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凶獣たちの狂宴〜闇に光を、君に祈りを〜  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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加藤と母娘と、元同級生たちとの対立

 黒川が帰っていくと、加藤はフゥと大きく息を吐いた。

 あんな恐ろしい男は初めて見た。加藤とて、今まで裏の世界で飯を食ってきた男だ。ヤクザの組長や外国人マフィア、果ては極悪な若手議員まで、様々な人間を見てきた。

 だが、黒川烈道だけは勝手が違っていた。あんな男が、カルトな新興宗教の教祖に収まっているというのが信じられないし、理解不能でもある。見ただけでも、人間としてのスケールの大きさが伝わってきた。

 あれほどの人物なら、もっと大きな世界にいてもおかしくないだろう。

 そんな男が、自分を讃えてきた──


(お前のこれまでの闘いぶりを調べさせてもらった。よくぞ、そこまで鍛え上げたものだ……本当に素晴らしい。俺の貧弱な語彙では、見事としか言えないのが残念だよ)


(お前の生き方は、まさにガイア救済教会の教理そのものだ。闘争なくして変化なく、変化なくして進歩なし。お前は、絶え間ない闘争により自らを鍛え上げた。今のお前は、我らが教義を体現する存在だ。まさに勇者だよ。信仰なくして、ここまで神に近づける者がいようとはな)


 あの言葉に、嘘は感じられなかった。純粋に、感じたままを言葉にして加藤へとぶつけてきた……それに対し、加藤は明らかに動揺していた。殴られるよりも、強い衝撃を受けていた。



 

 動揺を隠しながらも、バリケードをどうにか乗り越えレストランの大広間へと入った加藤だった。が、待っていたのは元同級生たちの不安と怒りの目だった。


「ねえ、これからどうなるの?」


 宮下塔子が、不安そうに聞いてきた。だが、加藤の態度はにべもなかった。


「お前らだって、どうせ俺と教祖さまとの会話を聞いてたんだろ。あのインチキ宗教団体は、二時間後に総攻撃を仕掛けてくるらしい。殺されたくなきゃ、戦え。いざとなったら、生物兵器の加藤菌でもバラ撒いてみろよ。そしたら、俺みたいな顔になるんだろ?」


 嫌味ったらしい言い方に、宮下は何も言えず下を向く。

 だが、今度は別の男が吠えた。


「ふ、ふざけんなよ! おかしいだろ! なんで俺たちが戦わなきゃならないんだ!」


 口から泡を飛ばしながら吠えたのは、川俣誠(カワマタ マコト)である。中学生の時は、加藤に「水責めの刑」と称してホースで水をかけ続け、さらには口の中にホースを突っ込み大量の水を無理やり飲ませていた。

 そんな川俣に、加藤は冷ややかな目を向ける。


「お前は、本当に果てしないバカなんだな。何故? とか、どうして? とか、ンなこと言ってる場合じゃねえんだよ。奴らは、俺たちを殺しに来る。だから戦う。それだけだ。そんなこともわかんねえのか? お前は津波に襲われた時、なぜ俺が津波に遭うんだ! 理由を言え! なんて叫ぶのか? まず逃げるだろうが。奴らが来たら、得意技の水責めでも試してみたらどうだ?」


 答えた時、今度は別のバカが声を上げた。


「だったら、まずこいつから死ぬべきなんじゃねえのか!? みんな、そう思うだろ!?」


 いきなり叫び出したのは、永井和義(ナガイ カズヨシ)だ。こいつ、というのが加藤を指しているのは明白であった。

 この永井もまた、中学生時代は野々村グループのメンバーであり、大前とも仲の良かった男である。学校で毎日、溜まっている汚水を全部飲み干すまで加藤の頭を便器の中に押しつけていた人物でもあった。

 今は無職で、ヤクザの使い走りや闇バイトなどしていた。髪を金色に染め、顔のあちこちにピアスを付け、体のあちこちにタトゥーを入れた風体は、一般人が相手なら、それなりに脅威を与えられたことだろう。

