少年、入学試験を受ける③
(確かに今年は、腕の立つものは多いな)
教師ロベスピエールが38人目の受験生の相手をしながら、心の中で感心した。剣筋、闘気の強さ、スタミナ、どれをとっても例年よりハイレベルだ。さすが闇の子、と声には出さぬも感じていた。しかしロベスピエールに勝利した受験生はいない。それどころか攻撃を当てた者すらいなかった。むろん現時点で教師に勝てる、と思っていた受験生はいないだろう。しかしあまりの実力差にプライドをへし折られる受験生も多かった。無論この試験は教師に勝利することで合格、と言うわけではない。実戦形式の試合で教師が力量を判定するだけなので、そもそも勝敗判定自体がない。
「ああ、俺たぶん不合格だ。一合打ち合っただけで剣吹き飛ばされちゃったよ」
「くそ、まさか二人とも“色持ち”、しかも紫だなんて。こんなの反則じゃないか」
教師二人は闘気を身にまとい戦っている。受験生も闘気を使用するものは多いが、全員白い闘気だ。闘気は強さを増すとその色が変わる。白以外の闘気を持つものを色持ちと言い、次が黄色、青と続き、教師は二人とも紫の闘気だ。仮に生徒の攻撃が生身に命中しても、かすり傷程度で済むだろう。さらにその上が赤となり、一般的にはこれが最強の色と思われている。
「よし、では次」
「はいっ!」
ラルカが元気よく手を上げて、トコトコ歩いてくる。ロベスピエールはああ、この子か、と内心舌打ちした。
(小さすぎる。十二歳と聞いていたが、それにしてもだ。まともに剣を振れるとも思えない。学長のおふざけにも困ったものだ)
昨日の会議で学長から氷魔法で脅された後、反論することはなかったが、納得はしていなかった。
(まあいい、不合格にすればいいだけだ。一合で剣を弾き飛ばしてやろう。そうすれば学長も文句は言えまい)
そう決心しラルカを見ると、武器を選び終え、試合場に歩いてきたところだった。しかしその姿を見て、ロベスピエールの口が開いてしまった。
(け、剣が二本!?)
教師も受験生もあっけにとられ、数瞬後、あざけりの笑いが漏れた。
(なんだあいつ、二本ってふざけているのか?)
(推薦だっていうからどんなもんかと思えば、やっぱりガキだな)
そう思うのも無理はない。この国、と言うよりこの世界では、二刀流の剣術がそもそも存在しない。
(だいたいこの子が持っているのは、両手剣のツーハンデッド・ソードではないか)
さすがのロベスピエールもあきれた。両手剣の長さはラルカの身長ほどもある。とてもまともに扱えるとは思えなかった。しかし、彼はあずかり知らぬことではあるが、本来のラルカの武器は大太刀である。しかし学校が用意した武器の中に大太刀、それどころか刀すらなかった。ラルカは迷ったあげく、一番自身の武器に近い長さのものを選んだにすぎない。
(推薦されたので合格確実と思っているのか。それとも本当にただの無知な子供なのか。どちらでもよい。この試験を愚弄するというのなら、少し痛い目を見てもらおうか)
ロベスピエールの目に怒気が走った。しかし一瞬のみで、すぐに冷静さを取り戻した。
(いや、この子に罪はない。悪いのは学長だ。たとえまた脅されようと、今度こそきちんと抗議せねばな)
そうロベスピエールが決心した。一方、ラルカは両手剣を握り、感触を確かめていた。
(うーん、やっぱりなじまないな。それに軽すぎる)
試験で用意した武器はすべて鉄製である。ラルカの刀とは材質が違う。
(それにしても、みんなこれで本気なのかな。正直動きは止まって見えるし、闘気だって薄いし)
ラルカがそう思うのも無理はない。何しろ今まで周りにいたのは剣聖、闘神、魔女など、この世界の頂点達である。それ以外の人間の力量など想像するしかなかった。
(でも、少なくとも先生は本気じゃないよね。やっぱり試合なんだし、全力でやらないと失礼だよね)
そのため、ラルカはその力量にありながら、他者の実力を推察する能力に乏しい。それが教師にとって悲劇となる。
「本当にその武器で良いのだな」
「はい、よろしくお願いします」
ラルカは今までジンブやイズミと手合わせしているときと同じように頭を下げた。ロベスピエールは微動だにせず、一つ大きく息を吐いた
「それでは、初め」
その瞬間、ラルカの全身から殺気が溢れ出た。その強さはその場にいる全員に一瞬で死を連想させるほどである。隣りの試験場にいる教師と受験生も、試合の最中にもかかわらず動きを止めた。同時に闘気が剣ごとラルカを包み込んだ。
(なんだ!?この闘気の力、そして量、異常すぎる!!)
ラルカは重心を下げ、両手に持った剣を交差させ、両足に力を込める。飛びかかる気だ、ロベスピエールはそう感じるも、防御の姿勢が取れない。
(闘気の色は白――いや、違うぞ。まるで満天の星空のように輝いている。バカな、なんなんだ。まずい、防御しないと死ぬ、いや、奴の武器はツーハンデッドだ。受けても剣ごと断つだろう。ならばよけるしかない。しかしどうやって・・・。いや、なんで私はこんなに考えられるんだ?)
ラルカが闘気を放出してから、実際には一瞬の時も経っていなかった。だが、ロベスピエールがこれを走馬灯だと気付いた時にはすでに遅かった。
「比翼連理」
呟くと、ラルカは地を蹴り、一瞬でロベスピエールの目前に来た。ロベスピエールが驚く間もなく、目に見えぬほどの速さで両手の剣をクロスするように振り下ろす。
「まいったあーっ!!」
ロベスピエールがそう叫ぶと、ラルカは剣をピタリと止めた。二振りの剣はロベスピエールの首で止まっていた。ロベスピエールの全身が泡立ち、どっと汗が噴き出す。周囲の受験生は恐怖で尿を漏らしたものや、頭を抱え込みしゃがむもの、最悪失神しているものまでいた。しかし、なぜかラルカ自身も驚いた顔をしていた。
(え?これで終わり?まだ一合も打ち合っていないのに)
ラルカは自身の異常な強さに、まだ気が付いていなかった。
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