頭のおかしい教え子
「屋上にしましょう。それが良いです、素敵です、絶対屋上です!」
「……何がだ」
意味不明な発言を繰り返す問題児の、いつも以上に意味不明な発言に捕まったのは、卒業式を間近に控えた日のことだ。
授業もほとんど無いというのに、「先生に会いたいから」なんてふざけた理由で毎日登校してくるこの少女の名前は小林千佳。
俺を運命の相手だといってはばからない、頭のおかしい教え子である。
「何がってプロポーズの場所ですよ! 先生がこうやって跪いて、私に指輪を渡す場所です」
思わず彼女を殴った俺を誰が責められようか。何せこいつと俺は恋人でも何でもないのだ。
「何でいきなり結婚することになってる」
「いきなりじゃないです、私達はもう357回も……」
「もういい、その話は耳タコだ」
「じゃあ、卒業式が終わったら屋上で待ってます」
「待ちぼうけだな」
「えー」
「卒業式が終わったら、さっさと帰りたい」
「じゃあ先生の家でも良いです」
「じゃあって何だよ」
「ずっと待ってたんですよ、最後の障害が無くなるのをずっと!」
そう言って近寄ってきた千佳は、ここが職員室だというのも忘れて俺の体に抱きついてくる。
その温もりにどこか緊張している自分に気付き、俺は思わず舌打ちをした。
「でもまだ未成年だろ」
「大丈夫です、先生とエッチしても誰にも言いません!」
「と言うことを現在進行形で職員室で喋っているお前を信じられると?」
「ここの先生達も口が堅いと思うんです」
「そう言う問題じゃない」
千佳の体を離すと、何故だか周りからがっかりしたような視線を感じる。
何だよその「またダメだったか」みたいな目は。お前等全員ここは千佳を叱るところだろう。
「ともかくプロポーズ何てしない」
「します、先生は絶対します!」
「何でそう言いきれる!」
「愛」
思わず頭を叩いた。
「だって先生、もし私が居なくなったら絶対寂しいですよ!」
「そんなわけねぇだろ!」
「あります! だから絶対、卒業式までに指輪とかうっかり買っちゃいます!」
絶対そうだという千佳に、俺はあり得ないと鼻で笑った。