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一度世界を救った少年は、再び世界を救う!?  作者: 長月楠


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少年、最強パーティとともに冥王を打倒す①

「ついにここまで来ましたな」


 長い黒髪を後ろで束ねた男性が、誰に言うでもなくつぶやいた。遥か東方にある小国の出身らしく、そこでは彼のような剣士を“侍”と呼ぶらしい。目元の涼やかな顔立ちは、若かりし頃女性にさぞ騒がれていたであろう。


「長かったのう。こちらに来て十数年も経った。現世ではもはやわしらは死んだと思われているじゃろうな」


 それに答えたのは、背が一段と低い老人だった。ドワーフの彼は長く伸びた白いひげをさすっており、そのしぐさはどこか寂しげだ。黒髪の男、イズミはそれに小さく頷き、自身の愛刀を確かめるように握りしめた。その愛刀は、ドワーフの老人、ガドン作である。


「どれ、念のため刀を見てやろう」

「お願いいたします」


 イズミが刀、「素戔嗚」をガドンに手渡す。ドワーフの国で最高の鍛冶師に送られる称号「国宝」を持つ彼にとっても、この刀は生涯で一、二を争う会心の出来だった。

「ふむ、刃こぼれもないし、問題はないな。よくここまでもったものだ。そなたの腕があってこそじゃの」

「いえ」

 イズミは小さく頭を下げ、刀を受け取り、再び視線を前に向けた。そこには草木一本生えぬ荒野が広がっている。上を見上げても青い空も雲も太陽もない。ただあるのは紫がかった不気味な霧だけである。

 彼らがいるのは冥府、死者の魂の行き着く世界である。ここには人々の営みも、木々のざわめきもなく、あるのはただただ死の香りと静寂のみ。しかし、彼らは死んだわけではない。生者でありながら冥府へと来たのだ。


「まあ、長い人生、冥府に来ることもあろう。これもまた、良きかな良きかな」

 そう言って豪快に笑ったのは、長身のイズミよりさらに頭一つ大きい獣人の男だった。年齢はガドンよりはるかに上らしいのだが、とてもそうは見えない。発達した筋肉は巨象を、白い頭髪と顎髭は獅子を、鋭い目は鷹を思わせる。


「きゃっ」

 獣人の男の隣にいる女性、エリステルが小さな悲鳴を上げた。

「もう、ジンブ様、こんな時に何をするんですか」

 頬を膨らませるエリステルは、自身の臀部をなでた獣人の男、ジンブの手をつまみ上げた。実年齢は三十を超えているはずだが、その少女のようなあどけなさは、二十を下回ると言われても信じる者は多いだろう。彼女はその美しさと神の奇跡ともいわれる最高難易度の魔法を成功させた事から、「聖女」とあがめられ、崇拝しているものまでいる。

「ふふ、こんな時だからこそじゃよ。明日の決戦の前に、若い女子(おなご)に触れておきたくてのう」

 そう言ってまたエリステルの臀部に手を伸ばしたが、

「ははは、ジンブ殿、少々おふざけが過ぎますぞ」

 イズミの刀がジンブの喉元に当てられている。顔は笑っているが、眼は笑っていない。愛する妻の体を触られたのだから当然ではあるが。

「まったく、冗談が通じない奴じゃのう。これほどの美女を独り占めするものではないわ」

「剣聖」と謳われたイズミの殺気を受けてもジンブは毛ほども動揺していない。彼もまた、徒手空拳最強の使い手であり、「闘神」の名をほしいままにしている。

「まったく、其の方らは緊張と言うものを知らぬのか。今から冥王と大戦(おおいくさ)のが待っているのだぞ」

 同じようなやり取りをもう何度見たかわからない、とあきれたように言ったのは、輝くような金髪と、透き通るような白い肌をもつ、エルフのフロートである。人をはるかに超える寿命を持つエルフの中でも最も高齢で、エルフの王でもあり、精霊王と契約した彼を人は「賢者」と呼んでいた。

