デート(?)の約束
長い階段を駆け下り、城の扉から城外へ飛び出す。
城から少し離れた所に、特徴的な白と緑の縦長の馬車が見えた。
不思議だ。今はあの奇天烈な馬車に、実家のような安心感さえ抱いてしまう。
「クラウスさん、戻りました!」
「いや、早すぎるでしょ!」
馬車から顔を出したクラウスさんに突っ込まれた。
十二時の鐘が鳴るまで、まだ三時間くらい猶予がある。
おとぎ話のシンデレラはすごいな。
十二時ギリギリまで舞踏会を楽しんだっていうのだから。
私は馬車に乗り込み、クラウスさんの隣に腰掛けた。
そして頭を下げてお願いする。
「どうか私を労ってください!」
「そんなに疲れたの!?」
「明日の夜も舞踏会に行くんですよね。あの第二王子にまた会うと思うと、心が死にそうです。クラウスさんに頭を撫でてもらえたら元気が出ます」
「そんなに辛いことが⋯⋯。この一時間の間に何があったの?」
言いながら、クラウスさんがそっと頭を撫でてくれた。
ああ、癒やされる⋯⋯。
「話を聞くくらいしかできないけど、何があったか言ってごらん」
「王子様からダンスに誘われました。踊れないって言ったのに、『私がエスコートしますから』て言って強引に誘われて。まあ確かにリードはしてくれましたけど」
「そっか。それならよかっ——」
「ターンもステップも、終始自分のペースで私を引っ張り回してくれました。リードで引っ張られる犬の気分を味わいました」
「ダンスのリードってそういう意味じゃないからね!」
「髪や肩に触れてくるセクハラ行為にも耐えました。相手が権力者である王族だから拒否れないのを、本人は『自分に魅力があるから女性は拒否らないんだ』と勘違いしているようでした」
思い出したら体がガタガタ震えてきた。
社交界怖い。女の嫉妬怖い。セクハラ王子怖い⋯⋯。
顔が青くなって震える私の頭を、クラウスさんが必死に撫でてくれる。
「よく頑張った! 明日のお昼何か奢るから、元気出して」
ピクッと反応し、顔を上げる。
「本当ですか! デートしてくれるんですか!」
「一瞬で立ち直ったな!」
そこへ馬車の窓をコンコンと叩く音がする。
見ると、一羽のハトが窓の外からこちらを覗いていた。
あれはもしや、私を義姉たちから助けてくれた白いハト!
「なっ⋯⋯家で大人しくしてるよう言ったのに!」
クラウスさんが馬車の扉を開ける。
ハトは馬車の中に飛んでくると、クラウスさんの肩に止まった。
「このハト、クラウスさんが飼っているペットですか?」
「飼っているといより、保護しているというか⋯⋯まあ、僕が面倒を見ているハトだよ」
なんだかクラウスさんの歯切れが悪い。
そう言えば、家でハトの世話をしているって言っていたのを思い出す。
『僕が死んだら、うちで世話しているハトの面倒を誰が見るのかっていう——』
クラウスさんが心配していたハトってこの子か。
随分と彼に懐いているようで、全く警戒した様子がない。
ハトが私の方へ目を向けた。
「さっきは助けてくれてありがとうね」
王宮で王子と義姉たちから助けてもらったお礼を言う。
クラウスさんが怪訝そうな顔をする横で、ハトが小さく頷いたように見えた。




