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凶獣たちの狂宴〜闇に光を、君に祈りを〜  作者: 赤井"CRUX"錠之介


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来訪者と、殺人者

 ある日、奇妙な出来事が白戸市を襲う。

 街の空が、突然に赤く染まったのだ。とても不思議な光景に、人々は思わず見とれていた。まるで、世界が終わるかのような錯覚すら感じさせた。

 続いて流れていったのは、光る球体……そう、隕石である。人々は、思わず息を飲んだ。SF映画のワンシーンが、現実に現れたかのようであった。

 ある女子高生は、空の風景と共に自撮りした画像で数万単位のインプレッションを叩き出したという。

 かと思うと、ある引きこもり男性は「これは宇宙人の襲来だ!」などと騒ぎ、十年ぶりに外に出たという。


 隕石は、根津湖(ねづこ)に落ちる。この湖は田火山(たかざん)という山の中にあり、付近には人が住んでおらず広い森林が広がっている。月の輪熊や猪なども出るため、簡単に近づける場所ではなかった。

 天文学者によれば、この隕石の大きさはサッカーボール程度だという。したがって、被害と呼べるようなものはなかった。マスコミも飛びつかず大した話題にはならなかったし、今すぐ調査しようという者もいなかった。

 



 ほんの数日ほどしか話題にならず、その後すぐに忘れ去られてしまった隕石だったが……実は、とんでもない物が付着していたのだ。

 最初、それは白い石にしか見えなかった。だが、その翌日に中から奇妙な生物が出てきた。二本の腕と二本の足を持ち、虫ほどの大きさである。


 宇宙生物は、わずかな時間で大きくなっていった。地球の環境が、この生物の性質に合っていたのだろうか。十日ほどで、体長は百三十センチほどにまで成長した。人間の幼児くらいの大きさだ。

 湖の生態ピラミッドでは、上位に入っている。腕力は異様に強く、体は硬い鱗で覆われていた。知能も高く、学習能力も高い。

 単に生きていくだけならば、水中だけで充分だっただろう。餌は豊富だし、何より天敵になるようなものが存在しない。湖では、思うがままに生きられた。


 宇宙生物にとって、上の世界は未知の場所であった。いつも下から見ていて、射してくる光が綺麗だと感じていた。しかし、行ったことはない。行きたいとも思っていなかった。

 ところが、ある日を境に状況は変わる──


(あなたは、だれ?)


 不意に聞こえてきた音に、宇宙生物は仰天した。あちこち見回したが、見えるものは水と泥と魚である。

 どれも、今のような音を出したりはしない。では、何者が出した音なのか。

 その時、またしても聞こえてきた──


(わたしは、あさだれな。あなたは?)


 他の音とは違い、頭の中に直接聞こえてくる……そんな奇怪な音だ。自分に、何か伝えようとしていることだけはわかった。言葉の意味は、なんとなく感じ取れる。とりあえず敵意はなさそうだ。

 宇宙生物は、他の生き物とコミュニケーションをとったことがない。彼にとって、全ての生き物は敵か食料か、でしかないのだ。しかし、音の主はどちらでもなさそうだ。では、どうすればいいのだろう。

 しばらくすると、また音が聞こえてきた。


(わたしとは、はなしをしたくないのね。わかった。もう、はなしかけない)


 その音には、ある感情が潜んでいるのがわかった。

 嫌な思いをさせてしまったらしい。それに、この不思議な音は嫌いではなかった。もっと聞きたい。

 宇宙生物は、心の中で答えてみる。


(チガウ オレ ハナシ ワカラナイ シタコトナイ デモ ハナシ シタイ)


 ややあって、返事がきた。


(わかった。おしえてあげる)




 隕石と共に飛来し、湖で孤独に暮らしていた宇宙生物。これまで、他の生き物と遭ったら殺すか食うか、だった。

 しかし今、初めて他者とコミュニケーションをとったのである。彼にとって、これは大きな一歩であった。


 ・・・


 宇宙生物が第一歩を踏み出していた頃、白戸市の外れにも、己の計画の第一歩を踏み出した者がいた。


「ほ、ほら……お前の言う通りにしたよ! 山猫亭っていうレストランは、ちゃんと俺が買い取った! もう、ここまでにしてくれ! 俺だって、世間で言われてるほど稼いでるわけじゃないんだ!」


