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断罪の終わりとハトの下した決断

ツッコミどころしかなかった、ゲームの強制力からの手紙。


エリック王子のクロード暗殺未遂事件を機に、白菜の馬車から連鎖的に起こった問題。

それらを解決するため、ゲームの強制力たちは「世界をギャグでカオスなコメディに作り変える」と決めたらしい。


いや、意味が分からない!

事件の発端は暗殺未遂だったはずなのに、なんでそこから白菜とコメディと世界崩壊の話に飛躍していくのよ。


ハトもゲームの強制力と繋がりがあったようだし。

後で色々と問い詰めてやりたいところだけど、その前に⋯⋯。


長引いたエリック王子の尋問も、ようやく進もうとしていた。


「さてエリックよ。色々あって儂も何の尋問だったか忘れそうなので、早々に進めるとしよう」


本当に色々ありすぎた。


クロード暗殺未遂の件でエリック王子を捕らえたと思ったら、城への業務妨害についての尋問だったというフェイント。


そしてクロードの挑発でエリック王子が逆上し、襲いかかるというハプニング。

——からの謎の黒衣のちびキャラが、エリック王子を超巨大ハリセンでぶっ叩いて退場していった。


エリック王子が目覚め、ようやく尋問が再開されるかと思った矢先。

ゲームの強制力からの手紙によって、この世界の舞台裏が明かされるという、まさかの事態が起きた。


そろそろ頭がパンクしそうなので、今回で断罪終了まで行って欲しい。


「主にクロードに引っ掻き回されたのと、さっきの手紙のせいで時間を取られたせいな気がするんだけど⋯⋯」


不満をこぼすエリック王子に、国王の顔が一気に険しくなった。


「言い訳をするでないわ! 尋問中の反抗的な態度に加え、王太子クロードへの傷害未遂。おまえが王族であろうと、許されることではないぞ!」


国王の厳しい声が響いた。

そこに親としての甘さは一切感じられず、誰もが緊張に身を強張らせる。

反抗的だったエリック王子でさえ口を閉じた。


「尋問再開の前に、クロードへ危害を加えようとした件について処分を言い渡す。エリックよ、おまえの王位継承権を剥奪する」


玉座の間がざわめく。

私やクラウスさんも驚きを隠せなかった。

ハトまで口をぱかっと開けて驚いた顔で国王を見ている。


「待ってくれ! あれはクロードが俺を挑発したことが原因だろう! なんで俺が王位継承権を取り上げられるんだよ!」


エリック王子が真っ青になって叫んだ。


「おまえは何を言っておる」

「何って、だからクロードが⋯⋯」


なおも言い募ろうとするエリック王子に、国王は失望したように息を吐いた。


「クロードは、城への業務妨害の罪でおまえを捕まえさせた。だが、おまえはクロード暗殺未遂の件で捕まったと勘違いしていた。だからクロードはまず、おまえの誤解を解いただけじゃろう」


