表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

18話

【孤山凪視点】


 先日、夢原君にお誘いを受けて一緒にカフェで過ごしていると、夢原君と出会った頃の時を思い出した。

 なんだか懐かしい気持ちになった。彼と出会えたおかげで、今の私はギリギリ生きていけている。友達保険を結んだ彼は、私にとって今では欠かせない存在になっていた。結んだ当初は上手くいくのか心配ではあったけれど、それは意外にも杞憂に終わり、現在は友達保険も上手く機能している。ありがたい限りだ。

 それはさておいて、二年生になった冬。私は相変わらず、変わり映えしない日々を浪費していた。

 けれど、一年生の頃と比べると、小さいながらも日常生活に変化はあった。

 去年の夏。夢原君や、その他美術部の人たちと、カナっちの印象を変えるために、カナっちの服を選びに行った。ちなみに、私はその日を、勝手に『カナっち事変』と呼んでいる。

 そして、そのカナっち事変の翌日からちーちゃんとカナっちと仲良くなり始めた。

 彼女らは幼馴染らしく、付き合いも長いため、当初は私が上手くその二人の輪に入っていけるのかが不安だった。けれど、今では上手く打ち解けられて馴染んでいる。相変わらず、顔から薄葉紙はとってくれないけれど。

 我が八神道高は普通科だけれど、学年が上がってもクラスは持ち上がり式で、クラス替えはおこならない。担任は離任なりなんなりで変わったりするけれど、クラスメートの顔ぶれは変わらない。

 それもあり、一年の頃から一緒にお話ししたりする丸井さんと大沢さんとも疎遠になることはなく、仲も健在である。

 ただ、相変わらず二人はインドア派のようで、遊びに誘っても一緒に来てはくれない。けれど、なんかもういいかな、と思い始めた。この二人とは友達になれそうもない。休み時間や部活で話すちょっと仲のいい人、と思うことにした。

 本日の部活が終わった後、私はいつものように校門前で待ち合わせているちーちゃんとカナっちと三人で帰宅する。この習慣は、カナっち事変からしばらくしてから始まったものだ。

 二人が所属している美術部と、私が所属している文芸部は、終了時間がほとんど同じのため、部活後はさほど待つことなく一緒に帰宅できる。

 一足先についた私は、茶色いレンガ作りの校門の壁に背を預け、空を見上げて二人を待っていた。

 もう冬の時期だということも手伝い、雪こそ降ってはいないけれど、気温はとても低いように思える。空も一面真っ白。まるで白い大きな一枚のキャンバスのようで、ついそこに何かを思いっきり描いてみたくなった。

 黒のコートを制服の上に羽織り、鼠色のマフラーを首に巻いてはいるけれど、それでもかなり寒い。あまりの寒さについ体に力が入ってしまう。

 ここまで寒いと、近年問題視されている地球温暖化とやらは本当だろうかと、疑問を浮かべてしまう。

 そんなことを考えながら校門前で待っていると、やがて二人もやってきて、いつも通り一緒に帰路についた。

 ちーちゃんは制服の上に紺のコートを羽織って、赤いマフラーを首に巻いており、カナっちもお揃いのコートと白のマフラーを巻いていた。カナッチのマフラーには、よく見ると花柄の刺繍もしてあって、とても可愛らしかった。

 二人は丸井さんや大沢さんと違ってよく一緒に出かけてくれるので、正直嬉しい。満ちたれた気持ちになれる。

 丸井さんと大沢さんは、もういらない気さえしてきた。

 「ねぇねぇ、なぎりん! やっぱあんたも美術部来なさいよ。夢原もいるし、絶対楽しいって!」

 通学路を歩きながら、ちーちゃんが目を輝かせながら私を勧誘してきた。過去にも何度か受けた提案。たしかに、仲のいい人たちと一緒に活動できれば楽しいだろうし、私としても魅力的な話だ。……けれど。

 「ごめんなさい。誘っていただき嬉しいのですが、私は今までと同様に文芸部で活動していきます」

 そのうち、一度美術部に見学しに行ってみるのもありかな、と思ったこともあったけれど、私は絵はそれほど上手くない。それに、言っちゃ悪いけれど、さほど興味もない。それになにより、私は小説家を目指しているため、やっぱり今まで通り、文芸部で活動していきたい。ちーちゃんたちと一緒に部活動ができない点は、だいぶ惜しいけれど。

