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凶獣たちの狂宴〜闇に光を、君に祈りを〜  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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加藤亜嵐と、仮面の伝説

「加藤亜嵐は一度、ガチで殺されかけたことがあったんです。外国人マフィアの恨みを買い、車ではね飛ばされました。倒れたところを、拳銃で五発撃たれたんですよ。にもかかわらず、あいつはムクッと起き上がり、素手で相手を殺しちまったんです。後で闇医者に診せたら、弾丸は全て当たっていました。なのに、内臓を避けて貫通していたそうなんです。どういう体してんだ……と思いましたね」


 語る拝み屋ジョーの顔には、先ほどまでのとぼけた表情が消えていた。

 一方、黒川は余計な口を挟まず、黙ったまま彼の話を聞いている。


「あと、とにかく無茶が多い。てめえの命なんか、何とも思ってないようなところがありましてね。銃弾の飛び交う中にも、平気で突っ込んでいける奴なんですよね。人間、ああまで命知らずになれるもんなのか……と思い、個人的に興味を持ち調べ始めたんですよ」

 

 そう言うと、ジョーは録音機を取り出した。


「これは、加藤をイジメていたっていう元同級生の大前貴彦から聞いた話を録音したものです。まあ、聞いてくださいよ。ぶったまげますから」


 言った後、ジョーは録音機のスイッチを入れる。


 ・・・


(録音機から、ジョーの声が流れてくる)


「あんたは、大前貴彦さんだね」


「ああ、そうだよ」


「随分やつれた顔してるけど、大丈夫? 話できる?」


「大丈夫だ。ちょっと寝不足なだけだよ」


「あんたは、加藤亜嵐の同級生だったそうだね」


「加藤亜嵐!? あいつは今、どこにいるんだよ!?」


「ちょっと落ち着きなよ。どこにいるかは知らない。それよりも、あんたは加藤をイジメていた……と聞いたが、本当か?」


「イジメ、か。確かに、あれは傍から見ればイジメ以外の何物でもないよな。ただ、誰も気づいてないことがあった」


「それは何だ?」


「あいつは……加藤は、人間じゃねえんだ。化け物なんだよ」


「はあ? どういう意味だよ?」


「あんた、俺たちのやったことは聞いてるよな。階段から蹴り落としたり、バットで頭ぶん殴ったり、屋上から突き落としたり……」


「ああ、聞いてるよ。あまり、いい趣味じゃねえなあ」


「それだけか?」


「他に、どんな感想があると言うんだ? まさか、僕たちも管理社会の被害者ですぅ……とでも言いたいのかい?」


「違う。あいつはな、殴ろうが蹴ろうがビクともしなかったんだよ。普通の人間なら、あれだけ殴られたら意識飛んだり骨が折れてるぜ。だが、あいつは違う。翌日には、ケロッとした顔で普通に学校来てやがる。あんな奴、見たことねえよ」


(ここで、しばらく沈黙。一分ほど経った後、再び大前が語り出す)


「俺はヤクザの家に生まれた。物心ついた頃から、家には本物のヤクザが出入りしてた。その中には、人を殺したことのある奴が何人もいた。だから、同じ年頃のイキってる奴とか見ても全然怖くなかったんだよ。ガキの遊びにしか見えなかった。ところが、加藤は別だった」


「別だった? どういう意味だよ」


「あいつは、何かおかしかった。初めは、普通のイジメられっ子かと思ってたんだよ。でも、殴られて立ち上がってきた加藤の目を見た時、背筋がゾクッとなったんだ。あん時は……」


(またしても沈黙。十秒ほど経ってから、大前は再び語り出す)


「こいつ、本当は俺なんかより遥かに強いんじゃないか……って思ったんだ」


「それから、あんたはイジメに加わるようになった、と」


「ああ。俺は、加藤をとことんまで痛めつけた。そうすれば、いつかキレて向かって来るんじゃないかと思ってな。キレた加藤と、やり合いたかったんだよ。ところが、あいつは向かってこない。俺はムカついたね。俺なんか相手じゃねえってことか、と思ってな。それから、さらにひどく加藤を痛めつけたよ」


「その結果、加藤の左耳の聴覚が失われたことは、知ってるのか?」


「えっ……いや、知らない。そうだったのか?」


「そうさ。でも、そのことはいいよ。話を続けるが、最終的に加藤はバンジージャンプさせられた。ところが、ロープが外れて下まで落ちた、と」


「そうさ。加藤は、四階から校庭に落ちていった。普通なら、即死のはずだった。なのに、あいつは生きてやがった」


「あんた、ひょっとして加藤を殺すつもりだったんじゃねえのか? わざとロープが外れるようにした、と?」


「そうだ……イジメていくうち、俺は奴が怖くなってきた。加藤は、本物の化け物なんだよ。あいつらの中で、俺だけが奴のヤバさに気づいてたんだ。何をやっても死なねえんじゃないか、そう思ったんだよ。実際、あいつは四階から落ちても死ななかった」


(ここで沈黙。十秒ほど経った時、啜り泣く声が聞こえてきた)


「俺は、加藤が怖い。今でも、奴の夢を見るんだ。加藤が怖くて仕方ないんだよ……」


・・・


 そこで、録音機は終わっていた。ジョーは肩をすくめると、今度は自らの口で語り出す。


「リアルチートって言われてる連中は御存知ですよね? ハンス・ウルリッヒ・ルーデルとか舩坂弘みたいに、戦場で何度も死にかけたのに、ことごとく生還しているような奴らのことです。黒川さん、あなたもそのひとりですよね」


