少年、魔法の授業でも無双する①
翌日、午後の武術の授業。本日は全員で闘気を鍛える修行だ。教師はヒショウと体術担当のブンケンの二人だった。
「いいかい、闘気の修練は精神を落ち着けることが大切だ。闘気の流れを全身で感じるように」
ヒショウの言葉に生徒全員が目を閉じ、各々闘気を身にまとった。
「よし、いい調子だ。では闘気を右手に集中させてみなさい。始めはゆっくりでいいからね」
皆生徒はおとなしくヒショウの言葉を聞いている。前日のラルカとの試合を見て、獣人だと侮辱するものはいなくなった。王子とその一味を除いては。其の三人はヒショウが教師になることが不満と言い出し、武術の授業をボイコットしている。
「では、今度はそれを左手に集中させてみなさい。ブンケン、悪いが見回って、苦戦している子をサポートしてやってくれ」
「はい、ヒショウさん」
ブンケンが生徒たちを見まわし、個別にアドバイスをしている。ブンケンも獣人であり、実はヒショウの弟子にあたるらしい。ヒショウを心から尊敬していることが見て取れた。
闘気の操作はどんな武術でも非常に大切な技術である。たとえ闘気の量や質が劣っていても闘気を一点に集中することができれば相手の防御を崩すことが可能だ。また、この訓練は同時に闘気の質を上げることにもつながる。
(それにしても、ラルカ君は例外として、ほかの生徒たちもなかなか大したものだ。特にあのダークエルフのライラと言う子は天才だな。武術もほぼ独学だろうに。現時点では闘気の操作方法はカレンのほうが上だが)
ライラはヒショウの指示を真剣に実践していた。ライラは父と母が闘気の修練をするところを見たことはあるが、具体的に他人から教えてもらった経験は皆無である。当然戦い方も実戦経験で身に付けたものだ。
(あと、あのゴンゾと言う子もなかなか強い闘気を持っているな。操作はほぼ素人だが。昨日の試合も簡単に負けていたが、あまり戦闘には興味ないのだろうか)
ヒショウのゴンゾへの評価はなかなか高いようだ。だが、ゴンゾ含めほとんどの生徒は闘気をただ全身に放出するだけしかしていなかったようで、闘気の操作についてはほぼ全員初心者だった。生徒たちの多くが闘気の操作方法に悪戦苦闘している中、自由自在に闘気を操っているのはラルカとカレンである。ラルカはカレンに闘気をすばやく移動させる方法を教えている。二人はいつの間に仲がよくなったんだろう、とライラが疑問に思った。しかしすぐに、
(なんでわたしがそんなこと気にしなくちゃいけないんだ)
闘気の訓練に集中するため、二人を見ないようにした。
昨日のラルカとヒショウの試合後、ヒショウに治癒魔法をかけたのはラルカだった。
「じゃあカレンは、ヒショウ先生から武術を教わったんだ」
ヒショウの治療を終えたラルカは、カレンにヒショウのことを聞いていた。
「そうだにゃ。ヒショウさんはカレンだけじゃなく、スラムの子たちみんなに武術教えてくれてるんだにゃ」
「スラム?」
ラルカが聞き返すと、カレンの目が曇った。
「王都の壁の外にあるんだにゃ。獣人のほとんどはそこで暮らしてるんだにゃ」
カレンはつらそうに目を伏せる
「カレンたちこの国にいる獣人のほとんどは、昔戦争で捕虜になった獣人国の住人や兵の子孫なんだにゃ。カレンのお父さんとお母さんは奴隷だったんだけど、魔物討伐で手柄を立てて奴隷から解放されたんだにゃ。・・・結局その怪我がもとで死んじゃったけどにゃ」
「ごめん。辛いこと思い出させて」
ラルカが頭を下げると、カレンは慌てて首を振った。
「謝らなくていいにゃ。カレンが王子にいじめられていたときに言ってくれたこと、とっても感謝してるにゃ。あんな風に優しくしてくれたのは人間では初めてだにゃ」
カレンはコホンと咳払いをして、話題を変えた。
「ヒショウさんは子供たちだけじゃなく、スラムの獣人たちに食事や住まいまで世話をしてくれてるんだにゃ。本当はいけにゃいのに、ギルドの仕事まで紹介してもらったこともあるにゃ。スラムの人たちにとって、ヒショウさんは命の恩人なんだにゃ」
闘気の操作練習をしながらラルカは、昨日カレンから聞いた話を思い出していた。カレンやスラムの獣人の子供たちにとって、ヒショウは親代わりだとも言っていた。カレンはその中でも最も優秀な弟子だったらしく、学校を卒業後にギルドに入り、ヒショウへの恩返しとスラムの獣人たちや未だに奴隷の身分の獣人のために働くのが夢らしい。ラルカは隣りのカレンをちらりと見て、自分の夢って何だろう、とふと考えた。
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