いざ、白菜の馬車に乗って
お城の前に馬車が到着する。
正確には、お城から少し離れた場所に停まった。
「色んな意味でこの馬車は目立つから、ここで降りて歩いて行きなさい」
「じゃあ、行ってきますね」
「⋯⋯ああ、待って。ガラスの靴を忘れている」
馬車を降りる前に、クラウスさんが私の足元に跪く。
恭しくガラスの靴を履かせてくれる姿は、紳士的で格好いい。
「それじゃあ、十二時の鐘が鳴る前にここへ戻っておいで」
「分かりました! 帰ったら労ってください!」
「はいはい。頑張っておいで」
手を振って私を見送り、馬車に戻って行くクラウスさん。
心做しか、ちょっと元気がないように見えた。
ちょっとだけ心が痛む。
結局、かぼちゃの馬車を作ってもらうことは出来なかった。
昨日のうちに、私が畑にあった最後のかぼちゃを食べてしまったから。
でも、空腹には勝てなかったのだ。
継母と義姉たちから与えられる食事は、一切れのパンと薄いスープだけだったから。
私も生き延びるのに必死だったので許して欲しい。
だから、クラウスさんには代わりの作物で馬車を作ってもらった。
——出発前。
「すみません。もう、家にはこれしかなくて⋯⋯」
私は台所を漁り、かぼちゃの代わりになりそうなものを持って行った。
クラウスさんに渡すと、なぜか複雑そうな顔をされたが。
「時間もないし、もうこれでいいか」
そう言ってクラウスさんは、私が持ってきた白菜を馬車にした。
ちょっと縦長な形状が気になったが、ちゃんと走ったので問題ない。
「せめて林檎とか、苺とか、可愛らしいものはなかったの?」
「馬車なんて移動にしか使わないんだから、何でもいいじゃないですか」
「ムードとか一切気にしないんだね! 君がいいならもういっか!」
最後はクラウスさんも諦めて受け入れてくれた。
そして舞踏会の会場へ到着したのである。
会場に足を踏み入れると、そこはまるで別世界だった。
天井高く吊るされたシャンデリアが、きらきらと会場を照らしている。
広いホールには美しい装いの紳士淑女が集い、楽団のオーケストラの演奏と共に、楽しそうな笑い声が響いている。
前世でも縁のなかったセレブの舞台。
おとぎ話のシンデレラにとって、この光景はさぞ輝いて見えたことだろう。
私はと言うと。
(場違い過ぎて帰りたい⋯⋯)
私のインドアな気質は、死んでも治らなかった。
庶民がセレブの集まる舞踏会になんて行ったら、どうしていいか分からなくて帰りたくもなる。
「美しいお嬢さん。もし宜しければ、私と踊って頂けませんか?」
途方に暮れていると、白い礼服を着た青年が話しかけてきた。
金髪碧眼の端正な顔立ち。物語の王子様みたいなきらきらイケメンだ。
「お待ち下さい、殿下ー!」
「ぜひ、わたくしたちと踊ってくださいませー」
青年の後ろを、美しい令嬢二人が追いかけてくる。
うちの義姉、ミランダとセシリアだった。
殿下ということは、この人が主催者の王子様か。
なるほど、義姉たちが夢中になるのも頷ける美形だ。
「ああ、見つかってしまったか。ちょっと待っていてくれ」
そう言うと、王子様こと殿下は、義姉たちと何か話し込んでいるようだった。
ミランダとセシリアはうっとりした顔で頷き、その場から去って行く。
去り際にちらっと私の方を見て、怪訝そうな顔をしていたが⋯⋯。
どうやら私がシンデレラだとは気付かなかったらしい。
(あっぶなー。いきなりあの二人に出くわすとは思わなかった)
ほっと胸を撫で下ろしていると、殿下が戻って来た。
「待たせたね。それじゃあ、あちらのホールで踊ろうか」
待て! 了承していないのに、なぜか躍る前提で話が進んでいるんだ。
「すみません。私、ダンスはやったことがなくて」
「大丈夫ですよ。私がエスコートしますから。さあ、お手をどうぞ」
「いえいえ! 殿下のお手を煩わせるなんて申し訳ないです。他のご令嬢を——」
「あなたが良いのです。それとも⋯⋯私と踊るのはお嫌ですか?」
それ断れないやつ! 王子様(権力者)相手に『はい』って言える人いるの?
しかも悲しげな表情でこっちを見つめてくる。これで断ったら、周囲からは私が王子を傷つけたように映り、顰蹙を買うかもしれない。
「⋯⋯よろしくお願い致します」
渋々王子の手を取る。
「よかった。もし断られたりしたらと緊張してしまいました」
王子がほっとした顔で微笑んだ。
さすがイケメンの王子様。微笑みの破壊力もすごい。
渋い年上男性が好きな私でさえ、一瞬仰け反りそうになった。
だが、王子とのダンスでそんな気分は一瞬で消し飛んだ。




