8話
【夢原颯太視点】
カナっちさんに似合う服を買いに行くことになり、ちーちゃんさんたちと隣町へショッピングに行く運びとなった。
そうして校門を出た矢先。俺は、
「あっ」
と、小さく声を漏らして、ふと立ち止まった。見慣れた女の子と目が合ったからだ。携帯を手に持ったその子は、俺よりも先に俺の存在に気づいていたらしい。だって、俺が彼女に気づいた頃にはすでに、こっちを見ていたから。その子は、俺が友達保険を結んでいる孤山凪だった。
「孤山、こんなところでどうしたの?」
「あっ、いや、その……」
俺が何気なくそう訊くと、孤山は少し困ったような顔をした。なんだか、もじもじしている。
けれど少し考えると、俺はすぐにわけがわかった気がした。
「……もしかして」
俺は、彼女に少し近づいて、耳打ちした。
「……ごめん、もしかしてだけど、俺に何か用だった?」
「えっ」
孤山は、正解です、と言わんばかりの顔を浮かべた。なぜわかったのかと驚いているようにも窺える。そりゃあなんとなくわかるよ。伊達に保険契約を結んでいないのだから。
「どうしてわかったんですか?」
孤山は小さな声で訊ねてきた。俺も合わせて小声で返す。田崎たちに聞こえると、色々と説明が大変になるからだ。そのため、孤山が小声なのは、それを配慮してだろうということは、容易に理解できた。
「いや、なんとなくだよ。伊達に友達保険結んでないし、孤山の考えてることはだいたいわかるよ」
「嬉しいですが、それと同時にちょっと気持ち悪いですね」
「ひどい……」
「冗談です」
孤山とはたまに軽口も言い合える仲だ。だから、それなりに分かり合えている気はするけれど、だからといって彼女を真の友達と認定してしまうのは、俺的にはちょっと違う。
なんというか、俺たちは保険上の関係であって、本当の友達ではないからだ。
そのため、お互いを真の友達と認定しまうのは、甘えだとか、妥協みたいな感じがする。
いや、話が脱線してしまったな。今はそんなことを考えている場合ではない。
そして俺は、小声で孤山に訊ねた。
「で、何か用?」
「ちょっと一緒に、カフェでゆっくりしたかったです……」
あっ、たぶんなんかあったな。
「……何かあったの?」
「……大したことではありませんが、少し」
ビンゴ。すると、横からボブカットのちーちゃんさんが割り込んできて、俺に問うてきた。
「ちょっとちょっと夢原、さっきからこそこそなに話してんのよ。っていうか、その子は?」
そう言って俺に訊ねながら、ちーちゃんさんは、俺から孤山の方へと視線を変える。
「あっ、ごめん桜田さん。この人はそのぉ……、友達ぃ……だよ。名前は孤山」
俺は一応、この場はひとまず、孤山のことは友達と紹介することにした。第三者には友人と紹介した方が、話もスムーズになると判断した次第である。
ふと孤山の顔を見ると、少し困ったような顔をしていた。知らない人ばかりいて戸惑っているのだろう。一応、しっかり紹介はしておくか。
「あっ、紹介するね孤山。この人たちは、同じ部活の人たち。田崎良太郎と、桜田千代さんと、岩井環奈さん」
俺がそう彼らを紹介すると、その三人も軽く会釈した。礼儀のいい人たちだ。
「田崎です」
「桜田千代、よろしくね。ちーちゃんって呼んでいいよ!」
「岩井環奈です。よろしくお願いします」
「あっ、この子のこともカナッチって呼んだげて。私もそう呼んでるから」
「ちょっと、ちーちゃん!」
「いいじゃんいいじゃん。お互いあだ名で呼びあった方が仲良くなれるっしょ?」
「それもそうだけどぉ」
ちーちゃんさんとカナっちさんが、大喜利を披露してくれた。まあ彼女らは、そんなつもりはないのだろうけれど。すると、孤山も自己紹介をした。
「孤山凪です。よろしくお願いします」
あらかた紹介し合えてよかった。
すると、ちーちゃんさんが唐突に声を上げて、孤山に提案する。
「あっ、そうだ! うちら四人で今から隣街に服を買いに行こうとしてたんだけどさ。夢原の友達なら、なぎりんも一緒に行かない? うちは大歓迎だよ!」
なぎりん……。これまた可愛らしいあだ名をつけられたものだ。
いや、それよりも、ちーちゃんさんが孤山を誘ってくれた。まさかこんな展開になるなんて。俺と同じく友達作りに奮闘している孤山からすれば、願ってもない申し出だろう。俺もこの場に孤山が加わっても大歓迎だ。
しかし、孤山は少し困惑したような表情を浮かべていた。予期せぬ提案に、戸惑ってのことだろう。
「……でも、……いいんですか? 初対面の私が一緒に行って……」
孤山が申し訳なさそうに訊ねた。俺も人のこと言えないけれど、彼女はかなりの人見知りだから、相手の顔を窺うような口ぶりで、恐る恐るしていた。
すると、ちーちゃんさんはにこりと笑って返す。
「いいに決まってるじゃない。うちら友達少ないし、友達たくさん欲しいのよ。ね、カナッチ?」
「うん。孤山さんさえよかったら、私も大歓迎です」
二人がそう言ってくれるならと、俺もそれに同意した。
「ありがとうみんな。みんながいいって言ってくれるなら、俺も賛成だよ」
田崎も迷惑そうにした様子もなく、快く頷いてくれた。
「俺も別にいいぜ。仲間は多い方が楽しいしな」
なんて暖かい人たちなのだ、と思った。孤山も、もう遠慮することなく自分の意思を示す。
「……では、お言葉に甘えて。私も一緒に行きたいです」
「よし、決まりね! それじゃあショッピングにレッツゴー!」
相変わらずちーちゃんさんはテンションが高い。この感じで他所に友達がいないなんて、何かの間違いではないかと感じるほどに。
かくして、孤山を仲間に加えた俺たちは、隣街に出かけることとなった。




