少年、入学試験を受ける④
別の会場では、魔法の試験が行われている最中だった。攻撃魔法の会場では試験官のイグニス・シュバルツが採点しているところだった。
(今年は豊作だね。他の試験結果も同じような感じだろう。合格者もだいぶ増えそうだな)
やはり今年の受験生は例年に比べレベルが高いようだ。
(特に、さっきのダークエルフの子はすごかったな。まさかあの属性を使用できる子が現れるなんて。でも、だれが指導するんだろう。僕はもちろん、学長でもあの属性は使えないし・・・)
彼は火と風の魔法を担当している。他に魔法を担当する教師は学長のヨミを含め三人いる。しかし誰もダークエルフの少女が使用した魔法を使える者はいない。彼が頭を悩ませていると
「ごめんなさい、遅れました」
武術試験を終えたラルカが、試験場に入ってきた。
「ああ、君か。ちょっとここで待っててね。順番に実演してもらうから。じゃあ、次の人、お願いするね」
受験生の一人が前にでる。
――――火の精よ集え、そしてはなたれよ
「火球!」
受験生の手から火の玉が出現し、まっすぐ飛んでいき、鎧がかぶせてあるダミーの人形に当たり爆発した。
(ふむ、なかなかの発動速度だな。コントロールも悪くない)
「じゃあ、続けて」
――――火の精よ集え、そしてはなたれよ
「火球!」
今度は先ほどよりもやや大きめの火の玉が放たれた。
(ふむ、先ほどとあまり威力は変わらないな。着弾場所は正確だが。この子はマナの制御は得意なようだが、量はそこそこといったところか)
攻撃魔法の実技は二回行われる。一回目は正確性と発動時間を、二回目は威力を主に採点する。杖などの触媒の使用は禁止、また陣を地面に描くことも禁止としている。先ほどの受験生は合格ラインぎりぎりと言ったところであろう。その後も何人かの受験生が続く。
(あれ?みんななんであんな簡単な魔法でも詠唱しているんだろう。そんな決まりあったっけ?)
詠唱破棄が初級魔法でも難しいことを知らないラルカは、そんなことを思いながら順番を待つ。
「じゃあ、つぎ、君の番だよ」
「あ、はい」
ラルカは試験場に立ち、少し離れたところにあるダミーを見つめた。ダミーに着せている鎧は金属製ではなく、魔物の皮で作られている。物理攻撃に対してはそこまでではないが、魔法に対しては高い防御力を誇っていた。それが横に七体ほど並んでいる。
(さあ、学長の秘蔵っ子の実力は、どんなものなのかな?)
シュバルツはそう思ったのは決して嫌味や皮肉ではなく、単純な好奇心からである。彼は魔法の使いとして一流であるだけでなく、魔法学の第一人者だ。教師としてより学者として、ラルカに興味を示していた。
「さあ、じゃあまずは一回目お願いね」
「はい」
返事をした瞬間、ラルカの左手に莫大な量のマナが集中する。それは今までの受験生が使用した魔法すべてを合計したそれを遥か上回った。
(へ?)
シュバルツがそれに気付く間もなく、ラルカの手から先ほどの受験生とは比較にならないほどの大きさの火球が放たれ、ダミーに着弾するや否や轟音とともに大爆発が起こった。
「うわああああっ!」
「きゃああああっ!」
受験生たちが悲鳴を上げる。さすがにシュバルツは悲鳴こそ上げないが、驚きのあまり顎が外れるほど口を開けていた。
「あ、あ、あ・・・」
意味のある言葉が口から出てこない。頭も混乱し何を考えていいかわからなくなった。爆発が収まると、そこにあるはずのダミーも鎧もすべて消滅してしまっていた。あとに残されたのは巨大なクレーターだけである。
「な、な、な・・・」
未だに言葉が出てこないが、やや落ち着きを取り戻しつつあった。
(あ、あの鎧は、上級魔法でも耐えられるほどの強度だったはず、それが全部影も形もないぞ!一体どんな威力だったんだ?)
「あの、次の魔法を打ってもいい?」
「はっ」
シュバルツが頭を左右に振って、大きく深呼吸した。
「ご、ごめん。ちょっとまってくれるかな」
ラルカを手で制した。次の実技の前に聞きたいことがいっぱいある。
「あ、あの、さっきの魔法、なんだったのかな」
「炎帝の魔弾だよ」
「のっ」
また言葉を失った。炎帝の魔弾は火の最上級魔法だ。対単体を想定した魔法の中ではすべての元素魔法の中でも最大級の威力を誇る。消費するマナの量が莫大で到底一人で出せるものではないはず。
(しかも、詠唱破棄で出していたぞ。最上級魔法の詠唱破棄なんてできるのは、この世に数人いるかいないかだ)
「き、君、今詠唱破棄して出してたよね。他の魔法でできるのはあるかい?」
「うん、たとえばこれとか」
ラルカが童子の宝物庫を見せる。シュバルツは今度は本当に顎が外れた。
「あ、あが、あがが・・・」
空間魔法の難易度は火や水とは段違いだ。童子の宝物庫は空間上級魔法であり、消費マナの量は少ないものの、難易度で言えば先ほど炎帝の魔弾のを遥かに超える。
(か、怪物だ・・・)
顎をはめ込み、心を落ち着ける。しかし心臓の高鳴りが止まらない。
「あの、もう次の魔法のやっていい?」
「あ、ああ、ごめん、どうぞ」
言った直後、いやな予感がした。一回目の試験は発動までの時間、二回目の試験は威力を試すものだ。先ほどの魔法でもあれほどの破壊力だ、もし威力に重きを置いた魔法をこの子が使用したらどうなる?
「や、やっぱりちょっとま―」
しかし遅かった、ラルカの両手に炎帝の魔弾を遥かに超えるマナが集まっている。それは強烈な光を放ち、試験場にもう一つの太陽を生み出していた。
――――汝は救世の法具、邪を滅し、衆生を救う光なり。
「神気の雷霆」
その太陽は巨大な光の柱となり、試験場の上空に放たれた。ラルカもさすがに試験場に打つわけにはいかないと判断していた。その光の柱は目に見えないほど遠くまで続いていたが、やがて徐々に細くなり、そして消えた。
「・・・・・」
シュバルツは今度は本当に気を失ってしまった。
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