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17話

 近くの喫茶店へと足を運び、孤山と二人で対面式の席へと腰を下ろした。

 メニュー表を開いて、お互い注文する品を決めた後は、テーブルの端に置かれた呼び出しボタンを押して、店員さんを呼ぶ。すると、すぐに店員さんがやってきた。

 「お待たせいたしました。ご注文はなにになされますか?」

 まずは俺からで、その次に孤山が注文した。

 「えっと、ブラックコーヒーのMサイズ一つで」

 「私はカフェオレのMサイズと、ショートケーキを一つ。あっ、あとモンブランも一つお願いします」

 注文を終えると店員は去っていき、待っている間は孤山と雑談となった。

 「夢原君は、コーヒー一つで良かったんですか?」

 「うん。情けない話、あんまりお金ないから」

 「そうですか。てっきり、甘いものが苦手なのかと思っていました。コーヒーもブラックを注文していましたし」

 「いや、そんなことないよ。むしろ好きだよ? 甘いもの。今日はたまたまブラックコーヒーな気分だったけど」

 お金さえあれば俺だっていろいろ注文していた。ただ、家は母子家庭で貧乏だし、さっき孤山に薦められた本も買ったしで、今は財布の中が悲しいことになっているのだ。あぁ、お金が欲しい。というか、逆に孤山は随分とお金がありそうだな。さっきも、カフェオレに加えてデザートを二つも注文していた。

 「孤山は品を三つも注文していたけど、お金は大丈夫なの?」

 「はい。前にも申し上げた通り、私の両親は仕事を生き甲斐にしている部分がありますから。その分、お金にはそれほど困っていないので」

 「そ、そうなんだ……」

 そんなはっきりと。先ほど孤山のことを悲劇の主人公のように見ていたが、完全に見直すことにした。こいつ多分、なんやかんで俺より良い暮らしをしていやがる。

 「いいなー、恵まれていて。俺もお金持ちの家に生まれたかったよ」

 ちょっと皮肉を込めて言ってみた。すると孤山は、少しだけ顔を俯かせた。なんだか、孤山の目からハイライトが消えたような気がする。

 「……そんなこと、ないですよ。……いくらお金があったって、愛されていなかったら虚しいだけです」

  ……ちょっと言い過ぎてしまったかもしれない。もっと、孤山の気持ちを考えるべきだった。

 「……夢原君はいいですよね。母子家庭で苦労されているのでしょうけど、お母さんに愛されていて」

 ……そう……なのだろうか。たしかに、母さんは俺と妹を女でひとつで育ててくれている。けれど、時よりあの日の母さんの言葉がフラッシュバックされるのだ。

 『私だって、もう子供を育てるのうんざりなのよ!』

 母さんの口から咄嗟に出たあの言葉を思い出すと、母さんの愛情を疑ってしまう。

 たぶん母さんは、親としての責任として育ててくれているというだけで、そこに愛情はないのだろうと、そう思ってしまうのだ。

 けれど、それをこの場で孤山に言うのも違う気がするので、黙っておく。

 「……ごめん、悪かったよ。……孤山の気持ちをちゃんとわかってないのに、勝手なこと言った」

 俺が頭を下げると、孤山は俯かせた顔を上げた。

 「……いえ。……私の方こそすみません。夢原君の家だって大変なのに、お金持ちみたいな話をしてしまって。……私も、夢原君のことを何にも考えずに発言してしまって、すみませんでした」

 孤山も頭を下げる。……なんだかちょっとだけ、気まずい空気になってきた。

 「ま、まあさ。これでおあいこってことで、この話は水に流そうよ」

 「そうですね。なんだか、変な空気になってきちゃいましたし」

 お互い気まずい空気を破ろうとしていたその時、ちょうど店員さんが注文の品を持ってきてくれた。

 「お待たせしました。ブラックコーヒーMサイズです」

 俺のやつだ。あと数秒早くきてくれていたら、それをきっかけに自動で気まずい空気が払拭されただろうに。どうやら現実は、小説のように上手いタイミングで事は運ばないみたいだ。