 だが、今の加藤には何ら脅威を与えていなかった。すました表情で、永井を眺めている。


 一方、永井は周りの者たちを見つつ、なおも叫び続けている。


「加藤が、俺たちをここに呼び出したんだ! 加藤さえこんなことをしなきゃ、俺たちは無事でいられたんだぞ! 悪いのは加藤だ! 俺たちで、まず加藤を殺そう!」


 そこで、ようやく加藤が口を挟んだ。


「川俣が果てしないバカなら、お前は進化し忘れた北京原人なみのアホだな。今ここで俺を殺してどうすんだよ」


 そう言うと、加藤は手招きした。


「まあ、いいや。そう思うならかかってこい。オラ、殺してみろよ」


その顔には、何の感情も浮かんでいない。しかし、全身から発する空気は変化していた。先ほど、侵入してきた信者たちを瞬時に殺害してのけた時と、同じ空気を醸し出している……。

 永井は、思わず後ずさっていた。それでも、必死で皆に呼びかける。ひとりでは、どうあがいても勝ち目はないのだ。


「お、おい、みんな! こいつは強いけどよ、全員でいっぺんに飛びかかれば勝てるんだよ! ほら、殺っちまおうぜ!」


 引きつった笑顔で、どうにか他の者たちを先導しようとする。だが、誰ひとり動こうとしない。皆、無言で彼から目を逸らせている。

 対する加藤は、呆れた表情で一同にも手招きした。


「ほう、そうか。だったら構わないぜ。まとめてかかってきなよ。お前ら全員、中学生の時は俺に好き放題してたよな? 殴る蹴るは当たり前だったし、もっとひどいことも、散々やってくれてたよな。その時みたいにやってみろよ。ほら、どうした?」


 その挑発的なセリフに、誰も反応しなかった。下を向いたまま、動こうとしない。「俺には関係ない」「私は知らない」とでも言わんばかりだ。

 加藤にはわかっていた。彼らはしょせん、殴り返して来ないとわかっている者しか殴れない人種だった。今の加藤に立ち向かえる者など、ひとりとしていない。

 こうなると、惨めなのは永井だ。泣きそうな顔になりながら、なおも皆に呼びかける。


「おい! こいつにここまで言われて平気なのかよ! みんなで一斉に行けば、絶対に勝てるんだよ! このままだと、こいつのせいでみんな死ぬんだぞ!」


「だったら、まずお前が向かって来なきゃ駄目だろ。ほら、さっさと来いよ」


 そう言うと、加藤は近づいていく。永井は、ヒッと声をあげ飛び退いた。

 あまりにも無様な姿であった。加藤は襟首を掴み、その顔面に頭突きを叩き込む──


 一撃で、永井は崩れ落ちた。意識は残っているが、痛みと恐怖でもはや立つこともできないらしい。

 それでも、加藤は容赦しなかった。片手で、永井を引きずっていく。永井は抵抗すらできず、なすがままだ。

 しかし、その後の行動は常軌を逸していた。加藤は永井を軽々と持ち上げ、バリケードの外側にブンと放り投げたのだ。


 永井の体は、死体で作られたバリケードを飛び越えて外に叩きつけられる。と、そこにバタバタと現れた者たちがいた。見張りの信者たちだ。

 加藤は、信者たちを嘲笑する。


「ハハハ、まったくゴキブリみてえにぞろぞろ出てくるんだな。まあ、いいや。そいつの始末も頼むぜ。あと、玲奈ちゃんがお腹空いたって言ってるから、ピザでも注文しといてくれや」


 挑発的なセリフに、信者たちの顔色が変わった。今にも飛びかかって来そうな雰囲気だ。

 すると、加藤はニヤリと笑う。


「なんだよ、その面は……お前らの教祖さまは、二時間の猶予をくれるって言ってたんだぜ。それを破って、いま攻撃してくんのか? お前らの教祖さまは嘘つきなのか?」

 

