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ARCANA WORLD  作者: 藍染悠華
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とある日の冬

今から八年前、僕がまだ十歳だった頃だ。それは突然やってきた。


ピピピッ


朝になり、アラームが鳴り響く。体を起こそうとした。しかし、すぐに異変に気づいた。体が重い…起き上がることが困難だ。瞼は重く、吐き気までする。


「尊夜!」


力強い声が耳に響いた。


いつもなら、とっくに起きて来る時間になっても来ないことに、父と母は異変に気づき、僕の部屋へ入ってきたのだろう。

そして、一目見ただけで、僕の様子は酷かったのだろう。父が急いで僕の体を起こす。


「酷い熱だ…」


父は、急いで車の鍵を取り、僕を車に乗せる。車を走らせること、数十分。着いた所は病院だ。

病院がチラッと見えたと同時に、僕の瞼は完全に閉じた。意識も深く、深く、沈んでいく。

僕が目を覚ましたのは、高熱を発症してから、二日後が経った頃だった。

白い天井、いつもと違う天井、独特な香り。

あぁ…ここは病院だな。

と、すぐに理解した。

周りを見渡したが、周りには誰もいない。父も母も、医者や患者もいない、静かな空間だ。

しかし、少し時間が経つと医者が病室に入ってきた。かなり歳をとった男性の医者だ。

目を覚ました僕を見ると、医者は安堵した表情で、僕に近づいてくる。


「良かった…目が覚めたんだね。」


医者の低くも、優しい声が耳に届く。しかし、そんな優しさに溢れていた顔も険しくなった。少し身構えてしまったが、医者がすぐに口を開いた。

「君がようやく目覚めたというのに…君の両親は…薄情と言うべきか…なんというか…」


医者は言葉選びに迷いながら、この二日間のことを話してくれた。

「まず君は、この二日の間に高熱によって意識を失っていた。幸い、症状も悪化することなく、徐々に体温も戻ってゆき、君は無事に目を覚ましてくれた。ただ…」


医者は目線を少し下げ、再び話し始める。


「ただ、この二日間の間、君の両親は一度も顔を出さなかった。高熱だけとはいえ、君に会いに来ることがなかったのは、流石にどうなのかと考えていたんだよ。」

「なるほど…」


父も母も、僕の見舞いに来ることはなかったようだ。

とはいえ、悲しいわけでもないし、驚くような事でもない。昔から自分に対して、素っ気ないところがあった両親だった。


とはいえ、自分に無関心だったかと言われると、決してそういう訳では無い。


でなければ、僕を病院まで送る事はないと思う。何より、熱を出した時のあの父と母の焦りの表情を、嘘偽りと言うなら、それこそ僕は薄情な人間だろう。

誕生日を祝ってくれたり、一緒に遊んだりもした。

ただ二人にとって、今回起きたことはそれほど重大なことではないのだろうと、自分の中で結論を出した。


そう考えている内に医者が問いかける。


「まぁ、それはそれだ。調子はどうだい?尊夜君。」

僕はゆっくりと体を起こし、軽く手を動かす。


そして僕はこの時、気づいた。


体が軽い。2日前まで高熱になっていたのが嘘のように、体が軽かったのだ。

今なら、空を飛べるのではないか、と思うくらいに。

もう一つ気づいたことがある。

この病室の外から人の気配を感じるようになった。まるで、鋭いアンテナを張っているような、そんな奇妙な感覚だ。

そして、実際に病室の扉が開き、もう一人の医者が入ってきた。

医者同士が話し合っている中、僕はふと、自分の右腕を直視した。

そしてすぐに、自分の右腕にも異変が現れていたことに気づいた。


右腕に()()()()()()()ができていたのだ。

どこかにぶつけてしまったのか?と、疑問を持ち、腕を触る。

何かが起きるわけでもなく、ただ体に違和感を覚えたまま、僕は退院した。

奇妙な感覚を覚え初めてから、一年が経過した。

あれからというもの、僕には大きな変化が起きていた。人の気配を感じやすくなってから、事ある毎に素早く反応してしまう。

一部の人からは、面白いと言われ、また一部の人からは、怖いと言われる。

反応は人それぞれだが、日に日に力が増していく。

体は軽くなり、以前の僕とは比較にならないほど、身体能力が上昇している。

僕の体は本当にどうなってしまったのだろうか…


この謎を解きたい。


単なる偶然なのか、それとも何かが壊れたのか。

考えれば、考えるほど、深く、深く、深く沈んでいく。


そうして、時間がどんどん過ぎてゆき、気づけば冬になっていた。


肌を刺すような風、熱を忘れさせる厳しい寒さ。


相変わらず、力は強くなり続けている。

更には、右腕の痣が右手の甲にまで、届こうとしている。

この一年の内に、僕は考えた。

この痣が原因なのか?

どうにかしようと思い、僕は両親に相談した。

しかし、父と母から帰ってきた言葉は、想像していた言葉ではなかった。


そんな痣、どこにもないぞ?


と言われ、僕は困惑してしまった。

何度も、何度も言い続けた。そして、最終的には病院に向かい、診断してもらうことになったが、やはり痣らしきものはどこにもない。


この痣は自分にしか見えないのか?


考えれば考えるほど、分からない。自分がおかしいのか、周りがおかしいのか…


…恐らく後者なのだろう。


だって「普通」ならこんな痣になんてならない。

この痣が普通なら、皆んな気づいているはずだ。


だから…僕がおかしいんだ。


そう思い、痣のことについて深く考えることは少なくなった。でも、この体に起きている謎は結局何なのかは分からない。


痣が原因なのか、それ以外の何かが原因なのか。


僕は、降りしきる雪の上を駆け足で、進んでいく。

ザク、ザクと音をたてながら、真っ白い息を吐きながら、家に向かう。


帰路の途中、大きな街路樹があるそばに、白髪の女性が立っていた。

ふと、僕は女性を見てしまった。


この白い雪にも劣らない、美しい白髪。厳しい寒さにも負けずに堂々とした姿勢。


綺麗だ。


と、僕は思った。

すると、街路樹のそばにいた女性が、僕の存在に気づき、足早に、皆んなと同じように、白い息を吐きながら、こちらへ向かってきた。


近くで見ると気づいたことがある。

白髪の女性は、すごく大きかった。当時の僕は小学四年生だけど、クラスの中では、三番目に大きいんだ。それでも、見上げてしまうほど、高身長だ。

瞳の色は、冬の冷やかさを感じさせる美しい青色。

こんなにも美しいと、心から思えたのは、後にも先にもこの時だけだ。


そして、冷えきった空気を凪ぐように、肌を刺すような風も静まり…


その人は言った。


「君、私が見えてるのか?」

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