——おまえを、業務妨害罪で捕まえさせてもらった。


あれには味方の私たちも騙された。

エリック王子を擁護するわけではないけど、あれは勘違いするって。

後でハトにはお説教だ。


「俺が怒ったのはその後の会話なんだけど。クロードが俺の悲願だったハーレム計画をパアにしたからついカッとなって⋯⋯」

「そういえば、ハーレムがどうのという話をしとったな。会話の内容がさっぱり分からんかったから、兵士たちと『最近の若者の話は分からんのう』と話しておった」


転生者同士にしか分からない話をガッツリしていたものね。

国王や臣下たちは置いてけぼり状態だったのだろう。


「なんで尋問中に世間話しているんだよ! あんたは一番サボったら駄目な立場だろ!」


エリック王子の抗議を、国王は厳しい言葉ではねつける。


「やかましい! おまえはなぜ人にツッコむ時だけまともなことを言うんじゃ。普段からツッコミ役に徹しておれば、まともなことしか言わない人間になれたというのに」

「とーちゃんの言う通りだぞ。但し、さっき俺にやったような物理的に突っ込んでくるのはなしでよろしく」


ハトも会話に加わり、いよいよエリック王子は頭を抱えた。

そして、観念したように叫ぶ。


「チクショー! もう分かったよ、ちゃんと答えればいいんだろ。だから早く、このふざけた尋問から俺を解放してくれぇぇ!」


ツッコみに疲れて、尋問に答えた方がマシだと思ったらしい。

以前、ハトが言っていた言葉が脳裏を過ぎった。


『この世界ではな、ふざけた奴が強いんだ』


目の前の光景を見て、少しだけその意味が分かった気がした。

まさか、おふざけで相手の心を折るとは⋯⋯。


そして——。


「まずは城への業務妨害——国中の女性にガラスの靴を履かせるなどという鬼畜労働について。エリックよ、なぜあんな非常識極まりない命令を出した」


先ほどとは打って変わり、真面目モードになる国王。


「城の業務を妨害するつもりなんてなかったんだよ。ヘレンちゃんを探し出して、正妃として迎えようとしただけで⋯⋯」


大人しく尋問に答えるエリック王子。

もうツッコミ役に戻りたくないのだろう。

最初からそうしておけば、もっと早く終わったでしょうに。


「ヘレン? あのお嬢さんはクラウスの婚約者であろう。まさかおまえは、人の婚約者を奪おうとしておったのか」


眉をひそめる国王に、エリック王子は慌てて弁明する。


「ち、違う! クラウスの婚約者だなんて知らなかったんだ!」

「ではヘレン嬢に婚約者がいるのかを、きちんと確認もせずに娶ろうとしたのじゃな。その結果『ヘレンの大群』が結婚式場へ殺到したと⋯⋯」


どういう状況よ!

