少年、師と出会う⑤
「参る」
ヒショウが闘気を足に集中し、踏み出した。ラルカに向かって強烈な飛び蹴りを放つ。
(強襲猛禽だね)
ラルカはジンブより教わったその技名を思い出しながらそれをかわし、ヒショウの首めがけて左手のサーベルを横薙ぎにする。グランドバブーンの首をはねた技“鵲”だ。ヒショウはそれを後ろへのステップでかわす。しかしラルカはそれすら読み、右手のサーベルでヒショウの水月めがけて突きを放つ。
「火食」
人間の体の真ん中めがけてくる技は躱せない。ヒショウは拳に闘気を集中し剣を受けるが、防ぎきれず掌を貫いた。しかし、動転したのは攻撃を当てたラルカのほうだった。ラルカは命中させるつもりはなく、寸止めで試合を終わらせるつもりだったのだ。ヒショウはその隙を見逃さず、闘気を極限まで右足に集中した回し蹴りを放つ。今度はラルカの腹部に命中し、ラルカが試合場の端まで吹き飛ばされた。
「おおっ」
声を上げたのはライラとカレンだった。ライラはラルカ、カレンはヒショウの強さをある程度知っている。どちらもそれぞれの圧勝を予想していたので、今の試合展開はどちらにとっても予想外だった。
「どうしたラルカ君、まさか今ので終わりではないだろう?」
ヒショウもまた、ラルカの強さに驚愕していた。剣の技の鋭さ、今まであったどの剣士よりはるかに鋭い。しかも今、蹴りを当てる瞬間、わざと力を抜き衝撃を吸収した。それ自体は自分でもできる。だがあの一瞬でそれをする判断の速さ、そして覚悟が自分にあるだろうか。あの年齢で、いったいどれほど戦闘経験があるのだ。また、一体だれが活殺自在流を教えた。あり得ないことだが、まるで―
「はっ」
今度はラルカが地をけった。ヒショウは思考を断ち切り、腰を落とし反撃の構えをとる。するとラルカは足を止め、間合いが離れたまま、左手の剣に闘気を込めた。
「白鷺」
その剣を斜めに振ると、闘気が放たれヒショウを襲った。ヒショウは突然の遠距離攻撃にも動じず、それを躱した。闘気が試合場後方の壁に当たると、壁が粉々に砕けた。
(長引けば不利か)
再び闘気をためるラルカを見てヒショウは決断した。恐らくラルカはあの技で自分を倒すつもりなのだろう。あれは当たれば衝撃で戦闘不能にはできるが、斬撃ではないため大けがをすることはない。
(やれやれ、欠点はその優しさか)
それに付き合うつもりはない。戦闘力では自身を大幅に上回る彼に教えることはこれだとヒショウは覚悟を決め、間合いを詰めた。ラルカが再び先ほどの技を放つが、今度は左腕で受け、ダメージ覚悟で突進する。
「甘く見ないでいただきたいな、ラルカ君。“羅刹旋風”!」
ヒショウが右足で蹴りを放つ。ラルカはよけるが、今度は左足の蹴りが飛んでくる。回転しながらの蹴りの連続攻撃だ。ラルカはよけながら後退するが、試合場の端に追い込まれる。
(まさか、ラルカが負ける?)
ライラが驚きの表情を浮かべた。一瞬ちらりとラルカがライラを見た気がした。その刹那、ラルカはヒショウの左足の蹴りを右手で受け流した。すかさずヒショウが右足の蹴りを放つが、それより早く、
「燕尾」
ラルカが左手の剣でヒショウの胸を下から切り上げた。
「ぐはっ」
ヒショウは後方に大きく吹き飛んだ。刃をつぶしてあるとはいえ、ラルカの闘気をまとったそれをまともに受けてしまい、肋骨が何本か折れる感触があった。地面に激突し、起き上がろうとしたところ、ラルカの剣先が自身の眉間でとまっていた。
「まいった。私の負けだ」
ヒショウの降参で、試合は終了した。少しの静けさの後、大歓声が試合場にこだました。
「いや、さすがだよ。完敗だ」
ヒショウは笑って起き上がり、ラルカと握手をした。負けたというのに、何かとてもうれしそうだ。カレンがヒショウのそばに来て、肩を貸している。知り合いなのだろうか、とラルカは思った。
「でも、もし、あなたに両手と両目があったら―」
ラルカの続きのセリフを手で制したのは、ヨミだった。
「ラルカよ、それ以上は言ってはならん。それはヒショウへの侮辱と心得よ」
ラルカに対し珍しく厳しい言葉を吐いた。ラルカはあわてて、
「ごめんなさい」
と頭を下げた。
「いやいや、謝ることはない。それにもし両手と両目があっても、君にはかなわないだろう。何しろ君にはハンデがあったからな」
「ハンデ?」
カレンが何のことかわからない、と言う顔をした。
「君の本来の武器は、そのサーベルではないね。君の剣はおそらく緋野の国の流派の使い手だろう。扱いにくそうにしていたからすぐわかったよ」
ラルカがばつの悪そうな顔をした。
「それに君は、私になるべくけがを負わせないように手加減していたよね」
「それは、お互い様でしょ?」
「いや、少なくとも私は本気だったよ。なにしろ私が全力で攻撃を当てても、君の闘気の前では致命傷を与えることは難しいだろう。それに、君は魔法も使えるそうじゃないか。もし本当の闘いだったら、私は君に近づくことすらできないだろう」
ラルカが困ったように頭をかいた。仮に二人が真剣勝負をした場合、ラルカは距離を取り魔法攻撃に徹するだろう。そうなるとヒショウの言う通りの結果になる可能性は極めて高い。
「そんな君よりはるかに弱い私だが、そんな私を先生と呼んでくれるのかい?」
「もちろん、ヒショウ先生」
「ありがとう。君の成長の一助になれるよう、私も頑張るよ」
そういうとヒショウとラルカは再び握手を交わした。
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