少年、入学する②
「な、な、な、なんだ貴様は!」
「僕、ラルカ。初めまして、男の子です」
最近女の子に間違われるのが煩わしくなり、初めから男だと言うようにしていた。因みにゴンゾはなぜか初めからラルカが男と気付いていた。案外観察眼が鋭いのかもしれない。
「ねえ、アウ君。人を奴隷呼ばわりしないほうがいいよ」
ラルカの発言に講義室中の視線が集中した。ライラでさえ驚いて顔を上げている。
「な、なんだお前、だれがアウ君だ!!無礼者めが!」
「アウグストだからアウ君。いいあだ名でしょ」
「私は、ルクスカーナ王国の王子だぞ!アウグスト殿下と呼べ!!」
「うん、わかった、ところでアウ君」
「人の話を聞け!」
「アウ君、人を奴隷なんて言っちゃだめだよ。この子がかわいそうだし、君のためにもよくないよ」
「なんだと?どういう意味だ」
アウグストと二人の生徒がすごむ。
「奴隷とは人を物にすることだよ。人は物じゃない。人を物扱いするなんて神様だってできない。人は物じゃないから。人を物扱いすると誰からも尊敬されなくなるよ。誰からも尊敬されない人なんて人じゃない。それに奴隷を扱うようになると、どんどん欲望が大きくなるよ。大きくなって大きくなって自分じゃ抱えきれなくなる。だって人を物扱いするんだもん。そうして大きくなった欲望に覆われちゃう。欲望に覆われた人は人じゃない。つまり、人を物扱いする人こそ人じゃなくなる。だから君のためにも、奴隷なんて言葉を使っちゃだめだよ」
全員、言葉を失う。見た目が幼い、実際ほかの生徒より三歳年下のラルカからこんな言葉を聞くとはだれも思わなかっただろう。獣人の少女カレンは驚いた顔でラルカを見ている。ライラは口を噛みしめて何かを考えている。アウグストと二人の生徒はしばらくぽかんと口を開けていたが、
「だ、だまれ、私に命令するな、いいか、獣人を奴隷とすることは、この国の法律で認められているんだぞ!」
「じゃあ、その法律が悪いね」
「な――」
「悪法もまた法なりなんて言葉があるけど、それはただの言い訳だって僕は思ってる。だってそんなこと言ったら、暴君や虐殺を肯定することになるもん。悪法があるのであればそれを改善しなくちゃ。奴隷制度は間違いなく悪法だよ」
「ざ、罪人を奴隷にすることの何が悪い!」
「罪人に対する罰は他者の利益のためじゃない。社会全体のためだよ。罪人を奴隷にして、それを奴隷商人が売って、金持や貴族がそれを買うのであれば限られた個人の利益にしかならない。それにさっきも言ったように、人を物扱いする人は人じゃなくなる。そして罪人も自身の罪を悔いることはない。むしろ憎しみを増幅させるだけ。結果生まれるのは欲望のお化けと憎悪の怪物だけ。欲望のお化けはそれを満たすため社会を食いつくしちゃう。憎悪の怪物はその矛先を社会全体に向けちゃう。罰は社会全体の幸福のためになくちゃ」
ラルカはアウグストをまっすぐ見据える。その視線に思わずアウグストは後ずさった。
「アウ君、君王子なんでしょ?君がもし王様になったら、奴隷制度を無くしなよ。僕も協力するよ。そうすれば君は名君として後世に名を残せるよ?」
にっこり微笑んだ。
「・・・・」
アウグストも二人の生徒も何も言わない。いや、言えない。周囲の生徒もラルカに気おされしている。しかし、アウグストの王族としてのプライドが沈黙を許さなかった。
「き、貴様、平民の分際でこの私に説教とは、いい度胸だ!おい、お前たち、こいつを捕まえろ!不敬罪で死罪にしてやる!」
はっとした二人の生徒がラルカに詰め寄り、肩をつかもうとしたところ、
「これ、何をやっておる。席につかんか」
講義室にヨミの声が聞こえた。全員振り返る。ふわふわと浮いたヨミと、もう一人の教師がちょうど入ってきたところだった。
「今から学校の説明をするからの、早く自分の席に戻るのじゃ」
ラルカがトコトコと歩き出す。それを見たアウグストが、ラルカの肩をつかみ、
「おい、まだ話は終わって―」
話し始めた瞬間、アウグストの体が吹き飛んだ。講義室の壁にしたたかに打ち付けられる。
「二度、言わせるでない」
ヨミのその声に逆らうものはいない。アウグストは膝の震えを抑えることができなかった。何をされたかわからない。何らかの魔法だとは思うが、発動したことさえも気付かなかった。あまりの格の違いに、自身の身分を利用しようとする気も起きなかった。ただ、実際国王と言えどヨミ相手に命令はできないことをまだ彼は知らないのだ。
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