少年、最強パーティとともに冥王を打倒す②
うるさいくらいの日差しが照り付ける。風はまだ冷たいが、季節はすでに春を迎えようとしていた。ラルカは眼下に広がる森を一瞥し、空を飛ぶ速度をさらに上げた。
七星使徒たちが冥府から帰還すると、世界中が歓喜に満ち溢れた。救世の英雄たちはすでに故人になっていると思われていたのだから無理もない。特にイズミとエリステルが結婚していたことが明らかになると、エリステルの出身国、神国ヴェレクでは教皇から市井のものまで噂をしない日は無いほどだった。枢機卿の中には聖女でありながら姦淫をしたと非難する者もいたが、それを遥かに上回るほどの祝福の声が大きかった。そもそもエリステルは正式には教会の何の役職でもないため、結婚も出産も咎められる事はない。教皇は正式に二人の結婚を祝福し、その功績をたたえ、パレードの実施をすることとし二人を招待、イズミとエリステルはラルカとともにヴェレクへ入国した。パレードには国中はおろか周辺国からさえも人が集まり、その警備のため軍が出動するほどであった。笑顔で手を振るエリステルと、緊張のため終始無表情だったイズミを見て、ラルカは吹き出しそうになった。しかしラルカはそのパレードには参加しなかった。世界を救った英雄がまた一人追加されることを教皇らが恐れていたし、両親もラルカが目立つことを嫌った。ラルカの存在は公にされず、ただ二人が結婚したことだけが発表された。
ヨミとジンブは元々ギルドを束ねる立場であり、それぞれのギルドに戻った。ギルドは二人の離脱により大きく立場を落としており、その再興に取り組んでいる。
ドワーフの国アルトリッツでは一か月に渡り祭りが行われ、その時に消費された酒の量は一年分のそれを上回った。ガドンは国王にさえ跪かれ、王位を譲りたいと言われたが、
「そんなことより、わしは鍛冶仕事に戻りたいだけじゃ」
一言だけ残し、報奨金も領地も受け取らず、自身の工房に戻った。
フロートは国王として復帰した。エルフは騒がしいことを嫌うため表向きは静かだったが、国民は皆涙を流し王の復帰を喜んだ。
ユスティは母である地母竜のもとへ帰った。ラルカもユスティも別れの際にいっぱい泣いていたが、今後地母竜の地位を継承することとなるユスティは母のもとで修行をしなければならない。再会を約束し、竜姫は竜王の聖地へ旅立った。
その喧噪もひと段落したころ、未だヴェレクにいるラルカたち家族に、ヨミから手紙が届いた。三人はヴェレクにて現世での家族だんらんを楽しんでいたところだった。教皇たちは宮殿に豪華な部屋を用意したが、エリステルはそれを断り人里離れた丘にある、レンガ造りのつつましやかな家を購入していた。
「ふむ、そろそろそんな時期か」
「ねえねえ、なんて書いてあったの」
ラルカはエリステルが作ったドーナツをほおばりながら手紙を覗き込んだ。中にイズミの故郷の食べ物である“あんこ”が入った珍しいドーナツである。ラルカの一番の好物だ。イズミはそれに答えず、黙ってラルカに手紙を渡した。
「・・・学校?」
「うむ、ヨミ殿から自身が経営する学校にお前を入学させたいと、実は冥府にいた時から話は受けていたのだ」
ラルカは父と母を見た。父はそれ以上なにも言わないが、目が言ったほうがいいと言っている。
ラルカは産まれてほとんど冥府にて育ったため、同世代の人と接した経験がない。そしてこのヴェレクでは寄って来る者たちは二人の子としてしかラルカを見ないだろう。このままでは生涯友と呼べる存在ができないかもしれないと、イズミは危惧していた。
「でも、お父さんとお母さんとは離れることになるんでしょ?」
寂しそうに言うラルカに、エリステルは困ったように微笑んだ。ヨミのいう学校はヴェレクよりはるか東にあるルクスカーナ王国にある。母は現在ヴェレクにとって教皇以上の重要人物である。おいそれと他国へ行くことはできない。
「そうね、でも、会おうと思えばいつでも会えるわ。それにお母さんも、あなたにはいろんな世界を見てほしいの」
ラルカの口についた食べかすを人差し指で拭いながら、エリステルは諭した。もちろん、エリステルもラルカと離れたくはない。しかし最近、イズミが母国から帰国の要請があり、いったん戻らねばならないと言われた。そうなるとエリステルのみでラルカを教会の権力と言う魔手から守らなければならなくなるが、この国にいる限りそれは難しい。枢機卿たちのもつ権力の恐ろしさは、子どものころから誰よりもわかっている。
「あなたにはいっぱい学ぶことがあるの。それはお母さんでも、お父さんでも教えられないことなのよ。だからお母さんも我慢するから、あなたもいっぱい学びなさい。そして、多くの人を助けられる、立派な人になってほしいの」
「・・・うん」
ラルカはうつむきながら答えた。
「僕、いっぱい勉強するよ。そしてお父さんやお母さんみたいにりっぱなひとになるよ」
ラルカをエリステルが抱きしめ、イズミが二人の肩を抱いた。イズミはラルカとエリステルのぬくもりを忘れないように目をつぶった。
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