少年、入学試験を受ける⑤
「い、一体あの子はなんなんですか!」
ロベスピエールが机をたたき、ヨミに詰め寄る。ヨミは意地の悪い笑みを浮かべるだけで返事をしない。
翌日の学校で行われた会議での話題は、案の定ラルカに集中した。特に試合の相手をしたロベスピエールと、それを見ていたダルタニアン、魔法試験担当のシュバルツの三人はその異常性を目の当たりにしている。
「そこまでの者だったのですか、彼は」
「そこまでどころではない!試験官の教師が受験生に敗北するなど、前代未聞だろう!」
一同、沈黙した。ロベスピエールの実力は教師たち全員が知っている。生徒はおろか騎士団でも彼と一対一で勝てるものはいるかわからない。それがたった十二歳の子供に完敗を喫したなど、信じられない思いだった。
「魔法もまさにけた違いでした。火の最上級魔法に空間の上級魔法を詠唱破棄で発動し、威力、精密性、速度どれをとっても一級品です。さらに詠唱ありでしたが、見たこともない魔法まで使用していました。その威力は最上級魔法の炎帝の魔弾を遥かに上回っています」
皆知る由もないが、ラルカの基本戦術は遠距離から炎帝の魔弾を放ち、動きが止まったところを神気の雷霆で仕留め、万が一それをかいくぐった敵に対しては抜刀技である月夜烏で攻撃し、仕留め損ねた場合再度距離をとるか、そのまま剣術での勝負に持ち込む、と言うものである。すなわちラルカにとって炎帝の魔弾ははただのけん制にすぎない。とはいってもほとんどの敵はけん制だけで消し炭になるが。
「ふふふ、だから言ったじゃろう。どうじゃ、これでも入学に反対するか?」
ただ一人上機嫌なのはヨミである。実は空間魔法で試験の様子を覗いていたのだ。教師たちや受験生の驚く顔をみて一人ほくそ笑んでいた。
「た、確かに合格に文句はありません。しかし、逆にここで教えることはありますか」
今度はシュバルツが訪ねる。ラルカの実力は自分をはるかに上回っている。そんな彼に何を教えればいいのかわからない、との主張だ。
「そういえば、筆記試験はどうだったのですか」
シュバルツの質問に筆記試験の採点を行った教師が答える。
「こちらも素晴らしい点数です。特に魔法学は桁外れです。最上級魔法の陣を完璧に描いております。ほかも一教科を除き、ほぼ満点です」
「一教科?」
ヨミが疑念の声を上げた。ラルカの知識なら今回の試験レベルなど問題にならないはずだ。
「ええ、歴史学は正答率が四割を切っております。まあ、全教科の合計点は二位なので、筆記のみでも合格に揺るぎはありません」
(そうか、そういえばこの国の歴史は教えておらなんだな)
各国にある学校の試験には、その国の歴史も問題として出題される。ラルカの学問の師はヨミである。教えたことを一度で理解し、現在の知識は学者をも上回るほどまでなったが、歴史、特にこの国についてはほぼ無学の状態であった。
「ではなおさら、この学校で彼に何を教えればいいのですか。教師より実力が上の生徒にする教育があるでしょうか」
「ある」
ヨミが断言する。
「おぬしら、教育と言うのは何も学問や剣、魔法を教えるということだけではない。あの子は確かにそれらについては同世代はおろか、大人でも敵う者はほぼいないじゃろう。しかし、あの子はそれでもまだ十二の子供なのじゃ。教師として、と言うより大人として、あの子の成長を促してほしいのじゃ」
教師たちが黙る。
「とはいえ、お主らの不安ももっともじゃ。安心せい。魔法についてはわしが直接教えよう。武術に関しては特別臨時教師も招く予定じゃからの」
「臨時、でございますか」
ロベスピエールがいぶかしげに尋ねる。
「うむ、皆もよく知っている者じゃ。その時まで楽しみに待つがよい」
これで議論は終わり、とでもいうようにヨミは手を一回たたいた。
「それで、ラルカ以外の受験生はどうであったのだ。他にも特筆すべきものはいたであろう」