「ほほほ、まあよかろう。こんな時だからこそ、いつもと同じように過ごすことが大切じゃろう」

 ガドンよりさらに背が低い、とんがり帽子から声が聞こえた。

「ヨミ殿」

 人間よりはるかに長い時を生きたフロートも、彼女には一目置いている。彼女がこのパーティの首領、ヨミである。見た目は十歳ぐらいの少女であるが、悠久の時を過ごしているためその精神はもはや人のものではなくなっている。世界最強の時魔法と空間魔法の使い手である彼女を、古より人々は「魔女」と呼び敬い、そして恐れた。

「お、ようやく戻ってきおった」

 ジンブが見上げると、一体の竜がこちらに向かって飛んできている。竜にしてはだいぶ小柄ではあるが、エメラルドに輝く体毛をなびかせ雄大にはばたくその姿は、最強の種族・竜に相応しい威容を兼ね備えていた。彼女こそ、竜王が生涯ただ一体のみ産むことができる真なる子、「竜姫」ユスティである。


 今から十五年前、世界に突如冥府の門が開かれた。その結果世界が暗闇に包まれ、死んだはずの魔物が復活し、さらに既存の魔物たちも急増した。魔物の被害や、急激な気温の下降による凶作による飢餓により人口が激減し、滅亡した国さえ現れた。後に「666日の冬」と呼ばれる未曽有の大災害であった。


 この危機に結成されたのが、彼ら世界最強のパーティである。彼らは知るはずもないが、現世では彼らを「七星使徒」と呼び、命を懸けて世界を救った英雄として世界中で崇敬の対象となっている。全員死んだと誤解されてはいるが。


「おーい、お父さん、お母さん、みんな、ただいまー!」

 その竜の上から、現世の人間が知らぬもう一人の英雄の声が聞こえた。その声の主は竜姫の背から飛び降りると、真っ先に母であるエリステルの胸に飛び込んだ。

「ただいま、お母さん!」

 エリステルの豊満な胸に顔を埋め、頬を擦り付けている。ジンブが少しうらやましそうに見つめていると、その頬にイズミの愛刀が突き立てられていた。

「おかえりなさい。もう、甘えん坊さんなんだから」

 エリステルが少年を抱きしめた。初めて腹を痛めて産んだ我が子だ。可愛くないわけがない。

「まったく、お主ももう十二になろうというに、未だ母離れができぬとはな」

 イズミが少しあきれたようにつぶやいた。

(少し教育を間違えたかもしれぬな。仕方ない部分もあるが・・・)

「えへへ、ごめんお父さん。今ユティと見回りしてきたけど、魔物も神官もいないよ」

 母の胸から名残惜しそうに離れると少年、ラルカは少しだけ照れくさそうに頬をかいた。


 彼らのパーティは冥府の門を閉じることに成功したが、門は内側からしか閉じることができないため、冥府に閉じ込められてしまった。そこで脱出する方法を探ると同時に今回の事件の原因を探り、それを断つことにした。しかしその旅が始まってすぐに、エリステルの懐妊が発覚した。それがラルカである。エリステルとイズミは現世でも長らく二人でパーティを組んでいたが、正式な夫婦ではなかった。冥府での激しい戦いの中の育児は歴戦の猛者たる二人にとっても大変なことだったが、何人も子や孫を持つジンブやガドン、想像を絶する長い時を生きてきたフロートとヨミ達の支えもあり、ラルカは少々甘えん坊だが立派な男の子として育った。


 ラルカを加えた八人の一行は冥府を旅し、死んだはずの魔物たちを倒していたところ、冥王に仕える神官たちに襲われた。本来神官たちは冥府に来た死者の魂を浄化する役目を持った者たちであり、魔物ではない。どうやら皆正気を失い、暴走しているようだとヨミが気付いた。そしてその原因は、冥王が暴走したためであり、冥府の門が開いたのもそのためであると。


「大義であった、ラルカよ。いよいよ決戦である、気を引き締めるがよい」

「ありがとう、おじさん」

 フロートはにこにこと笑顔で、ラルカの母親譲りの美しい桃色の髪をなでた。普段はあまり感情を表に出さぬフロートだったが、ラルカに対してはエルフの王としての威厳も賢者としての貫禄も出さない。ラルカにとっても、親戚の伯父さんぐらいにしか思っていない。今の二人を普段のフロートしか知らぬエルフたちが見たら目を疑うだろう。