 するとややあって、今度は孤山の注文した品が運ばれてきた。

 それからは、二人でコーヒーを啜るなり、ケーキを食べるなりしながら雑談をしたりしていた。

 すると、横の席で俺たちと同い年くらいの学生たちが、五人くらいで楽しそうにワイワイしているのが、たまたま俺の目に入った。

 ……楽しそうだなぁ。最近はそんな光景を見るたびに、昔上原たちと馬鹿騒ぎして遊んでいた日々のことを思い出してしまう。思い出したくもないのに。

 そしたらふと、俺は思い立った。孤山は普段、学校ではどんなふうに過ごしているのだろう。人付き合いが苦手なために友達がいなくて、基本一人でいると前に聞いたことはあったけれど、具体的にどう過ごしているのだろうか。

 「そういえば、孤山は普段学校でどんなふうに過ごしているの?」

 俺がなんとなく、ケーキを食べていた孤山にそう訊ねてみると、孤山はすんなりと答えた。

 「いつも一人で、小説を読んで過ごしています」

 俺と同じだ。なんだか情けない気もするけれど、仲間ができたような気持ちで少しだけ心の中が楽になった。一人なのは、俺だけじゃないのだと……、そう思えた。

 「……ちなみに、夢原君はいつも、学校でどうしてるんですか?」

 孤山はフォークでケーキを食べていた手を止めて、ケーキを見つめながら問うてきた。

 「……俺も……、一人だよ。……最初から」

 ……そう。多分俺は、最初から一人だったのだ。上原たちとも、本当は最初から友達なんかじゃなかったのだろう。

 でないと、こうもあっさり友情が壊れたりなんてしないはずだし、何より、俺が一人教室の隅で本を読んでいたら、時間が経てばそのうちまた話しかけてくるはずだ。

 なのに、いまだに上原たちが話しかけにくることはない。

 なら、きっと最初から俺なんて、大して大切に思われていなかったんだと思う。

 「……そうですか」

 「……なんか俺たちさ、……ちょっとだけ、似てるよね」

 「……そうかもしれませんね」

 俺たちはきっと、似たもの同士なのだろう。誰にも愛されずに、お互いにひとりぼっちで生きてきた。

 今思えば、学校近くのカフェで出会った頃から、孤山とはなんとなく、どこか親近感を感じていた。

そんなことを考えていると、いつのまにか沈黙が流れていた。

店内の中が、妙に静かに感じた。

 さっきまで耳障りなくらい聞こえていた隣の学生たちの声が、今は不思議と遠くに聞こえてきて、気づけば、店内中の音が遮断されたような錯覚を感じた。

 まるで、ただ俺たち二人だけが、世界から遮断されたかのように。

 「……一つ、訊いてもいいですか?」

 孤山が、今にも消えてしまいそうな小さな声で訊ねてきた。

 「……なに?」

 「私たちは……友達、なんですかね……?」

 「……それは…………」

 ……わからない。孤山とはわりと自然に話せるし、話していて楽しい。友達、として考えてもいいんじゃないかと、そう思ったことはあった。

 でも、怖かったんだ。もし、孤山を友達として認めてしまうと、またそのうち上原たちのようなことになってしまうんじゃないかって。そんなことになるくらいなら、最初から友達だなんて思いたくない。

 ……そう考えると、もうすでに答えは出ている。

 「……友達じゃないよ、俺たちは。ただちょっとだけ、仲が良いだけさ」

 たぶん孤山とは、そのくらいがちょうどいい。友達になんて、なれなくていい。今のように、たまに会って、小説の話をしたり、一緒に本屋に行ったり、そうやって、一人の寂しさを紛らわせるような、そんな都合のいい関係のままの方がいいのだ。

 きっとこれが一番いい。もうこれ以上、人を信じて……傷つきたくないから。

 「……そう……、ですよね。……やっぱり、私たちはそのくらいの関係の方がちょうどいいのかもしれません」

 「よかった。孤山も同じ気持ちで」

 「……では、それを踏まえて一つ、提案があります」

 「……なんだよ、提案って」

 孤山は急に背筋を伸ばして、かしこまったような面持ちになり、俺と真正面から目を合わせてきた。

 「……お互いにお互いを、利用し合いませんか?」

 「……は?」

 言っている意味がよくわからなかった。利用って、どういうことだ?