ヨミの問いに長柄担当の教師が口を開いた。
「はい、私が担当した長柄の試験で、一際高い戦闘技術を持つ受験生がいました。ダークエルフですが、膂力高く、技術はほぼ独学のようですが、戦闘経験もあの年齢にしてはかなりのものと思われます。」
さらに、と続ける。
「闘気の色が、すでに青でした」
「ばかなっ」
ロベスピエールが声を荒げる。他の教師たちからもまさか、信じられん、との声が上がる。十五歳で色持ちなだけでも珍しいのに、青だと闘気の質に関していえば熟練の義勇士でも少ない。
「その受験生なのですが」
シュバルツが手を上げた。
「魔法の実技も受けました。正直精度は大したことなかったのですが、威力はかなりのものです。しかも」
「しかも、なんじゃ」
ヨミが促す。
「属性が、雷なのです」
「ほ、本当ですか!?」
またしても驚きの声が上がる。雷属性は素養があるものが非常に珍しく、教師はヨミを含め誰も使用することができない。
「まさか雷魔法の使用者が二人も出るとはな」
ヨミでさえ驚きを隠せなかった。
「二人とは?」
「もう一人はラルカじゃ。先ほどの話にもでた炎帝の魔弾を上回る魔法、あれが雷魔法なのじゃよ」
「ま、まさか、あれほどの威力の雷魔法を・・・」
シュバルツが絶句した。雷魔法は威力は非常に高いものの、制御が高難易度のため、稀に素養があるものが出ても上級以上の魔法を使用できるようになるのは非常に困難である。また使用者自体が少なく、教えることができる人物が少ないことも原因の一つだ。
「じゃから、そのダークエルフについてはラルカに雷魔法を教わればよかろう」
教師陣は頷いたが、納得はできていないようであった。自分たちがいながら生徒が生徒に教わるとは、と尊厳を傷つけられたと感じても無理はないだろう。
「他に特出するべきものはおったか」
その空気を感じたか、ヨミがやや大きめの声を上げる
「いいでしょうか」
体術担当の、獣人の教師が手を上げた。
「一人獣人の受験生がいたのですが、かなりの使い手がおりました。まだまだ粗削りですが鍛えれば当代一の使い手になる可能性があるかと」
「ふむ、闘気はどうじゃ」
「緑でした」
おお、と感嘆の声が上がる。青には劣るが年齢を考えると相当優秀だ。しかし、
「獣人の子か」
ロベスピエールがつぶやくと、一転重苦しい空気が立ち込める。この国での獣人への扱いがどういうものかを全員が知っている。獣人の教師もうつむく。彼はこの国の人間ではなく学校所属ではあるが、それでもここで生きていくのに相当な苦労をした一人だ。
「皆、獣人であろうとダークエルフであろうと、そして人間だろうと皆かわいい生徒であることには違いない、ゆめゆめ忘れるでない」
ヨミの言葉に全員頷く。
「そういえば」
鍛冶担当のドワーフの教師が思い出したように話す。
「わしが言うのもなんじゃが、珍しくドワーフの受験生がおりました。いや、なかなかの腕前で、将来楽しみですわい。なぜこの国で受けたのかはわからぬが」
ドワーフの国にも分校があり、ドワーフであればそちらで受けることがほとんどである。わざわざ人間の国に来ることは全くないわけではないがかなり珍しいと言っていい。
「そうか、今年は様々な種族がいて面白いの」
ヨミは上機嫌だ。
「あと、筆記試験ですが、ラルカ君を抜いて総合一位の受験生は全教科ほぼ満点に近い点でした。また三位の受験生も正答率八割を超えています」
この学校は筆記試験の難易度も高い。しかしながらほとんどの生徒は武術や魔法での合格のため、正答率の平均は四割程度で、筆記のみの合格者は平年二~三名ほどである。
「うむ、今年の合格者は多くなりそうじゃな。まあわしも戻ったし、臨時の者も呼んだから心配はいらん。皆、生徒の未来のため、よろしく頼むぞ」
ヨミの言葉で会議は終わった。
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