 野々村(ノノムラ)裕司(ユウジ)は、震える声で懇願した。

 この男は青年実業家であり、世間ではかなり有名である。高校時代から動画で注目され、卒業と同時に会社を設立した。現在は動画チャンネルや若者向け投資アプリなどを運営し、SNSではカリスマ的人気を誇る。

 自身の会社以外にも経営している店舗が三軒あり、それら全てが黒字だ。

 二十三歳にして、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのシンデレラボーイであった。最近では、若きイケメンカリスマ社長としてテレビの対談番組にも出演している。


 そんな野々村だが、今は何とも情けない姿であった。

 彼がいるのは、薄暗いコンクリートの壁に囲まれた部屋だ。パイプ椅子に座っているが、両手両足、さらに胴体までダクトテープがきつく巻かれている。動くことなど出来ない状態だ。

 顔は涙と鼻水で汚れ、髪はくしゃくしゃだ。ブランド物のスーツも汚れている。ズボンの股のあたりには大きな染みが広がっている。

 テレビやネットなどでは、爽やかな好青年の印象が強い野々村。しかし、今は全く違う人間にしか見えなかった。




 二日前、彼は仲間と集まり大量の酒を飲んでいた。話題はというと、過去のヤンチャ話である。


「昔はさ、俺も超トンガっててよ、無茶苦茶やってたぜ。あっ、そういやクラスにひとり気持ち悪い奴がいたんだ。顔に火傷痕があって、何やってもヘラヘラしてて超キモい奴。俺さ、そいつを徹底的にイジメてやったよ」


 そんな話を自慢げにした後、夜中の三時に家へ帰った。酒気帯び運転だったが、運良く(あるいは運悪くと言うべきか)警察の取り締まりには遭わなかった。

 家の近くに到着し車を駐車場に停め、家に向かい歩きだす。

 その瞬間、背後から襲われたのだ。首に、細い紐のようなものが巻きつき、きつく絞め上げる。抵抗したが無駄だった。

 気づいた時には遅く、野々村は絞め落とされていた。


 気がつくと、野々村は見知らぬ場所にいた。灰色のコンクリートの壁に覆われた狭い部屋だ。窓はなく、天井も低い。異様なくらい静かで、周囲から音はいっさい聞こえてこない。ただ、鉄製の古びたドアがあるだけだ。

 そんな部屋で、野々村はパイプ椅子に座らせられていた。両手と両足をダクトテープで縛られ、身動き出来ない状態である。




 そんな野々村の前にいるのは、紙袋を被り顔を隠している者だ。黒いジャージの上下を着ており、立ったまま野々村を見下ろしている。

 身長は、さほど高くない。せいぜい百七十センチから百七十五センチ程度であろう。だが、逞しい肉体の持ち主であることは、ジャージ越しにも明らかであった。肩幅は広く、胸板も厚い。


「まだだよ。あとひとつ、頼みたいことがある。そしたら、自由にしてやるよ」


 紙袋の男が言うと、野々村は縋るような顔で叫ぶ。


「な、なんだ!? 何でもするから、早く帰らせてくれ!」


「お前が、同級生の加藤(カトウ)亜嵐(アラン)くんをイジメていた時の話を聞かせて欲しいんだ。出来るだけ詳しくね」


 途端に、野々村の表情が変わった。目があちこち動かしながら答える。


「お、俺はそんな奴知らない」


「そうか。知らないのか。君は加藤くんと初めて会った時に言ったそうじゃないか。見ろよ、この(つら)! 亜嵐て顔じゃねえよ! やっぱり、キラキラネームは付けるもんじゃねえな……とね」


「あ、あんた加藤の友だちなのか……」


 呆然となり、呟くように言った。が、そこで閃く。

 野々村は、ようやく状況を理解した。この男が、加藤亜嵐なのではないか?