 「そっかー、それは残念だわ」

 ちーちゃんがわかりやすく落胆する。それを見て、私をフォローするようにカナっちが口を挟んだ。

 「まあでも、なぎりんは小説家を目指してるんだもんね。それなら、なぎりんのことを思えば文芸部の方がやりやすいよ」

 「まあ、それもそうだね」

 私が小説家を目指していることは、ちーちゃんとカナっちには話したことがあった。それも手伝い、納得してくれたみたい。カナっちに慰められて、ちーちゃんも勧誘を諦めてくれたみたいだけれど、なんだか悪いことをしてしまったな、と思った。

 「なんかすみません。せっかく誘ってくれたのに」

 私は謝罪の意を示すため、頭を下げた。すると、ちーちゃんがこちらをじっと見つめてきた。……何か言いたそうな顔をしている。

 「……どうかなさいましたか?」

 「いや、なぎりんさ、やっぱり敬語やめない? うちら同級生だし、なによりその、もう友達じゃん? タメでいこうよタメで」

 ……友達。直接そう言われると、少し照れる。けれど、まだ私は、この二人のことを友達として捉えていいのかはっきりしていない。仲はよくなったけれど、まだなんとなく、友達として考えていいのかがわからない自分がいるから。いやそれよりも、……タメ口か。

 「あぁ、それは、その……」

 以前にも、ちーちゃんからは同じことを言われた。出会って間もない頃だった。その時の私は、「すみません。これが私の普通の口調なので、ご理解いただけたら幸いです」と言って、納得してもらった。決して悪意があったわけではないのだけれど、今思えば、言い方が硬すぎるというか、どこか棘のある言い方だったような気もしていて、反省している。

 「すみません……。できるだけ直せるように精進しますので、もうしばらく、お待ちいただけたらと……」

 またも言葉が硬くなってしまう。

 私は幼い頃から、基本的に他者には敬語を使ってしまう。癖、みたいなもので、私は意図せずどうしても敬語を使ってしまう。それはおそらく、昔からの家庭環境が大きく影響しているのだと思う。

 というのも、私が幼い頃から両親は仕事で忙しく、ほとんど家にはいなかった。そのため私は、近所の人や、親戚の家、時には両親の会社の人の家に預けられていたこともあり、やたらと見上の人と一緒にいることが多かった。

 そうなると必然的に敬語を使う機会が多くなり、やがて、私は日常生活でも上下関係なく敬語で話す癖が身についてしまった。そうして、今しがたご指摘のあった今の私に至る。

 「別にいいじゃない、ちーちゃん。話し方なんて人それぞれなんだし、自由なんだから。私はなぎりんがどんな喋り方でも気にしないよ」

 「カナっち……。……ありがとうございます」

 心が少しだけ、暖かくなれた気がする。

 すると、ちーちゃんも暖かな笑顔を浮かべてくれた。

 「まあ、それもそうだね。ごめんね、なぎりん。無理言っちゃって」

 「い、いえ。気にしないでください。そう言っていただけると、嬉しいです、私」

 なんだか恥ずかしくなってきた。一体なんなのだ、この妙な優しさに満ちたやりとりは。いや、私のせいなのだけれど。それを感じてしまったのかちーちゃんは、この気を緩めたら笑い出してしまいそうな変な空気を思いっきり破るように、叫び出した。まるで恥ずかしさを誤魔化すように。

 「あー! もうなんだこの気持ち悪い空気は! 青春ガールかよ! ほらっ、早く駅前のタピオカ店で新作買いに行くわよ! あー!」

 ちーちゃんが急に走り出したので、私たちもそれを追うように足を動かす。

 「あっ、ちょっと待ってよちーちゃん! 置いてかないでよ!」

 「……ちーちゃん、足早いですね」

 暖色に輝く夕陽が、まるで今の私の心境を表せしているようで、不思議な気持ちになる。そんな感覚に浸りながら、放課後の夕日がオレンジ色に彩った鮮やかな世界を、私は二人に続いて走りまわった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