 「私たちはたぶん、お互いに孤独なんですよ」

 孤山はさらに真剣な顔で、俺の目を見て話しだす。

 「この行き場のない孤独感。これを紛らわせるために、お互いを利用するんです」

 「……どうやって?」

 「寂しい時や、孤独に呑まれそうでどうしようもない時に、今までのようにこうやって二人で過ごしたりして、気を紛らわすんです。友達ではないけれど、お互いを理解し合える相棒がいるって。そう思えたら、少しは気が楽になるでしょう?」

 ……なんとなくではあるけれど、孤山の言っていることは、ちょっとだけ理解できた。

 「……えっと。……つまりはお互いを仮の友達ってことにして、形だけでもぼっち回避しようって、そういう解釈で合ってる?」

 「まあ、そんな感じです。これからお互いに真に信じ合える人が現れるまでの、気休めみたいなものです。交友関係を築いていくための、土台といいますか、保険といいますか―」

 そこまで言われて、俺はパッと頭の中で思いついた。

 「あっ、『友達保険』。……っていうのはどうかな?」

 「……なんですかそれは?」

 「いや、俺が勝手に今思いついた造り名称みたいなものだよ。孤山が提案してくれた、俺たちの、利用し合うための関係の名前……」

 咄嗟の閃きで出てきた名前だから、ちょっと微妙な呼称かもしれない。自分で名付けといて、なんだか少し恥ずかしくなってきた。

 「……いいですね。とてもいいと思います」

 「えっ、まじ?」

 「まじ」

 「……そう。なら、それで」

 俺としても、孤山の提案は気に入った。たしかに、なかなかいい話かもしれない。

 「じゃあ、これからはそういう方向ということで」

 「はい。わかりました」

 「これからよろしくお願いします」

 「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 俺たちはテーブルをはさんで、律儀にお辞儀をしあった。今後彼女は、友達保険としての、自分にとって欠かせないパートナーになるかもしれないため、ここはしっかり挨拶しておくべきだと考えた次第だ。

 にしても、お互いにただ利用し合うための関係だと思えば、あまり気を使う必要もない気がしてきて、いつも以上に話しやすくなった気がする。

 特にこれといって理由はないけれど、俺たちも来年から受験ということで、ふと思い立ったことを訊いてみることにした。

 「ちなみにだけどさ、孤山はもう進路とか決めてるの?」

 「進路ですか? はい、とりあえずは。まだ決まったわけではないのですが」

 わぉ、偉いな。俺は進路なんて全然定まっていないというのに。

 俺は別に将来何になりたいとかないし、未来の目標なんてものもない。それ故に進路なんてとてもじゃないけれど、まともに決められたものじゃないのだ。たぶん、最終的には入れそうな高校を目指す形になるのだろう。

 「どこに入るの?」

 「今のところは八神道高等学校ですかね。他にも候補はありますけど」

 八神道高等学校か。少し聞いたことがあるな。俺の家からも近かったような気がする。

 「八神道高かぁ。なんか偉いね、もうこんな早い段階からちゃんと進路を決めていて。俺なんて全然決められてないよ。先のこととか、全然わかんないし」

 「進路を決めるのに、早いほど偉いということはないと思いますが」

 「うーん。まあたしかに」

 この上ない正論だ。その考え方がなかったわけじゃないけれど、なんてことなく人にそう言える孤山が随分と大人びて感じた。たぶん孤山は俺なんかよりもずっといろんなことを考えているのかもしれない。もしや彼女は、高校卒業後のことも何か考えていたりするのだろうか。