「おじいちゃん、じいちゃ、お姉ちゃん、いよいよ決戦だね」

 ガドン、ジンブ、ヨミを見渡し、ラルカは自分の握りこぶしを見つめ、鼻息荒く気合を入れていた。三人はそんなラルカを本当の孫のように慈しみを込めて見つめている。因みにヨミがこの中で一番年長であることは知っているが、お姉ちゃんと呼ぶように言われている。いちどジンブにそそのかされて「おばあちゃん」と呼んだ事があった。が、ラルカはその時の記憶を思い出さないようにしている(もちろんジンブも)。


「でも、冥王様っておっきんだねー。初めて見た時はびっくりしちゃった」

 のんきなラルカの声に皆が苦笑した。しかし先日初めて冥王を見た時、そのあまりの大きさと恐ろしさに、さしもの七星使徒たちも恐れを抱かずにいられなかった。冥王に仕えていた神官たちも見た目は完全な怪物だったが、冥王はそれを遥か凌駕している。と言うより特定の形すら持っていない。恐怖に歪んだ顔や髑髏が現れては消え、それが泡沫状となり無数に連なっている。その大きさは現世の巨大な山脈ほどはあるだろう。まるで冥府に充満する死の力を具現化したようだ。

(これを、倒さねばならないのか)

 冥王のもとにたどり着いた時、誰もが思ったが、口にはしなかった。それを口にした途端、この冥府から抜け出せなくなる気がしたから。強者との戦いを愉悦としているジンブや、死線を数え切れぬほど潜り抜けてきたヨミでさえも。しかし、彼らの中でラルカだけが恐怖を感じていなかった。それは子供ゆえの無邪気さなのか、冥王が本来邪悪なものではないことを感じていたのか、それともほかの理由があるのかはわからない。


「ふむ、あとは思い切り奴をぶちのめせばよいだけじゃな、わかりやすくてよいわ」

 わははと豪快にジンブが笑い、イズミがそれに頷く。ジンブはイズミを本当の子のように気に入っていた。イズミもジンブのことを武人として心から尊敬している。エリステルへのセクハラさえなければ。

「念のため確認しておくが、冥王は冥府にいる限り不死、倒しても復活する、間違いはないな」

 ジンブがヨミに尋ねる。ヨミは頷き、その指先を冥王に向けた。

「冥王は冥府の秩序そのもの。神と言っていい存在じゃ。我らが消滅させられる相手ではない。本来はな」

 一度言葉を区切ると、「しかし」と続けた。

「今、冥王は正気を失い、自身の外殻も精神もバラバラになりかけているが、自身の力によりそれをとどめている状態じゃ。いったんこれをはじけさせ、力も魂も体も消滅させる。しかし冥王は冥府がある限り不滅の存在。ゆえに自動的に冥王は復活する。その際精神も再構築され、正気を取り戻すじゃろう」

「本当にそれで成功するのか」

「それ以外に手はない」

 ヨミの言葉にまた緊張が走った。しかし、

「ふふ、これが終わったらやっと現世に行けるんだね。楽しみだなあ。ねえユティ。現世に行ったらどこに行こうか?」

 竜姫の首をラルカがなでると、竜姫は親愛を示すようにラルカの頬を舐める。竜は人以上の知性があり、人語も理解しているが、竜姫ユスティはまだ幼いため言葉を発することはできない。しかしラルカと姉弟のように育ったため、ラルカは彼女が何を言いたいのか理解できた。

「ふふ、ラル坊達を見ていると、まるでピクニックに来たようじゃな」

 ガドンの言葉に笑いがはじけた。

「じゃあ、行くとするかの」

 それにつられたのか、ジンブもまた笑顔で、それこそピクニックに行くように言うと、全員が前を向き、一歩を踏み出した。

お読みいただきまして、ありがとうございます。

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