少年、入学試験を受ける①
翌日、ラルカとライラは宿を出ると、大通りのさらに奥へと進んだ。すると街の中央部にまた壁がみえる。その中は貴族や豪商などの住居がある区画だ。そこに二人が入学試験を受ける学校がある。
「いよいよだね、楽しみだなあ」
ラルカはにこにこしている。こいつは緊張とかないのか、とライラは思ったが、あれだけの実力であれば合格は確実だろう、だったら緊張などするはずないか、と一人で納得した。
「そういえば、ライラはなんで学校に入ろうと思ったの」
学校、正式名称ブレディス学園は、数百年前にヨミがギルドのエリート養成機関として造ったのが始まりだった。初めは学校と言うよりはヨミの私塾と言ったほうが正しかったが、当時から世界で最高の魔法使いだったヨミへの評価が高く、入学希望者は右肩上がりに増えていった。また卒業者はギルドにてずば抜けた功績を上げるものが多く、たまにギルドに所属せず騎士団や役人として出世するものも増えてきたため、貴族の跡継ぎ以外の子女の入学希望者も増えていった。現在は世界ほとんどの国に分校があり、卒業はある種の名誉や資格のような扱いになっている。
「・・・お前には関係ないだろう」
ライラの目に怒気が宿る。しかしラルカは怯える様子もなく、
「僕はね、お父さんとお母さんから勧められたの。もちろんお姉ちゃんからもね。いっぱい勉強して、友達作りなさいっていわれたんだ」
ライラは答えず、内壁の門をくぐると、今までの区間よりさらにきれいな街並みが広がっていた。
「うわ、すごい、真っ白だね。まぶしいくらいだ」
建物はほとんどが石造りで、しかも高価な大理石でできたものも多い。まるで街全体が白く輝いているようだ。しかしライラは
(反吐が出る)
その高価な街を作るためにどれだけ平民から血を吸い上げてきたのかわからない。見た目は白く美しいかもしれないが、内面はヘドロのように薄汚いやつらだ。ライラの視線が険を帯びた。
しばらく歩くと、さらに壁に囲まれた敷地があった。どこかほかと比べて異質なそれが、二人が入学試験を受けるブレディス学園である。すでに入学希望者が集まっていた。
「じゃあ、ここでお別れだな」
冷たい声がライラから聞こえた。ラルカがけげんな顔をする。ライラはまた胸に小さな痛みが走ったが、気付かないふりをした。
「助けてくれたことには礼を言う。借りもいつか必ず返す。しかしわたしは他人となれ合うつもりはない。一人で生きていく。お前もあとは勝手にしろ」
足早に去っていった。ラルカはその背中が泣いているように見えたが、追いかけなかった。
(だいじょうぶ、ライラとは学園で仲良くなれるから)
それは予感を超えた、確信に近いものだった。
ライラと別れたラルカは、試験の受付のところにやってきた。
「すみません、入学試験受けたいんですが」
そう言ってヨミからの推薦状を渡す。受付の女性が推薦状に目を通す。
(この子が、あの―――)
ヨミからは聞いていたが、こんなに小さい子が受けるのか。どこからどう見てもただの少女にしか見えない。いや、男の子とは聞いているが。
「はい、確かに確認しました。では受験料3アウグス頂戴いたします」
ラルカが銀貨三枚を置く。
「はい、確かに。合格した場合返却いたします。それでは受験する試験の種類を申請してください」
「受験する試験?」
何のことだろう。入学試験のことじゃないのか?ラルカが戸惑っていると、
「お前、そんなことも知らずに受験するだか?」
横から声がした。振り向くと、小柄なラルカよりさらに背が低い少年が少し馬鹿にしたような顔でこちらを見ている。
(あ、ドワーフだ)
ドワーフは国宝・ガドンしか見たことがないが、ラルカは瞬時に理解した。ドワーフは背が低く、ほぼ全員が茶色の髪に浅黒い肌をしており、丸鼻のものが多いため、見抜くのはたやすい。
「いいが、この学園の試験は、まず筆記、これは全員が受ける。それ以外に武術、魔法、その他があるんだ」
コホンとわざとらしく咳払いをして、ドワーフの少年は続けた。
「武術は魔法を使用しない試合形式の試験。魔法は攻撃魔法、回復魔法、その他の魔法、例えば攻撃補助とかの実演だ。その他は特殊技能、例えば鍛冶、魔道具の生成とかがな。その中で好きな物選んで受けるんだべ」
「どれでもいいの?」
「おう、筆記を含め、どれか一つでも合格すればいいべ。けんど、あんまりたくさん受けっど疲れっちゃから、筆記以外は一~二個にするのが基本と言われてるべ」
「そうなんだ」
ラルカは受付の女性に振り向いて、うーんと考え込み、武術、攻撃魔法を選択した。隣のドワーフの少年は鍛冶を選択したようだ。
「はい、確かに承りました。それでは受験票をお渡しいたします。初めに筆記試験をいたします。入って右手にある建物の中で行いますのでお進みください」
ラルカはぺこりと受付の女性に頭を下げ、ドワーフの少年に向き合った。
「ありがとう、助かったよ。あ、僕ラルカ。君の名前は?」
「オイラはゴンゾ。いずれこの国一の鍛冶師になる男だべ。おぼえとけよ」
「うん、ゴンゾーだね」
「ちがう、ゴ・ン・ゾ!最後伸ばすな!」
「ごめん、わかったよ、ゴンゾー」
「・・・お前と話すと疲れるべ」
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