表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
359回目のプロポーズ  作者: 28号
本編
13/30

欲しかった物はすぐ側に

「先生! 未来のお嫁さんがお弁当を持ってきましたよ!」

 そう言って職員室に飛び込んだのに、先生はいなかった。

「チカ、お前授業時間も忘れたのか?」

 先生の代わりに出迎えてくれたのは、色々な意味でお世話になった長谷川先生だ。

「そうか、まだ授業中なんですね」

 職員室には長谷川先生と数人の先生が居るだけで、とても静かだった。

「せっかく先生に会えると思ってきたのに」

「じゃあそこで待ってればいいだろ。そろそろ昼休みなんだし」

 と言ってパイプ椅子を広げてくれる長谷川先生。

「っていうかお前、幼稚園どうした」

「今日休みですよ。遠足の振り替えで」

「マジかよ! 俺なんにも聞いてないぞ」

 知ってたら早く帰って息子とキャッチボールしたかったという長谷川先生。

 でもきっと、タカシ君は家にはいないだろう。

 何だかんだ言ってまだ南先生が好きな彼は、「とにかく押して押して押しまくるんですよ」という大先輩のアドバイスを信じ、休日も先生の家に押しかけているはずだ。

「でも何もきいてないってことは、もしかして先生奥さんから嫌われてるんじゃ?」

「俺の話は良いだろ。つーかお前、真田とはどうなんだよ」

「ラブラブですよ! 大きくなったら結婚してくれるって言われました」

「ほー」

 と言う長谷川先生の反応はあまり芳しくない。これは信じてないな。

「本当なのに」

「いや、別に嘘だと思ってたわけじゃない。ただ、あいつもついに決心したんだなぁと」

 どういう意味かと尋ねると、先生の机の引き出しを開けろと長谷川先生が言う。

 言われるがまま指定された引き出しを開ければ、そこには数冊の参考書と小さな箱が入っていた。

 小箱を見た瞬間、私のテンションが上がったのは言うまでもない。

「こっこれは!」

「開けてみろ」

 と言われるまでもなく開けると、そこには指輪が入っている。

「まさか、まさか私に!」

「そのまさかだよ。っていっても、前のお前に真田が買った物だけどな」

 正直信じられなかった。

 私は亡くなる数時間前まで「結婚しましょう」と言い続けてきたが、あのころの先生は嫌そうな顔を崩したことがなかったのだ。

「卒業式の日に渡すつもりだったらしいぞ。まあその前にお前はぽっくり死んじまったが」

 それが本当なら死んでいる場合ではなかった。これは悔しい。下手な障害で引き裂かれるよりよっぽど悔しい。

「死ななきゃ良かった」

「全くだよ。お前が死んだお陰で色々大変だったんだぞ、こいつすごい荒れてさ」

「まさかそんな」

「そのまさかだよ。何かもう後追いするんじゃないかってくらい凹んでたし、酷いやつれようだったから校長が無理矢理休暇取らせたくらいだ」

 それが本当だったとしたら、先生には酷いことをした。

「だから今度はうっかり死ぬなよ」

「大丈夫です、もう呪いはないそうなので」

 代わりに愛の奇跡もなくなったが、私と先生の間には新しい絆がちゃんと芽生えている。

「だから長谷川先生、結婚式には必ず来てくださいね!」

 そう言って微笑んでいると、職員室に懐かしいチャイムの音色が響き渡る。

 彼が来るまであと少し。

 私は受け取るはずだったぶかぶかの指輪をはめて、愛しい先生を待つ。

 多分私の姿を見たら嫌な顔をするだろうが、先生の眉間の皺は愛情の証だと気付いた今、前よりずっと先生への愛おしさは増している。

 彼が来たら思いきり抱きついて愛を囁こう。そう決意して、私は職員室のドアを笑顔で眺めた。




 359回目のプロポーズ【END】

※11/18誤字修正しました(ご指摘ありがとうございます)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