 言った途端、ひとりの若い信者がバリケードに近づいていく。だが、他の信者たちに制止された。

 その光景を見た加藤は、さらに煽っていく。


「ああン? どうした? 教祖さまの命令がなきゃ何もできねえのか。お前ら、ヤク中みてえだな。ヤク中はヤク欲しさに何でもやるが、お前らのヤクは信仰ってわけか。教祖さまの命令があれば、何でもやるのか。まるで、おもちゃの兵隊さんだな」


 そう言って、勇ましく敬礼してみせた。と、信者たち全員の表情が変わった。今にも、襲いかかってきそうな雰囲気を醸し出している。

 加藤は、やれやれとでも言いたげな表情を浮かべた。


「どうせ、お前ら教祖さまの命令がなきゃ何もできねえんだろ。笑っちまうな。ま、二時間経ったら相手してやるよ」


 言い放ち、その場を離れていく。

 本当は、ここまで挑発する気などなかった。むしろ、彼らの気持ちは理解できる。だからこそ、口が過ぎてしまったのだ。

 黒川烈道は本物だ。これまで見たことのない、スケールの大きな人物である。現に、先ほど会話しただけで気持ちがぐらついたのだ。

 だからこそ、その黒川に盲目的に従っている彼らを見て、微かな羨望を抱いた……。



  

 大広間に戻ってくると、加藤は残った者たちの顔を見回した。

 少しの間を置き、口を開く。


「よく覚えておけ。俺に逆らう奴は、今この場で殺す。外にいるカルト集団は、二時間後に総攻撃をかけてくる。降伏したところで、殺されるのがオチだ。しかし、俺と一緒に奴らと戦えば生き残れる可能性がある。さらに、騒ぎに気づいて警察が駆けつけてくる可能性もあるんだ。どっちが得か、考えるまでもないだろう。まさか、そんな簡単な問題すらわからないとは言わないよな?」


 そう言って、皆を睨みつける。だが、答えはなかった。先ほどと同じく、全員が下を向いており、目を合わせようとさえしない。

 加藤は、チッと舌打ちした。こいつらは、本当にどうしようもない。今の危機的状況すら、自力でなんとかしようという気持ちがないのだ。

 それどころか、戦う気持ちすらない。ここで加藤に返事をしてしまえば、戦いに賛成したことになる。しかし、戦うのは怖いし嫌だ。

 この後に及んで、元同級生たちはまだ甘えているのだ。加藤か、もしくは他の誰かが何とかしてくれる。自分が戦う必要などない……そう思っているからこそ、みんな下を向き返事をしなかった。

 呆れた連中だ。加藤は、フウと溜息を吐いた。


「お前ら、今のままだと死ぬよ」


 それだけ言うと、浅田親子が隠れている部屋へと向かった。




「だ、大丈夫?」


 入るなり、美鈴が声をかけてきた。玲奈はというと、目をつぶり寝息を立てている。眠ってしまったようだ。


「ああ、今んとこはな。あと二時間後に、総攻撃を仕掛けてくるとか言ってやがった。ただ、問題なのは俺のクラスメートたちだよ」


「えっ?」


 驚愕の表情を浮かべる美鈴に、加藤は渋い表情で語る。


「まだ、九人も残っていやがる。追い詰められた状況下では、ああいう人間はパニクりやすい。となると、狙われるのは弱い立場の人間……つまりは、あんたら親子だ。あいつら、いよいよとなったら、トチ狂って玲奈を教団に渡しかねない。だから、絶対に油断するな」


「わかった」


「できることなら、あいつら全員を今のうちに殺しときたいよ。何の役にも立たねえ上、事が起きればすぐにパニクる。本当、無能な味方ほど始末に負えねえものはないな」


 そう言うと、加藤は溜息を吐いた。







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