 そう言って、ジョーは笑った。だが、次の瞬間に真顔になる。


「俺が思うに、あなた方は選ばれた人種なんですよ。強い戦士として、運命づけられた人間ですね。そして加藤も、あなたと同類なのだと思います」


「加藤が、か?」


「はい。加藤の受けたイジメについて、当時の担任教師に裏取りもしてみたんですが、真っ青な顔で言ってました。今から思えば、死んでもおかしくなかった……と。バットで頭をフルスイングされたり、バイクではねられたり、四階から一階まで延々と階段から蹴り落とされたり……にもかかわらず、病院に行ったのは一度きりなんですよ。体の頑丈さは、もはや異常と言っていいレベルですね。大前の言う通り、加藤は化け物です」


「なるほど、な」


「ちなみに、大前は死にました。加藤の裏の世界での暴れっぷりを教えたら、震え上がって逃げ帰りました。しかも翌日、拳銃で自殺しちまったんです。よっぽど加藤のことが恐ろしかったのでしょうね」


「フン、信仰心のないヤクザなど、しょせんはその程度だろうな」


「死ぬ直前まで、加藤が俺を殺しに来ると騒いでいたとか。自殺した部屋にはノートの切れ端に、加藤はきっと来る、怖い……と書き残していたとか」


「本当に雑魚以下だな。だが、それでも大前は役割を果たしたのだ。問題なのは加藤亜嵐だよ。奴が、何故に目覚めたか……お前にわかるか?」


「いえ、わかりませんね」


「加藤は幼い時、母と共に地面に落ちた。その体験が、あの男に罪の意識を植え付けた。だからこそ、加藤は無気力な少年となった。己の可能性を封じ込め、闘争を拒否して生きてきた」


 黒川の瞳には光が宿り、恍惚とした表情を浮かべている。ジョーは黙ったまま、彼の言うことを聞いていた。


「ところがだ、大前というヤクザが加藤を屋上から突き落とした。その時、加藤は罪の意識を消し去り、戦士として覚醒したのだ。大前は雑魚以下ではあったが、立派に与えられた役割を果たしたのだ」


「なるほど……」


 ジョーが頷いた時、荒牧が部屋に入ってきた。黒川に向かい、真剣な表情で口を開く。


「浅田美鈴と玲奈のいるレストランですが、中にいるのは加藤亜嵐で間違いないようです。また、我が信徒三人を殺したのも加藤です。レストランから逃げ出してきた男女四人を、先ほど捕らえたとの報告が入りました」


「そうか。その逃げ出してきた男女は、何者だったのだ? 加藤と何か関係があるのか?」


「奴らは、加藤によりレストランに呼び出されたようです。中学生の時、加藤と同じクラスにいましたが、加藤へのイジメに全員が加わっていたという話です。どうやら加藤は、その復讐のため同級生たちをレストランに集めたようですね。あと、レストランのオーナーである野々村裕司は行方不明になっていますが、この男も加藤の同級生でした」


「なるほど、自らの手で裁きを降すか。それもまた、我らの教義と同じだ」


「捕らえた者たちはどうします?」


 荒牧の問いに、黒川は眉ひとつ動かさず即答する。


「全員殺せ」


「わかりました」


 荒牧の方も、即答して出ていく。教祖と、教団ナンバー2の完璧なコンビネーションである。

 そんなふたりを、ジョーは冷めた目で見ていた。だが、荒牧が出ていくと同時に再び口を開く。


「ところで……情報は、もうひとつあります。例の仮面ですが、あなたの前の持ち主が判明しました。山川優孝(ヤマカワ ユウコウ)という男です。去年、首を吊って死んでいるところを発見されたとか。仮面を失ったショックから、自殺したのではないかと思っております」


「そうか」


「話を戻しますが、加藤は恐ろしい奴ですよ。それに、玲奈の力も未知数です。あの娘が本格的に目覚めたら、とんでもないことが起こるかもしれません」

 

 拝み屋ジョーは、真顔でそんなことを言ってきた。

 このジョーという男、自身は何の能力もない。そもそも、占いだの霊だの超能力だのといった単語は、金儲けのためにしか用いない人種である。

 しかし、本物を見抜く目はある。その目には、黒川ですら一目置くほどだ。浅田玲奈に特殊能力があることを見抜き、黒川に「あの子いけますぜ」と進言したのも、この拝み屋ジョーである。

 さらに、黒川が偶然に拾った怪しげな覆面を、伝説の『白き死の仮面』だと見抜いたのもジョーであった。


「我が教団が、奴らにより壊滅させられるとでも言うのか?」


「その可能性は、ないとはいえません」


「では、どうしろと?」


「いっそ、このまま逃がすというのはどうです? あいつらだって、完全に行方をくらませるのは不可能ですからね。町中で泳がせ、隙を見て親子をさらう。加藤のことは放っておく、それでいいのでは?」


「それでは面白くない。俺はな、久しぶりに血が見たくなったのだ。それに、加藤亜嵐が俺の同類だと言うなら、是非とも会ってみたい」


「そうですか。なら、俺の方からこれ以上は何も言いません。ただ、仮面にだけは手を出さないでください」







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