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世界の裏事情

舞踏会が開かれる三ヶ月前。

エリック氏が、クロード氏から主人公の座を簒奪する事件が発生。

これにより、我らは事後処理に追われていました。

シナリオを大幅に改変されれば、下手すれば世界が崩壊します。

我らは必死で世界の修正作業に当たり、なんとか世界の崩壊を阻止しました。

只でさえ人手不足で一人一人の負担が大きいってのに。


エリック許すまじ。

おまえのせいで我らは、疲労困憊で舞踏会を迎えることになったじゃねーか!

(「冒頭から俺への怨嗟がすげーんだけど!?」とエリックがビビっている。)


舞踏会初日。

疲労困憊の我らにとって嬉しい誤算がありました。

メインヒロインであるヘレン氏が、クラウス氏に一目惚れしたのです。

この時に我らは思いました。


『よっしゃ! 〝王子様に一目惚れする〟イベントはこれでクリアされた!』と。

条件の内容に、場所が舞踏会じゃないと駄目って書かれていないし。

今夜は他に仕事もないし、これで帰れる!

世界の修正作業で疲れ切っていた我らは、ついそんなことを思ってしまったのです。


それがとんでもない事態を招くとも知らずに⋯⋯。


『今日は早く帰れて良かったね』

『ここ三ヶ月の間、残業続きで家に帰れなかったもんね』

『物理法則と時間の概念を無視して働くとか、どんな職場だよ』


なんてことを話して帰っていた時、一人のメンバーがはっとして言ったのです。


『そう言えば、あのお嬢さんは畑にあったかぼちゃを食べちゃったそうだよ。タナカさん、替えのかぼちゃは置いてきたよね?』

『え? オカダさんがやってくれたんじゃ⋯⋯』

『僕はナカムラさんがやってくれたのかなって』

『てっきり我はカワカミさんが⋯⋯』


⋯⋯⋯⋯。


——やべえ。

そう思った我らは、大急ぎでヘレン氏の家へ引き返しました。

しかし、気付いた時には既に手遅れだったのです。


戻った我らが見たのは、自動走行する巨大白菜の⋯⋯馬車みたいな何かでした。


『なんじゃありゃー! かぼちゃがないからって、白菜の馬車に乗ってるんだけど!』

『しかもあれ、馬じゃなくて魔法を燃料にして走ってるよ。馬車じゃなくて自動車じゃねーか!』

『どうしよう。もう町中の人に見られちゃった。今さらかぼちゃの馬車に乗ってもインパクトで白菜に勝てない』

『もう、あれがこの世界の〝魔法の馬車〟ってことにするしかないのでは⋯⋯』


馬車じゃなくて自動車だけど。

自動車もかつて『馬なし馬車』と呼ばれていた時代があるし、あれも魔法の馬車でギリいける⋯⋯かな?

あ、『馬なし馬車』はこの世界じゃなくて地球での話か。

——いや、いくしかねー!

こうして、我らは白菜の馬車で物語を進めていくことにしました。

だって今さらなかったことに出来ないし。


一日目の舞踏会が終わった後。

第六幕『第二王子エリック』にて。

エリック氏とクラウス氏が漫才交渉をやっていました。

なんと——クラウス氏のローブの内ポケットに隠れたハト氏が、小声で指示を出していたのです。

ユニークかつ見応えのある光景でした。

観測している我らにしか見えないのが残念。


(ハト)「クラウス、俺の後から遅れて喋るんだ。いくぞ——明日は夜の十時頃に来るそうです」

クラウス「明日は夜の十時頃に来るそうです」

(ハト)「殿下とダンスした時の筋肉痛がひどくて立ち上がれず⋯⋯」

クラウス「殿下とダンスした時の筋肉痛がひどくて立ち上がれず⋯⋯」


ハト氏が喋った後を追いかけるように、同じ台詞をクラウス氏が喋る。

まるで輪唱のように。

そうとは全く気付かないエリック氏は、クラウス氏に必死でツッコんでいました。


「そこは馬車を使えよ! 何で地面を這って城まで移動するんだよホラー映画か! かぼちゃの馬車があるだろ!」


実際はハト氏が喋っているのに。

クラウス氏に全力でツッコむエリック氏がめっちゃ面白かったです。

(「やかましいわ! どうりであそこのクラウスだけおかしいと思ったチクショー!」とエリックが叫び、ハトが腹を抱えて笑っている。)


その結果、ヘレン氏を『夜中の十時に舞踏会へ出席させる』という条件をエリック氏に認めさせたのです。


このシーンが、視聴者であるこの世界の神々にウケました。

『このままコメディ路線希望』と書かれた神々からのアンケート要望が増え、この世界はコメディに方向転換することが決定したのですが——。


我らはもう一つの致命的なミスに気付きました。


舞踏会二日目。

第七幕『初めてのデート(?)にて⋯』の映像をチェックしていた時のこと。

ヘレン氏とクラウス氏が町でパイを食べていました。

そこで、魔法を見られたクラウス氏が、若い男女に恐がられていたのです。

我らは凍りつきました。


この世界では、魔法使いは突然変異の能力者として恐れられていました。

——〝元のシナリオ〟では。


コメディ世界へ方向転換する際、その設定は没にしたはずなのに。

なぜか元のシナリオ設定が消えずに残っていたのです。

もしかして、急いで路線変更しちゃったから⋯⋯未修正の箇所がどこかにまだあった?


我らは慌てて過去の映像を確認しました。


『見つけました! 該当の映像を流します』

スクリーンに、魔法使いについて最初に言及された映像が映し出される。


第二幕『馬車になるはずだったかぼちゃは⋯⋯』


「⋯⋯ヘレンも僕のような人間には本来関わらない方がいいんだ。今回が特例なだけでね。魔法なんて得体の知れない力、君だって本当は怖いだろう?」

「〝力〟を恐れるっていうのは、私にはよく分からないですね。悪いことに使えば悪い力になるし、善いことに使えば善い力になるでしょう。結局は使う人の問題じゃないですか?」


『あかーん! めっちゃ序盤のところで言ってるわ!』

『まさか、僕たちがウッキウキで帰った後にこんなやり取りが⋯⋯』

『この映像、もう公開されちゃってるよ。今さら〝シナリオを修正し忘れていました〟なんて言えないよ』

『ならばもう、ギャグでカオスなコメディ路線でうやむやにするしかない!』


こうして、我々はギャグでカオスなコメディ世界の運用へと舵を切りました。

既に公開されたシナリオを、今さら取り消すことは出来なかったからです。

しかし、またもや⋯⋯更なる問題が発生。

 

第八幕『告白と白いハト再び』にて、ヘレン氏が予想外の行動を取ったのです。


『この子何してん!』

『展開はええよ! 会ってまだ二日じゃん!』

『ラブコメじゃだめなんだよ! ギャグでカオスな路線じゃなきゃ物語の矛盾をうやむやに出来ない!』

『もう我々だけじゃ対処ムリ! おふざけの申し子に頭を下げに行くぞ!』


※プライバシーに配慮し、何があったかここでは明記しません。

ヘレン氏——あの方はクラウス氏からとんでもないものを奪っていきました。

(「観測している時点でプライバシーも何もあるかー!」とヘレンが叫び、クラウスが必死に宥めている。)


もはやこの危機を救えるのは、あの方しかいない!


事態は一刻を争いました。

このままでは、ヘレン氏とクラウス氏によってラブコメが展開されてしまう。

それは世界の崩壊を意味していました。

だってもう、ギャグでカオスなコメディ路線へ完全に舵を切ってしまったから。

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