「お、お前、加藤か!?」

 

 言われた男は、被っていた紙袋を取り去る。

 異様な顔だった。火傷の痕が、顔の半分近くを覆っている。そこは中学生の時と変わっていない。

 だが、それ以外は完全に別人だった。髪は短い五輪刈りで、目つきは鋭く強い意志の持ち主であることを感じさせる。

 彫りが深く整った顔立ちの名残りはあるものの、その鋭い眼光と相まって、全体の印象は人というより獣に近い。それも、人を食う野獣だ。

 不良少年の外見を「ワイルド」などと評したりする。だが加藤は、ワイルドなどという表現を完全に超越した風貌であった。


「やっと気づいてくれたんだね。もう遅すぎ。若きイケメンカリスマ社長なんでしょ? もうちょい早く気づいてくれなきゃ」


 加藤は、恐ろしい顔立ちに似合わぬ軽い口調で言った。さらに、クスリと笑う。

 だが、その笑みは一瞬で消えた。


「さて……野々村裕司くん、中学生時代の君は俺に会う度に殴ってたね。初めは殴る蹴る止まりだったけどさ、だんだんエスカレートしていったよね」


「待ってくれよ! 確かに、俺はお前を……その、イジメてたよ! でも、俺よりひどいことしてた奴もいただろ! なんで俺だけが──」


 言葉は、途中で悲鳴へと変わる。足に激痛が走ったのだ。見れば、加藤の持つアイスピックが、野々村の太ももに刺さっている。

 取り出す瞬間も、いつ刺したのかも見えなかった。


「普通さあ、まず謝らないかな?」


 冷静な問いかけだった。だが、その冷静さが恐怖心を煽るのだ。

 野々村は、涙を流し叫ぶ。


「お、お願いです! ごめんなさい! 許してください! 何でもします! 金なら幾らでも──」


「さっき、俺は世間で言われてるほど稼いでないって言わなかったっけ? 幾らでもって嘘だよね?」


 直後、またしてもアイスピックが刺さる。次は別の位置だ。

 野々村は、またしても叫ぶ── 


「ちなみにさ、俺も君らにアイスピックで刺されたよ。わけのわからないクイズ出されて、不正解だと足を刺される。正解しても、ここは間違うとこだろ。空気読めよ……なんて言われて足を刺される。一日に十回以上刺されたこともあったよね。俺を傷つけて、そんなに楽しかった?」


 加藤の問いに、野々村は涙と鼻水を垂らしながら懇願する。


「お願いでず……もうゆるじでぐだざい……」


「俺も、君らにそう懇願した記憶があるよ。でも、君らは許してくれなかったね」


「わかりました! 言う通りにします!」


「じゃあさ、そこのカメラの前で告白しなよ」




 カメラを向けられた野々村は、震えながら語りだした。


「わ、私は野々村裕司です。私は中学時代、クラスメートの加藤亜嵐くんをイジメていました。会う度に殴ったり……」


 そこで言いよどんだ。彼に残された理性が、これを言ってしまったら終わりだと言っている。

 もし、この動画が拡散されたら……何が待っているか、容易に想像はつく。今の時代、イジメの加害者だったという事実は炎上のネタになるのだ。

 なんとか、交渉できないものか……と思った瞬間、またしても足に激痛が走る。

 横から、加藤にアイスピックで刺されたのだ──


 野々村の心は、痛みの前に完全に折れてしまった。後に何があるかなど、どうでもいい。この痛みから解放されるなら、何でもやる。


「会う度に、殴ったり蹴ったりしました! カバンの中に給食の残飯を詰めて、帰りにゴミと混ぜて食べさせました! それから……」


 野々村は、泣きながらカンペを読み終えた。すると、加藤は微笑む。


「はい、良く出来ました」


 言った直後、カメラを止めた。

 ニヤリと笑い、こちらに近づいて来る。手にはアイスピックが握られており、目には冷ややかな殺意がある。

 野々村は、これから何をされるのか気づいた。もがきながら叫ぶ。


「そ、そんなぁ! 読んだら自由にしてくれるって──」


「だから、痛みから自由にしてあげるんだよ。死ねば、もう痛くないだろ。安心しな、一発で殺してやる」




 翌日、三十人の自宅に封書が届く。差出人は野々村裕司となっていた。

 内容は、こんなものである。


 武田中学校でかつて一年C組だった皆さん、近況報告や情報交換などを兼ねた同窓会を開くことにしました。期日は九月一日を予定しておりますが、詳しいことがわかったら、また連絡します。

 なお、出席いただければ、耳寄りな情報を多数お教えします。この会は、ウチの新しい商品やイベントの宣伝も兼ねているため会費は無料です。またプレゼントや賞品つきゲーム大会、あっと驚くサプライズもご用意しております。

 ひとりでも多くの方の参加、お待ちしております! 


 そして同窓会予定日、二十人の卒業生が参加した。


 



 




 

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