告白と白いハト再び
クラウスさんに手を引かれ、人気のない通りに着く。
辺りに人がいないのを確認し、クラウスさんはようやく立ち止まった。
「ごめんね、君にまで嫌な思いをさせて」
なぜか申し訳なさそうに謝ってきた。
「何でクラウスさんが謝るんです! 失礼なのはあの人たちじゃないですか! いきなりあんなひどいことを言うなんて」
こっちが何かしたわけでもないのに。
どうして自分が悪いみたいな顔をしているのかしら。
苛立ちを隠せずにいると、クラウスさんにそっと頭を撫でられた。
「怒ってくれてありがとう。でもね⋯⋯あの人たちも悪気はないんだよ」
「悪気がなければ何してもいいんですか!」
「初めて会った日に言ったろう。魔法使いへの世間の目なんてあんなものだよ」
その言葉にはっとする。
舞踏会の日の夜、クラウスさんが言っていた言葉を思い出す。
『そもそも、魔法使いなんて世間じゃ胡散臭い連中だと思われているんだよ——』
あの時は軽い気持ちで聞き流していた。
現実を知らなかったから。いや、知ろうとすらしていなかった。
この人は、今までもあんな冷たい扱いを受けてきたんだろうか。
「⋯⋯ごめんなさい」
「いや、ヘレンが謝ることじゃ——な、なんで泣いているの!」
視界が滲み、ぽろぽろと涙がこぼれる。
クラウスさんが慌てて涙を拭ってくれるが、次々に溢れてきて止まりそうになかった。
「あなたのこと、なんにも⋯⋯分かって、ませんでした⋯⋯」
「それは仕方ないよ。君は世間のことを知らずに育ったんだし」
クラウスさんの様子からして、きっとあんな言葉や態度で傷つけられたのは一度や二度じゃないはずだ。
それなのに、全くそんな素振りを見せずに私を気遣ってくれていたのだ。
(これ以上、この人の厚意に甘えるわけにはいかない)
涙で濡れた顔を上げる。
「クラウスさん、今から舞踏会へ行きましょう」
「なっ、どうして⋯⋯!」
クラウスさんが驚いて目を見開く。
「舞踏会の件は、私のために無理して王子と交渉してくれたんでしょう。きっと王子から、少なからず不満を買ったんじゃないですか」
舞踏会に夜中の十時に出席なんて。
あの王子が、あっさり応じたとは思えない。
きっと相当無茶な交渉をしたに違いないわ。
「大したことではないよ。ヘレンが気にすることじゃない」
「いいえ。クラウスさんにばかり負担は掛けられません。私もあなたの力になりたいんです。なので遠慮なんかせず——」
「駄目だ!」
突然クラウスさんが厳しい声を上げる。
普段の彼からは想像できない様子に、言葉が途切れた。
「クラウスさん⋯⋯?」
「あの王子は君に執着している。舞踏会で長い時間一緒にいたら、何をしてくるか分からないんだぞ。ただでさえ、女好きで節操がなくて何人もの女性と並行して付き合うようなクズで、顔とツッコミが鋭いこと以外は取り柄がない男なのに!」
クラウスさんにしては珍しい悪口のオンパレードだ。
王子の取り柄が顔というのは分かるけど、もう一つは何のことか分からなかった。まあいいか。
「でも、クラウスさんにだけ負担をかけるわけにはいきません」
「僕のことはいいから。君は自分のことだけ考えなさい」
「それは嫌です! 私のせいでクラウスさんに何かあったら困ります!」
「いい加減、聞き分けなさい。君はまだ若いんだから、僕みたいな男より、もっと他に相応しい人と——」
さすがにカチンときた。
それが相手を思っての言葉だと思っているなら大間違いだ。
クラウスさんの顔を両手で挟み、自分の方へ引き寄せる。
「ヘレン? 何を————っ!!」
そのまま唇を重ねた。
驚いて固まったクラウスさんから、そっと唇を離す。
「な⋯⋯にをして⋯⋯!」
狼狽した様子のクラウスさんを、じっと見つめる。
「相手のことを思うなら、自分がいなくなった後にどれだけ悲しむかも考えてください。それをしないのは、相手の気持ちを軽んじていることと同じです」
「ヘレン⋯⋯」
「私はクラウスさんに生きていてほしいんです。あなたのことが好きだから、いなくなったら辛いし悲しいです。いつかあなたのお嫁さんにしてもらえるように、これからたくさん頑張ります。だから、生きててくれないと困ります」
クラウスさんの目をまっすぐ見つめて言う。
正直に言って、面と向かってこんな台詞を言うのは死ぬほど恥ずかしい。
なけなしの勇気と勢いに任せて言ったので、今にも顔から火が出そうだ。
クラウスさんは驚いた顔で再び固まり、やがて頭を抱えるように顔を手で覆った。
(怒らせてしまったかしら⋯⋯)
一瞬不安になったけれど。
「⋯⋯少し、時間をくれないか」
初めて流さずに答えてくれたことに、少し驚く。
それが嬉しくて、私は笑顔で頷いた。
「分かりました。待っているので、返事を聞かせてくださいね」
「ああ⋯⋯分かった」
そう言ったクラウスさんは、耳まで真っ赤になっていた。
自分のとった行動を思い出し、私までつられて頬が熱くなる。
「あのー⋯⋯もう終わりましたかね?」
そこへ、奇妙な声と共に——再びあの白いハトが目の前に現れたのだった。




