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359回目のプロポーズ  作者: 28号
本編
10/30

笑顔のない夜

 どうやら、幼稚園に入れたのは失敗だったらしい。

 迎えに来た俺に笑顔ひとつ見せないチカに、俺はそう悟った。

「チカちゃん少し疲れちゃったみたいなんです。昼間は元気だったんですけど、夕方くらいから静かになっちゃって」

 そう言って説明してくれる担当の保育士から話を聞きつつ、俺はチカを抱き上げる。

「帰ろう」

 いつもなら抱き上げただけで大興奮するところだが、チカは静かに頷いただけだった。

 その後も一言も喋らず、家についてもチカは静かなままだった。

 夕飯の支度をしつつ様子を見たが、やはり元気を取り戻す様子はない。

 チカの好物のハンバーグを焼いてはいるが、それくらいで機嫌が直るようには思えず、俺は料理の手を止めてチカの側に座った。

「幼稚園、どうだった?」

 そんなことは見ればわかる。にもかかわらず、そんな当たり障りのないことしか言えない自分が情けなかった。

「あんまり、楽しくなかったか?」

 尋ねると、チカが俺の手をギュッと握る。

「チカ?」

「大丈夫、ちょっと疲れちゃっただけです」

 そう言うチカの顔は明らかに無理をしていた。けれどその理由を聞き出す勇気が持てず、俺はただただチカの頭を撫でることしかできなかった。

「今日、早く寝ても良いですか?」

「飯はどうする?」

「やめときます」

 そう言って布団の用意をしようとするチカをもう一度座らせ、俺は自分の寝室にチカの布団をひいた。

「私の布団、こっちじゃないですよ」

「俺が飯喰ってる横じゃ寝づらいだろう」

 念のため、チカが潜り込んでも良いように並べて俺の布団を敷くと、何故だかチカは泣きそうな顔で俺の足に抱きついた。

「おい、どうした」

「私、もっと4歳児らしくした方が良いですか?」

 やはり幼稚園は辛かったのだろう。これはちゃんと、チカと話し合った方が良いかも知れない。

「その話は明日しよう。だから今日は休め」

 俺の言葉に、チカは泣きながら頷いた。

 それから俺は、台所に戻り出来たばかりのハンバーグに目を向ける。

 食べて貰えなかった料理を見ていると酷く心がざわついた。いっそ捨ててしまおうかとも思ったが、やはり俺にはできない。

「チカ」

 名を呼ぶと、着替えようとしていたチカは少し驚いた顔で俺を見上げた。

「明日の朝は、チーズハンバーグと目玉焼きハンバーグどっちが良い?」

 ただそれだけのことなのに、またしてもチカは涙ぐんでいた。

「目玉焼きがいいです」

「朝になって、やっぱりチーズが良いとか言うなよ」

 少しで気を楽にしてやろうと冗談を口にしてはみたが、やはりガラにもないことはすべきではない。

 結局最後までチカの笑顔は引きつったままで、俺と目を合わせることもなかった。

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