 「孤山は将来、何かなりたいものとかないの?」

 俺が何気なくそう訊ねると、孤山は肩をびくつかせた。

 「……えっと。まあ、一応は」

 なんだか随分と遠慮気味な返事が返ってきた。あんまり言いたくないのだろうかと思ったけれど、個人的に興味があったので、深追いしてみた。

 「何になりたいの?」

 「うーん……」

 孤山は答えるか否かを葛藤しているようだったけれど、少し間を置いてから、躊躇うように話し出した。

 「言いますけど、笑われそうなので少し抵抗があります」

 「笑うわけないじゃん。俺はそこまで最低な人間じゃない」

 「……笑わないでくださいね?」

 「笑わないよ」

 「絶対?」

 「絶対!」

 俺が念を押すと孤山は肩を縮こまらせ、恥ずかしそうに顔をほんのり赤らめながら口を開いた。

 「……実は私、昔から小説を書いていまして……その、小説家を目指しているんです」

 孤山は観念したように、細々とそう話してくれた。

 ……小説家。……孤山は、小説家を目指していたのか。……これはシンプルにすごいっ!

 「えっ、まじ? えっ、すごいじゃん!」

 自分の口から自然と出てきた、率直な感想だった。俺と同じく小説とか物語が好きなことは知っていたが、まさか孤山がそれを作り出す作家を目指していたなんて。

 おれは驚いたのと同時に、彼女に対して尊敬すらしてしまった。だってそりゃそうだ。俺が上原たちとのことで孤独の渦にのまれていた時、そんな俺の心に寄り添ってくれたのが、『亀裂の群青』という小説だった。

 俺は文字通り小説に、物語に救われたのだ。

 そんな俺にとって大切で特別な小説を、今自分の目の前にいる孤山が作ろうとしている事実に、俺は衝撃を超えて感銘すら感じた。

 「でも、どうしてなろうと思ったの?」

 俺がそう訊ねると、孤山は恥ずかしそうに肩を縮こまらせた。

 「……物語が、好きなんです」

 その後、カフェオレを一口飲んで、孤山はまた話を続けた。

 「……小さい頃から一人でいる時が多かったので、よく学校の図書館で、一人で小説を読んでいました。その時間が、私にとっては憩いの時間だったんです」

 あぁ。なんかわかるなぁ。最近の俺がまさにそんな感じだもの。

 「物語を読んでいる間だけは、嫌なこととか全部忘れられたんです。物語に触れていると、世界が広がったような感じがして本当に楽しくて。小さい頃の私は、物語に救われていました。今もそれは変わりませんけど」

 俺と同じだ。その気持ちすごいわかります。物語を読んでいると、いろんな考えを知ることができるし、主人公や登場人物の言葉や境遇を噛み締めて、自分も生きていていいのかもしれないと、そう思わせてくれる。孤山の言葉を借りると、世界が広がったような、そんな感じがするのだ。

 物語に触れている間だけは、まるで、嫌な現実の世界を飛び出して、読んでいる作品の世界に入り込んでいるような、そんな素敵な感覚を覚えることができた。孤山だけでなく俺にとっても、物語を読んでいる時間というのは、とても大切で、大好きな時間なのだ。孤山は続ける。

 「だから私も、いつかそんなふうに自分の書いた物語で、誰かを救いたいんです」

 ……なんて素敵な志だろうか。そんふうに考えられるなんて、もう尊敬しかない。

 上原たちとの件以来、いつしか俺は、誰かのためだとか、そんなこと思えなくなってしまったから。自分さえ良ければそれでいい。今ではその一心だ。

誰かのことを考えている余裕なんてない、そんな捻くれ者と化してしまったのだ。

 それでも、俺とは違って孤山は、まだ人の心を残しているようだ。そんな優しい彼女だけでも、決して独りよがりなんかじゃない、その優しさに満ちた素敵な夢を追い続けてほしい。俺としては、その限りである。

