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去る時は疾風の如く

ダンスに応じてすぐ、私は後悔した。

この王子様は、私が踊れないのを分かっていながら、わざとか? と思う頻度で難しいステップやターンを入れてくるのだ。

おかげで、私は終始ハラハラドキドキ(※ときめきではない)しながら踊る羽目になった。


「——ひいっ!」

「大丈夫ですよ。私に身を委ねてください。リードしてあげますから」


何度か体勢を崩しそうになる度に、腰をぐっと引き寄せられて体を密着させられる。

その度に美形の顔が間近に迫るが、極度の緊張状態のせいでときめく余裕などない。


「もう少しこちらへ身を寄せてください」

「そろそろ休憩しませんか!」

「あははは。まだ始まったばかりじゃないですか」


この王子様、人の話を聞かないー!

前世で友達と遊園地へ遊びに行った時、「一回でいいから」と言われて渋々ジェットコースターに乗った時のことを思い出す。

乗ってから死ぬほど後悔した。乗ってしまったらもう降りられないのだ。

私は絶叫マシーンに乗っているような緊張状態の中、涙目で必死にダンスをやりきったのだった。


——長かったダンスからようやく解放され、ぐったりしていると。



「テラスに出て、二人きりで話しませんか?」


にこにこ顔の王子を見て思った。

どうせ断っても押し切られる。なので仕方なく応じる。


「ひと目見た時から、美しいと思っていました」

「ありがとうございます(棒読み)」

「そのガラスの靴、美しいあなたによく似合っていますね」

「光栄ですわ(棒読み)」


やっぱりガラスの靴に気付いていたか。

と言うか、クラウスさんは王子の命令で私を迎えに来たんだものね。

そりゃあ、王子が私のことを把握していないはずがないか。

つまり最初から、王子にロックオンされていたらしい。


「その薄桃色の髪も柔らかで素敵な色ですね。つい触れてしまいたくなります」


いや、言いながらもう触ってるじゃん。

くっそう、王子が相手だから拒否ると後が怖い。

髪を指で梳かれ、背筋がぞわりとする。

全く好きではない異性からこんなことをされても嬉しくないんですよ。


「おや、顔色が悪いような。夜風が冷えましたか? もう少しこちらへ」

「いえ、大丈夫です!」


君が髪を不躾に触ってきているからだ!

肩を抱き寄せようとするのもやめい。それは恋人同士でやりたまえ。


「遠慮せずに、どうぞこちらへ」

「いいえ、全くこれっぽっちも寒くありませんので大丈夫です! どうぞお気になさらず!」


相手が嫌がっているという発想がないらしい。

美形な王子様だから、今まで女性に本気で嫌がられた経験がないのかしら。


私の肩を笑顔で抱き寄せようとする王子。

テラスの手すりをがしっと掴み、抱き寄せられぬよう踏ん張る私。

はたから見れば、笑顔で向き合う男女に見えるだろう。

だが実際は、笑顔で一歩も引かずに攻防している男女である。

引き寄せる力(エリック王子)と反発する力(私)で、互いの腕がぷるぷる震えていた。


(⋯⋯まずい、そろそろ腕が限界に近い)


そう思った時だった。


——テラスのガラス戸がばんっと開け放たれた。


「殿下、わたくしたちと踊ってくださるという約束は!」

「あたしたちずっと、言われた場所で待っていましたのよ!」


ミランダとセシリアがテラスに乗り込んできた。


「ああ、えーと⋯⋯すまない。少々用事が立て込んでしまってね。今から行こうと思っていたんだよ」


王子が慌てた様子で弁明しだす。


(そういえば、さっきあの二人と何か話していたけれど⋯⋯)


会話の内容から察するに、王子は二人と踊る約束を交わしていたらしい。

二人は約束の場所で待っていたが、待てども来ない王子に痺れを切らして乗り込んできたようだ。

つまり、体よく追い払って放置していたと。

この王子様、なかなかのクズのようだ。


そんなことを思っていたら、なぜか義姉二人が私をぎろっと睨みつけてきた。


「さては、あなたが殿下を誑かしたのね!」

「人のダンスのパートナーを誘惑するなんて、恥を知りなさいよ!」


いや、何でそうなるのよ!

理不尽だ。絡んできたのそっちの王子なのに!


ずかずかと詰め寄ってくる義姉二人に、「まずい、このままだと正体がばれる」と焦った時。

頭上からバザバサッと羽音が聞こえた。


一羽の白いハトが飛んでくる。

ハトはそのまま、義姉二人の目の前を飛び回り始めた。


「きゃあっ!」

「何よこのハト!」

「いててて! おい、何で私だけつつくんだ!」


義姉二人がハトに翻弄されて悲鳴を上げている。

ハトはなぜか恨みでもあるように、合間に王子の頭をつついている。

よく分からない状況だけれど。

チャンスだ、今のうちに退散しよう。


「私はこれで失礼します。あとは三人でごゆっくりどうぞ」


テラスを去ろうとした時。

ハトにつつかれている王子が慌てて呼び止めた。


「ま、待って、君の名は⋯⋯」


私は一瞬立ち止まり、王子を振り返る。


「ジェーン・ドゥです」

「それ名無しの権兵衛じゃねぇか!」


何で異世界の王子がそんなこと知ってるのよ?

王子のツッコミがちょっと気になったが。


私は疾風の如き早さで、会場を走り去ったのだった。

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