少年、師と出会う④
「・・・・」
試合場は静まり返っている。みなラルカのあまりの強さに頭が真っ白になっているのだ。ヨミのみ満足そうに手をたたいている。そんな中ライラは、
(やはり、強い。それも桁違いに。下手すると学長に匹敵するのではないか。いや、さすがにそれはないか。だが、少なくともわたしたち生徒全員がかりでもかすり傷一つつけることはできないだろう)
ある程度ラルカの強さの推察をしていた。現時点ではラルカはヨミには及ばない。しかし七星使徒であるヨミと比較対象になるだけの実力があることを見抜いているだけでもライラの洞察眼は優れていると言っていい。
「そ、そ、それまで」
やっとダルタニアンが試合終了の合図をする。アウグストの従者の二人の生徒が慌ててアウグストを連れ出した。それを見てヨミは大爆笑をしている。ラルカはアウグストが少しかわいそうになり、心配そうに見ていたが、ヒショウが話しかけてきた。
「いや、素晴らしい。さすがは学長が推薦しただけのことはある。まさに神童の言葉がふさわしい」
にこにこと笑顔を浮かべている。
「ありがとうございます」
ラルカが頭を下げ、試合場から出ようとすると、
「ちょっと待ってくれないか」
「?」
ラルカが足を止め振り向いた。
「今度は、私が相手になろう」
ヒショウが上着を脱ぐ。周囲はその発言と、そしてヒショウの体を見た驚きで包まれた。体中にある大小さまざまな傷。今生きて立っているのが不思議なほどだ。戦闘経験未熟なものでも、彼の経歴が尋常ではないことは明瞭に理解できた。
「いいでしょうか。学長」
「ああ、かまわん」
ヨミも何かを察したのだろう、二つ返事で了承した。
試合場にまた注目が集まる。ラルカは先ほどと同じサーベルを手にしているが、ヒショウは素手のままだ。
「さて、ルールだが、まあ基本的には今までと同じ、魔法無し、相手に致命傷を負わせないようにする、この二点でいいただろう。ただし」
ヒショウが人差し指を立てた。
「“脅かし”だけはお互い禁止にしよう。周囲で見ている人たちに悪いからね。それにお互い、殺気だけで隙を見せるようなことはないだろう?」
“脅かし”とは、先ほどカレンが使用した殺気を放つ活殺自在流の技である。活殺自在流では試合開始と同時にこの技を使って相手に隙を生じさせることを基本としている。ラルカが入試試験でロベスピエール相手に使用したのも同じ技である。カレンとは比較にならないほどの強さではあるが。
「はい、わかりました」
ラルカもそれに同意した。そしてなぜヒショウが自分が脅かしを使用できることに気づいたのだろうとわずかな疑問が芽生えた。ロベスピエール戦のことを誰かから聞いたのだろうか。それともヨミが話した?いや、自分が剣聖と聖女の子であることを隠すように言っていたから、それはないか。
「私は以前、ジンブ様の直弟子だったんだよ」
その疑問に答えたわけではないが、ヒショウのその言葉を聞いて彼の実力を疑う者はいなくなった。闘神と言うあだ名はジンブにとって、決して大げさな表現ではない。七星使徒の中でも、一対一の戦闘では最強ともいわれている。事実として七星使徒の中で特に戦闘力が高いのは、闘神ジンブ、剣聖イズミ、魔女ヨミ、賢者フロートの四人、そこから一段下に国宝ガドン、さらに一段下に竜姫ユスティ、さらに二段下が聖女エリステルといったところである。もっとも冥府でのパーティ内の“貢献度”で考えるとヨミ、エリステルの二人が最上位に来るだろうし、実際に殺すつもりで戦うとこの順番がどうなるかはわからない。
「じい・・・闘神の。それで」
ラルカもジンブから活殺自在流を叩き込まれている。つまりヒショウは知る由もないが、ラルカは弟弟子にあたる。ヒショウは先ほどの戦いで、ラルカも活殺自在流の使い手だと見抜いたのだろう。
「遠慮はいらないよ。私は見ての通りとっくに現役を引退しているからね。多少怪我しても問題ない。全力でかかってきなさい」
その声が開始の合図だった。今回の試合には審判の教師がいない。二人の戦いを邪魔させないためのヨミの指示だった。
「はっ!」
ヒショウが闘気を放つ。瞬間、ヨミとラルカ以外全員が目を疑った。
「あ、あ、赤!?」
闘気の中で最も強い色と言われている。赤の闘気を出せる人物は、おそらく世界で十人といないだろう。
「ふっ」
対するラルカも、闘気を放った。今度もヨミ以外の全員が目を疑う。しかしそれはヒショウとは意味合いが違っていた。ラルカの闘気の色に、全員が困惑していたのだ。
「お、おい、あいつの闘気の色、白でいいんだよな?」
「で、でも、なんかおかしくないか?キラキラ光って、あれは白っていうより・・・」
ヒショウが息をのんだ。ラルカの闘気を信じられないような眼で見ている。
(恐ろしい子だ。この年齢で、白銀の闘気にまで到達しているとは)
実は闘気の色の中で最強は赤ではない。それを超えた先が白銀である。ヒショウはジンブのそれを見たことがある。もちろんジンブが質、量ともにラルカを上回っているが。
「・・・綺麗」
思わずカレンがつぶやく。その頬が赤くなっていた。それを隣りで聞いたライラは、ちょっとイライラした。しかしそれがなぜかは自身でもわからなかった。
お読みいただきまして、ありがとうございます。
よろしければ評価、リアクションいただきますと幸いです。