間違っていないけど、色々端折りすぎでしょう。

国王⋯⋯説明が面倒だからって、詳しい経緯をまるっと省略したわね。


「では、次。先ほどクロードへ襲いかかったのは、ハーレム計画とやらを邪魔された腹いせからか?」

「ああ、そうだよ。女の子たち全員の好感度を上げるのはスゲー大変だったのに。その苦労が水の泡になって、カッとなっちまって」


その努力と情熱を、もっと別のことに活かせばいいのに⋯⋯。

いや、それが出来ていればこうはなっていないか。


ハーレム計画どころか、彼は個人資産も王位継承権も失った。

そして——ある能力も。


「おまえの花嫁になるはずだった令嬢たちじゃがな、次々に辞退を申し出てきたぞ」


国王の言葉に、エリック王子は驚いて目を瞠った。


「なん、だと⋯⋯」

「おまえが気を失っている間に、ほとんどの者が『エリック殿下を理想の王子様だと思えなくなりました』と言って帰ってしまった」

「——っ!」


エリック王子はこの世の終わりみたいな顔をした。

王位継承権の剥奪を言い渡された時よりも、ショックが大きいように見える。


彼の転生ボーナス——女性に自分を理想の王子様だと認識させる能力。

ゲームの強制力の怒りを買ったことにより、その能力は失われたらしい。

彼に残されたのは、多額の請求書の支払いだけだ。


「最後に、クロード暗殺未遂についてじゃ。これもおまえの仕業か、エリック」


国王の問いにエリック王子はハッと我に返る。

慌てて何かを言おうとして⋯⋯諦めたように力なく頷いた。


「そうだよ、俺がやった。もう好きに処分してくれよ」


あっさりと罪を認めたエリック王子。

国王とハトは一瞬目を瞠る。

私とクラウスさんも、困惑してその様子をじっと見つめた。


最初に見せていた、あの反抗的な態度はなんだったのかしら。

それに、さっき何か言いかけていたような⋯⋯。


微かな疑問は残ったが、エリック王子が罪を認めたことにより、長かった尋問は終わりを迎えた。


最後に、国王がエリック王子へ処分を言い渡す。


「王太子の命を狙うなど、たとえ未遂であっても重罪じゃ。本来なら死罪を言い渡すところじゃが」


エリック王子の肩がわずかに揺れる。

国王は言葉を切り、隣の椅子に座るハト(の姿をしたクロード)を見た。


「おまえが決めよ、クロード。次期国王として、おまえが正しいと思う決断を下すがよい」


ハトは黙って国王と、エリック王子を交互に見る。


「分かった。但し、俺が決めたことには誰も反対するんじゃないぞ」


ハトが玉座の間を見渡して言う。

皆が一斉に頷いた。

それを確認すると、ハトは椅子から飛び立った。


そしてエリック王子の目の前に下りて、じっと彼を見上げる。


「最後に、何か言いたいことはあるか?」

「ねえよ。俺にはもう何も残っていない。おまえもこれで満足だろう?」


自嘲するように笑うエリック王子に、ハトはやれやれとため息をついた。

そしてエリック王子の後ろを羽で指し示す。


「おまえの目は節穴かよ。全てをなくしたのなら、なんであの二人は残っているんだ?」

「え⋯⋯」


驚いてエリック王子が振り返った先には——ミランダとセシリアが立っていた。

あの二人、まだ残っていたのね。

エリック王子の転生ボーナスが失われて、他の花嫁たちと同じように帰ったものだと思っていた。


「おまえら、いたのか。途中から会話に入ってこなくなったから、てっきり帰ったのかと⋯⋯」


エリック王子の言葉に、ミランダとセシリアはムッとした様子で返す。


「相変わらず失礼な方ですわね。尋問が終わるまで待っておりましたのに」

「本当に顔以外は残念な人よね」


二人の発した言葉に、エリック王子は瞠目する。


今の言い方は、エリック王子の人柄を分かっているかのようだった。


「おまえたちは⋯⋯俺が理想の王子に見えていたから、好きになったんじゃないのか?」


エリック王子の言葉に、ミランダとセシリアは顔を見合わせる。


「そうですけど? それがどうかしたんですの?」

「おかしなことを言うのね。エリック殿下は今でもあたしと姉様の王子様よ」


当然のように言う二人。

エリック王子の目が大きく見開かれた。


つまり、ミランダとセシリアは本当にエリック王子のことが好きだったということ?

確かに二人のエリック王子へのアプローチには熱が入っていたけど。


「分かっただろう。転生ボーナスに頼らなくても、おまえを好きになってくれる子はいたんだ」


ハトが声をかけると、エリック王子の目から涙がこぼれた。


「俺はずっと、女の子たちから『理想の王子様だ』って言われてきた。でも⋯⋯それが転生ボーナスの力だって分かってから、本当の俺なんて誰も見ていないと思ってたんだ」


だから転生ボーナスを失った時、激しくショックを受けていたのね。

実際に、彼の花嫁になるはずだった令嬢たちは次々と去って行った。


「ヘレンちゃんは、王子にどこまでも一途なヤンデレラだから⋯⋯きっと彼女なら俺から離れていかないと思ったんだ」


だから私に——というよりゲームのヒロインのヘレンに執着していたのか。


「そっか。⋯⋯でもそれって、おまえが女の子に一途になれば良かった話じゃね?」


確かに。見た目は格好いい王子様なのだから。

内面を磨けば、本気で彼を好きになる女性は少なくなかったはず。


ハトの疑問に、エリック王子は涙を流しながら言う。


「出来なかったんだ。可愛い女の子ばかりで、みんな俺の嫁にしたかった」


前言撤回! 内面を磨く前に性根を叩き直さないとだわ。

最後ちょっといい話になるかと思ったら、そんなことなかった。


「だからハーレムで全員を花嫁にしようとしたんだな。それで、おまえへの処分についてだけど」

「急に本題に入るな! おまえはなんでそう切り替えが早いんだよ!」


エリック王子は慌てて涙を拭い、困惑した顔でツッコんだ。


相変わらずマイペースに人を振り回すハトね。


「例の請求書のかぼちゃグッズは、面白そうだから俺が全部買い取るよ。残りの請求分はおまえが自分で働いて払うこと」

「⋯⋯は?」


ハトの言葉に、エリック王子だけでなく全員が呆気に取られた。


い、いくらなんでも軽すぎない?

仮にも王太子暗殺未遂の黒幕なんでしょう。


「爵位は与えない。これからおまえは、一庶民として生きていくことになる。あそこにいる花嫁二人も養わないといけないから大変だぞ」

「待てよ! おまえの同情なんて俺はいらな——」

「勘違いするな」


エリック王子の言葉を遮るように、ハトがピシャリと言い放つ。


「これには条件がある。それが出来ないなら、今言った件はなしだ。おまえは多額の請求を一生かけて払い続けることになる」


いつもの軽い口調ではなかった。

皆が固唾を飲んで見守る中。


「エリック——三ヶ月前の俺の暗殺未遂について、真実をちゃんと話せ」


静まり返った玉座の間に、ハトの静かな声が響いた。

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