少年、師と出会う③
「なんじゃ、もう正体をばらしたのか。つまらんのう」
その場に顔を出したのはヨミだった。ふわふわと浮いてヒショウの近くにやってくると、生徒たち全員を集めるようダルタニアンに伝えた。
「紹介しよう、彼は今年お主らのため特別に招致した臨時教師のヒショウじゃ。こう見えて以前は凄腕の義勇士での、今はメデュネイのギルド支部長を務めている男じゃ。将来彼の世話になる者も多かろう。まあ、ギルド支部長は多忙だからの、毎日来れるわけではない。顔を出したときは、できるだけ多くを彼から学んでおくように」
全員、頭を下げた。実は教師たちも今朝ヨミから聞いたばかりだった。まさかギルドの支部長自らとは、と皆驚いた。しかしラルカとまともに対峙できるとなると、確かに彼以外にいない、とすぐに納得した。だがロベスピエールのみ
「学校関係者以外から教師を招くなど、前代未聞です。それは学校に力がないと表明したようなものですぞ」
と反論したが。しかし教師陣の中には現役でほかの職に就いている者もいるため、少なくともルール上ヒショウが臨時教師になるのは問題なかった。しかし、生徒たちの目線は好意的なものは少ない。それはやはり、
(獣人かよ)
声には出さずとも目がそう言っているものも多い。この国の獣人に対する偏見の目は根深く、一朝一夕で解決するものではない。
「そうじゃヒショウ、今からラルカがこのバカ王子と試合するそうじゃの」
「ばっ」
思わずアウグストが反応する。しかしヨミには逆らえない。のどまで出かかった罵倒の言葉をぐっとこらえる。
「はい、いろいろため込むより、ここで吐き出したほうが今後のためになるかと」
ヨミはうんうんと頷く。
「そうじゃの。お主が見ているのであれば安心じゃ。よかろう。しかしラルカよ、殺すでないぞ。十分手加減してやるように」
「うん、わかってるよお姉ちゃん」
(手加減だと。この私に)
もはや怒りを隠す気もないアウグストに対し、ヨミがふわふわと浮いたまま近づいた。
「おい、お主。いいか、ラルカ相手であれば殺す気で戦っても構わん。万が一があってもお主に責は問わぬ。そのかわり敗北したら、二度と先ほどのような暴挙をせぬと約束せい」
その言葉にアウグストは一瞬驚きの表情を見せたが、徐々に邪悪な笑みに変わっていった。
「その言葉、確かでございますな」
「ああ、約束する」
「それと一つよろしいでしょうか」
「なんじゃ」
めんどくさいという感情が見て取れるような表情を浮かべてヨミが返事をする。
「この臨時の教師であるヒショウ殿についてですが、私は反対でございます。ギルド支部長ともあろうお方が教師を兼任すると、ギルドの運営に支障をきたす可能性がありますし、なにより他の教師の方に失礼です」
とってつけたような理由を言うが、本当は獣人なんかに教えてもらいたくないのが本音だろう、ということは容易に想像がついた。
「わかった。お主がもしラルカに勝ったらヒショウの臨時教師就任は撤回する。あとラルカも退学にする。ああ、あと他にもお主の希望があれば、何でも望みを聞いてやる。皆もそれでよいな。審判はダルタニアン、そなたがやるがよい」
本当に面倒くさくなったのだろう、ヨミが手を振りながら適当にアウグストをあしらった。ラルカが負けることなど万が一にも考えていないようだ。
こうしてラルカ対アウグストの試合が決まった。勝負を賭けにするとは何事ですか、と言っているロベスピエールをヨミは無視し、ヒショウの隣で見学することにした。
「それでは両者、位置につくように」
全生徒と教師達が見守る中、ダルタニアンの声にラルカとアウグストが開始線の位置につく。アウグストの武器はブロードソードである。ラルカの本来の武器は大太刀、しかも二刀流だが、学校の用意した練習用の武器に刀は無かった。現在鍛冶担当の教師が作成中だが、まだ数日かかる。入学試験の時は両手剣のツーハンデッドソードを使ったが、両刃のためラルカのお気に召さなかったらしい。今回は片刃のサーベルにすることにした。
(両手に剣とは。所詮ガキだな)
アウグストがほくそ笑む。このガキは初めから気に食わない。他の生徒は王子である自分を常に恐れていた。あの生意気なダークエルフでさえ、自分との接触を避けているようだった。しかしこのガキは王子である自分に対し、まるでほかの生徒と同様に接してくる。しかも下賤な獣人の肩を持つような奴だ。こいつの肩を持つこの獣人の教師も気に食わない。必ず追い出してやる。それだけではない。学長は何でも希望を聞くと言っていた。獣人の生徒も教師も全員追い出してやる。
「それでは、初め」
開始の声と同時、アウグストは闘気を放つ。しかしラルカは両手に剣を持ったまま前にまっすぐ歩いてくる。
(馬鹿めが)
アウグストは闘気を剣に集中させ、上から思い切り振り下ろした。しかしラルカは左手に持った剣でいともたやすくアウグストの剣を弾き飛ばしてしまった。それとほぼ同時に右手の剣がアウグストの喉元にピタリと添えられた。
「な、なに!?」
「しょ、勝負あり」
周囲からどよめきが起きる。
(す、すげえ、王子の剣を簡単にはじいたぞ)
(ロベスピエール先生に勝ったってのもまぐれじゃないんだな)
特に驚きが大きかったのはゴンゾだった。
「あ、あいつ、あんなに強かったのか・・・」
ちょっとだけラルカに対して丁寧に接しよう、と心がけることにした。試合場では呆然とするアウグストに対し、ラルカはつまらなそうに開始線に戻っていくところだった。それが自分に対する侮辱だと感じたアウグストは、剣を拾うと、
「ま、まて、もう一度、勝負しろ!」
「え?」
ラルカは何を言われているのかわからなかった。今の一合で実力の差がわからないわけではないだろう、もう一度やる意味があるのだろうか。
「よ、よく考えれば、剣が二本なのはおかしいだろう。一本だけにして、もう一度勝負しろ」
ラルカはどうすればいいのか、と言う顔でヨミを見ると、
「かまわん。しかし次が最後じゃ。これ以上の再戦はできん。それとラルカ、今度は簡単にお主の実力がわかるようにせい」
ヨミの鶴の一声で再選が決まる。アウグストは恥をかかされた、との思いからか顔を真っ赤にしてラルカを殺意を込めた目でにらみつけている。ラルカはしかたなく左手に持った刀を場外に置き、再び開始線に着いた。
「それでは、初め」
ダルタニアンの合図で試合が始まると、今度はアウグストは慎重に立ち回ることにした。腰を落としてラルカの様子を伺っている。それを見たラルカはため息を一つした。次の瞬間、場にいるほとんどの人物がラルカの姿を見失った。
(速い)
ラルカの姿を認識できたのはヒショウとヨミだけであった。ラルカは一瞬でアウグストの懐に入ると足払いでアウグストを転ばした。そして次の瞬間には、
「狗鷲」
ラルカは剣に闘気を込め、アウグストの体のすぐそばに振り下ろした。剣が地面に突き刺さると亀裂が走り、試合場を両断した。
「あ、あが・・・」
アウグストはそのまま気を失った。股間から黄色い液体が流れだしている。ラルカはちょっとやりすぎたかな、と反省した。
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