 「いろんな多種多様なジャンルを読んでいる孤山ならきっとなれるよ! 俺、応援する!」

 感動のあまり口から次々と言葉が出てきた。孤山はなんだか恥ずかしそうだった。

 「い、いえ、そんな滅相もありません! ……私の書いた作品なんて全然、応援していただけるほどの出来ではないので……」

 孤山は顔の前であたふたと忙しなく手を振り、謙虚に自分を否定した。

 名前の通り『凪』のように静かで清楚な彼女が書いた小説。あんまり勝手に期待しすぎるのも、本人に悪い気もするけれど、俺は勝手ながら彼女の書く物語は情景描写などが美しそうで、期待してしまった。

 本人は全然だと評していたけれど、孤山の書いた小説、俺は純粋に興味がある。

 「孤山の書いた小説、俺にも読ませてよ」

 俺は、ついテーブルから少しお尻を持ち上げて、前屈みなりながら孤山に念を押した。

 「い、いえ、本当に出来の悪いものですし。……それに、私の書いたものなんて、ゴミみたいなものですから……」

 ……孤山、なんだか謙虚を通り越して卑屈になってきたな。にしても、最後の言葉はとても無視できない発言だ。

 「自分が一生懸命書いた作品をゴミだなんて言っちゃダメだよ。俺は純粋に孤山の書いた小説を読んでみたい。どんなものでも、孤山が頑張って書いた作品を笑ったりなんてしないよ」

 「……でもぉ。……ううううっ、……なんだか恥ずかしいですしぃ」

 孤山は自分の指をこねこねといじりながら、顔を俯かせて唸った。

 たぶんこれ、もうちょっと押したらいけそうだ。

 「頼む、見せてくれ! 見たい! この通り!」

 俺は手を合わせてお願いした。すると、孤山は少し考えた後、自身の鞄から携帯の端末を取り出し、何やら画面をいじり出した。

 「……では、今メモアプリで下書きを書いているのをメールに添付して送りますから、……良ければ、ご自宅でどうぞ」

 孤山がそう言うと、ややあって、ズボンのポケットにしまってあった俺の端末に通知音が鳴った。

 取り出して画面を確認すると、そこには今言われた通り孤山からメールが届いていて、中身を見ると、メモアプリに書いてある小説が添付されていた。

 画面上には言われた通り下書きの小説が書かれていて、ぱっと見はしっかりと文章にはなっていた。けれど、下書きと言っていたため、たぶんここからさらに添削したりするのだろうと思う。

 「ありがとう。では、今から読むね」

 「いやっ、自宅で読んでください!」

 孤山に拒まれたので、仕方なく俺は自宅で読まさせてもらうことにした。

 「……ていうか、じゃあ八神道高には何か小説家になるための学科があったりするの?」

 俺がそう訊ねると、孤山は少し呆れたような顔を浮かべて俺を見た。まるで幼稚園児を見るかのような視線だった。どうやら見当違いなことを言ってしまったようだ。

 「八神道高は普通科ですよ。ほんとうに何にも知らないんですね」

 そう言われると、面目ない。なんだか恥ずかしくなってきた。

 「……すんません」

 すると、孤山は淡々と答えた。

 「特にこれといった理由はないです。家も近いですし、学力的にも入れそうですから。まあ、あとは文芸部があるみたいなので」

 「へぇ、そうなんだ」

 八神道高等学校。たしか学力偏差値は平均よりちょっと下くらいで、俺でもなんとか受験できそうだった気がする。

 俺が少し考えていると、孤山が口を開いた。

 「そうだ。夢原君もそこを目指してはどうですか? 一緒の学校に行きましょうよ」

 頬杖をついてこちらを見つめながら、そう提案してきた。今しがた、俺も考えていたところだ。

 たしかに友達保険を結んでいるならば、お互い同じ学校の方が活用しやすい気もする。それに、八神道高は俺の学力偏差値的にもベストマッチしているし、これはなかなかいい提案かもしれない。

 「うーん。……まあ、そうだね。俺も八神道高目指してみようかな」

 「それは私的にもありがたいです」

 

 そんなこんなあり、こうして俺たちの『友達保険』は設立されていった。

 これを境に、灰色だった俺の世界にほんの少しの有彩色が入った気がした。

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