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10話

 最初に出てきた駅の改札を抜けた後、俺たちはそれぞれ、帰宅するために別々のホームへと別れる運びとなった。ちーちゃんさんとカナっちさんは西口へ。俺と孤山と田崎は、東口へと向かった。

 俺と孤山はバス通学なので、八神道高の最寄駅で降りて、田崎と別れた。その後、普段から登下校で利用しているバス停へと向かった。電車をそのまま利用して帰ることもできなくもなかったが、バスの定期券があるため、使わないと勿体無いと判断した次第だ。

 バス停に向かう道中、俺と孤山は横に並んで歩道を歩いた。特に意識したわけではなかったけれど、気づけば自然と、俺は車道側に寄っていた。

 「……ねぇ、孤山」

 「……どうかされましたか?」

 孤山が、歩きながらこちらを向く。

 「今日この後、一人ならさ。一緒に晩御飯食べに行こうよ」

 そう言うと孤山は、一人と言われたことに対してイラつきを見せずに、どこか自嘲気味に微笑みながら頷いた。

 「そうですね。私はちーちゃんたちとは違って、家に帰ればいつも一人ですし」

 どこか皮肉というか、自虐めいたニュアンスだなと思った。というか、ちゃんとあだ名で呼んでるんだな。

 「よし! じゃあ近くで美味しい店があるからそこで食べよう。手持ちはちゃんとある?」

 「ちゃんとありますよ。まあ、なければ夢原君に奢ってもらうつもりでしたが」

 「ちょっと、俺もそんなにたくさんはお金持ってないよ」

 「お金のない男はモテませんよ?」

 「すぐに奢ってもらおうとする女の子もね」

 俺たちはそうやって笑い合いながら、他愛もない話をしあった。。

 ふと上を見上げると、星が綺麗に輝いていた。まるで孤独を慰めてくれているかのように。

 

 そうして俺たちは、星空が輝く夏の空の下を、二人で一緒に歩いた。

 友達保険はこんなふうに、寂しさを埋めるためのものなのだ。


 *


 初めて田崎たちと買い物に出かけたあの放課後から約一年が経過し、俺たちは二年生となった。

 部活の方では、美術部の潮田部長をはじめ、当時三年生だった先輩方は、去年の文化祭終わりに引退し、今では、新しい三年生が部長を務めている。

 三年生が引退し、新入生が入部してきた我々美術部は、そんなこんなで新体制となって活動しているが、さほど大きな変化はない。相変わらず顧問の渡辺も、愛着のある気怠さで作品の課題完成を急かしている。

 そんな具合で入学から一年以上経過したわけだが、二年生になってもそれほど生活に大きな変化はない。田崎やちーちゃんさん、カナっちさんとは、今でも良好な関係を築けている。なんなら、一年経ってだんだん友達になれてきたような気がするくらいだ。……わからないけれど。

 あとは、これといって特に日常生活に変化はない。強いて言うなれば、徐々に進路を考えていかなければならない、という空気が出てきたことくらいだろうか。

 というわけで、俺は今日も、我が美術部顧問であり、我が担任でもある渡辺に、今後の進路について、寒い冬の狭い教室の中へと呼び出されていた。

 「はぁ……。なぁ、夢原ぁ。おまえだけだぞぉ? 俺のクラスでまだ進路希望出してないのぉ」

 「……と言われましても。やりたいことがわからなくて……」

 渡部は頭をぽりぽりかきながら、困ったような表情を浮かべる。申し訳ないなとは思いつつも、自分が今後、どうしたいのかわからないのだから、どうしようもない。

 「なんかさー、漠然とでもやりたいこととかないわけ? 歌手になりてぇ、だとか、役者で観客を感動させてぇ、だとかさ」

 漠然としすぎだろ、それ。やりたいこととか言われても、いまいちピンとこない。高校に入る時だって、真に信じ合えるような友達を作るぞ! としか考えてなかったし、友達保険を最大限利用するために、孤山と話し合って同じ高校を選んだのだ。別に八神道高に特別思い入れがあって入学したわけではなかった。

 「……ない、ですね」

 「親御さんとちゃーんと話し合ってるかー? まだ二年生だけど、三年生になるのなんてあっという間だぞぉ?」

 「重々承知していますよ。ちゃんと、俺なりに焦ってますし」

 「……まあ、焦ってるだけまだいいんだけどぉ」

 母さんには、いろいろと進路について相談した。母さん的には、俺のやりたいようにやればいいし、やりたいことがないのなら、とりあえず大学には行きなさい、と言ってくれている。俺には、勿体無いくらいのいい母親だ。

 けれど多分、だいぶ厳しいはずだ。父は離婚してから養育費はおろか、その他のお金を一銭も払ってくれていないようで、今の我が家は経済的にそれほど安泰ではない。美月もいるし。そのため、俺は本来、大学なんて行ける身分ではないのだ。

 奨学金を借りるにせよ、生活を切り詰めなければならないことに変わりはない。

 だったら働くしかないのだけれど、だからって卒業後素直に働きに出ていけるほど、俺はできた人間ではなかった。めんどくさいし、何より正直、まだ社会に出たくない。

だって、怖いもの。

 「……まあ、お前の家の事情はなんとなく把握してはいるがぁ。ちゃんと親ともう一度話しておけぇ」

 渡辺はそう言って、ぽりぽり頭をかきながら立ち上がり、背伸びをした。

 「……人間って、生まれながらに平等じゃねぇな」

 「……そうっすね」

 「ま、とにかく進路希望表はもうちょい待ってやるから、帰ったらちゃんと親と話せよー。じゃ、今日部活もねぇし、もう帰れ」

 「……はい。ありがとうございます」

 俺は立ってから軽く頭を下げ、教室を出ようとした。すると、

 「……なぁ、夢原ぁ」

 その背後から、渡辺が付け加えるように声をかけてきた。

 「人間生まれながらに平等ではないがなぁ、自分の道を選ぶ権利だけは、みんな平等にあるんだと、俺はそう思うぞー」

 俺は後ろを振り返って、担任の目を見た。

 「……つまり、何が言いたいんすか」

 「まぁ、要するに。お前は賢いし、いろいろたくさん考えてるんだろうがな。親がいいって言ってくれてんなら、甘えてみるのもありなんじゃねぇか?」

 甘えてみる……か。

 こいつ、普段は気だるそうにしているくせに、こういう時だけ教師らしいこと言いやがって。……本当に、憎めない人だ。

 「…………。参考にします」

 俺はまた、軽く頭を下げ、教室を後にした。


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