初めてのデート(?)にて⋯
滅多に家から出られなかった私にとって、町の景色はどれも新鮮だった。
お洒落な喫茶店やブティック、屋台や行商の店もいくつか出ていて、珍しい商品もあちこちで売っている。
特に興味を引かれたのは、屋台で売っている色んな食べ物だった。
前世のお祭りを思い出して、何だか懐かしい気持ちになる。
串焼きやパイなどの香ばしい香りが鼻腔をくすぐり、無性に食欲がそそられた。
「お昼は何が食べたい?」
「えーとですね⋯⋯あっ! クラウスさん、甘い物はお好きですか?」
「割と好きな方だよ。甘すぎるのはちょっと苦手だけど」
「そうですか! じゃあ、あの林檎とかぼちゃのパイをシェアしませんか?」
私が指差した先には、パイを販売している屋台があった。
焼き立ての林檎パイとかぼちゃパイのいい匂いが漂ってくる。
隣りにあるミートパイやチーズパイも美味しそうだけど、今は甘い物を食べたい気分だ。
他にもラズベリーや苺のパイなども目に付き、つい興味が移りそうになる。
(ああ、どうしよう⋯⋯。近くで見ると、どれも美味しそう)
もどかしい気持ちでパイを見つめていると、隣でクラウスさんが軽く吹き出した。
見ると、顔を逸らして肩を震わせている。
「クラウスさん?」
「いや、ごめん。食べ物を見ている時の目がすごく真剣で、微笑ましかったものだから」
「〜〜〜っ!」
思わずカアッと顔が熱くなる。
「ち、違いますよ! 私は別に、食い意地が張っているとかじゃありませんから!」
慌てて弁明すると、クラウスさんが笑いながら私の頭に手を置いた。
「分かってる、分かってる。えっと、林檎とかぼちゃのパイだったね」
「ううっ⋯⋯」
完全に子供扱いされているわ。
クラウスさんにパイを買ってもらい、広場のベンチに並んで腰掛ける。
包みを開けた瞬間、ふわりとパイの甘い香りが漂った。
二種類のパイをクラウスさんと半分ずつ分ける。
かぼちゃの方は膝の上に置き、まずは林檎のパイを一口かじった。
「⋯⋯美味しい!」
パイ生地がサクサクで香ばしい。
口に入れた瞬間、林檎の程よい酸味と甘味が広がった。
「初めて食べたけど美味しいね、これ」
クラウスさんも気に入ったみたいだ。
パイを片手に美味しそうに食べている。
その姿をつい横目でじっと観察してしまう。
(私服姿だー! 格好いい、眼福!)
クラウスさんも、さすがに町中で黒いローブは着ていない。
今日は白いシャツにジャケット、ズボンというシンプルな格好だ。
元が格好いいので、今のような服装の方が似合っている。
背もたれに片肘を掛けて、軽く足を組んで座っている姿が絵になる。
そしてパイを美味しそうに食べている姿が可愛い。
つい見入っていたら、視線に気付いたクラウスさんと目が合った。
「⋯⋯ん? どうかした?」
「な、何でもありません! 気にしないでください!」
あたふたした拍子に、膝に置いていたパイが落ちそうになる。
「あっ⋯⋯!」
しまった、と思った瞬間。
クラウスさんが指先を軽く動かし、その動きに合わせたように落ちかけたパイが宙に浮いた。そのまま私の膝の上にゆっくり戻る。
「次は落とさないように気を付けてね」
「あ、はい。ありが——」
お礼を言おうとした時。
近くで「ひっ⋯⋯」と引き攣ったような声がする。
声のした方を見ると、恋人同士らしき若い男女が、青褪めた顔でこちらを凝視していた。
「い、今、物が浮いたわよ⋯⋯」
「あれって⋯⋯魔法じゃないのか」
どうやら、さっきクラウスさんがパイを浮かせたのを見ていたらしい。
驚くのは分かるけど、そんなお化けでも見たような顔をしなくても。
男女二人の反応に戸惑い、クラウスさんの方を見ると。
——さっきまで穏やかだった表情に影が差していた。
「⋯⋯クラウスさん?」
「ヘレン、場所を移そう」
「え?」
クラウスさんに手を引かれ、ベンチを立つ。
一体どうしたのかと尋ねようとした時⋯⋯。
「気持ち悪い⋯⋯!」
「早くどっか行けよ!」
(なっ⋯⋯!)
男女二人の言葉に、カッとなり声を上げそうになった。
「ヘレン、いいから放っておきなさい」
「でも⋯⋯!」
反論しようとしたら、クラウスさんがこちらをじっと見た。
表情は穏やかなのに、どこか有無を言わせぬ雰囲気に何も言えなくなる。
私は納得できないまま、その場を立ち去ったのだった——。




