 もちろん寝ぼけた先生は私の大好物でもあるので、普段なら萌えたりこっそり写真を撮ったりするのだが、今日ばかりはちゃんと起きて欲しかったのである。

「先生ちゃんと聞いてください、私これから不倫するんです!」

「ああ、そう」

「自分の奥さんが不倫宣言しているのに何ですかその反応は! それでもあなたは旦那ですか! もう少し私に対する熱意とか愛情とか見せてくださいよ!」

 1回目よりさらにやる気のない「ああ、そう」に、思わず先生の体をバンバン叩く私。

 その直後、それまでは亀のように動かなかった先生が、突然私の腕を掴んだ。

 気がつけばそのまま布団の引きずり込まれ、先生にがっしりと抱えられる。

 一瞬私の脳裏をときめきメモリアルという言葉がよぎったが、我に返ってよく見てみると、枕を抱えるような抱き方だったのでときめきも何もあった物ではない。

「先生寝ぼけてるんですか! どうせならもっと、素敵に抱きしめてください! それか裸になりましょう、裸に!」

「小学生の分際で……」

 何が裸だ、という後半部分はやっぱり寝ぼけ半分だった。

 仕方なく、私は先生の腕の中で体勢を変え、恋人らしい位置で先生と向き合う。

 だが先生は二度寝の体勢らしく、私のことなど気にもかけていない。

「先生、あんまりつれないといつか本当に不倫しちゃいますよ」

 悔し紛れにそう呟いて、私は先生の頬を突っついた。

 すると突然、閉じていたはずの先生の目が開く。

「それは困るが、だからといって4月どころか年中馬鹿なお前に付き合うなんてごめんだ」

 ウンザリするような声と表情に、私は気付く。

 どうやら騙されていたのは、こちらだったようだと。

「ちゃんと起きてたんですね!」

「あんだけ騒がれたら起きるだろ普通。それに、エイプリルフールくらい俺も知ってる」

「知ってるなら少しくらい騙されてくれてもいいのに!」

「騙されてほしけりゃもう少しマシな嘘つけよ」

「だって先生の愛情を計りたかったんです」

「10デシリットルくらいだな」

「そんな微妙な単位で表さないでください! っていうか、デシリットルは少ないです!」

「小学生のお前に分かりやすいようにっておもって」

「私はちゃんと大人です! っていうか、その言い方幼稚園の時と何も変わってないです! 小学生は立派な大人です!」

「じゃあお前、因数分解ちゃんとできんの?」

 正直忘れているが勿論そんなことは言えない。

「因数分解くらい、楽勝ですよ」

 屁のカッパですよと胸を張れば、予想外にも先生がほんの少しだけ私を抱き寄せてくれた。

「さっきの嘘よりはマシだな」

 それから先生は、もう一度目を閉じて私の髪の顔を埋めた。

 突然の甘い雰囲気に喜びのあまり叫びそうになったが、そこで私はふと気付く。

「……先生、もしかして意外とさっきの嘘効いてました?」

「効いてねぇよ」

 なんて素っ気ない言葉が返ってきたが、私だって先生の嘘は見抜けるのだ。

「効いてましたよね、素知らぬ風を装いつつも意外と不倫発言に動揺してますよね!」

 奥さんにはお見通しですよと、再び胸を張れば先生は無言だった。

 それでも白状しろと言う気迫を出し続けていると、先生がさらに近くに私を抱き寄せた。

「効いてねぇよ」

 ポツリと繰り返された一言は肯定も同じで、私はにやりと笑う。

「先生は嘘が下手です」

 それから先生にぎゅっと抱きつけば、不本意そうなため息が耳元をくすぐる。

 騙すのも騙されるのも悪くない。

 だからこれから毎年、こうやって先生に嘘をつこうと、私はこっそり決意した。

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