町は白菜祭り
——この世界ではな、ふざけた奴が強いんだ。
ハトの言葉に、ぽかんとする私とクラウスさん。
そんな私たちに、ハトはいつもの調子で言った。
「まあ、実際に見た方が早い。町へ行くぞ!」
意味深なハトの言葉が気になったが。
私とクラウスさんは、まずは町へ向かうことにした。
そして、町へ到着した私たちを待っていたのは——。
「何なの、これ⋯⋯」
「これは一体⋯⋯」
呆気に取られる私とクラウスさん。
目の前には、昨日とは全く違う光景が広がっていた。
見渡す限りの白菜で彩られた町。
白菜カラーの白と緑のすだれに風船、でかでかと『8931』と掲げられた看板。
あちこちの店で、白菜を使った料理やお菓子、化粧品の他、白菜モチーフのアクセサリーや衣服などが売られている。
なぜか白菜のモデルハウスまであるんだけど。
あんなもの昨日はなかったのに、いつ造ったんだ!?
道行く人たちは皆、子供から大人まで、白菜の被り物やアクセサリーを身に着けて歩いている。
野良犬や野良猫、馬車を引く馬やネズミさえも。
もう訳が分からない。
今日は白菜の生誕を祝うお祭りでもあるの?
いや、そもそも⋯⋯。
白菜の馬車が話題になってから、わずか二晩しか経っていないのに。
それだけの短い期間で、町がこんなことになるかー!
「二人とも、この光景を見てどう思う?」
ハトに問われ、私は思わず⋯⋯。
「いやいや、色々おかしいでしょう! 昨日の今日で、町がこんなことになるなんて!?」
「殿下、まさかこれを見越して⋯⋯いや、でもこれは⋯⋯」
クラウスさんもちょっと混乱しているみたいだ。
普段は落ち着いているクラウスさんの、ちょっと珍しい一面が見れた。
「さすがにクラウスも、この光景はちょっとおかしいって思うよな」
うんうん、と頷くハト。なんでそんな冷静なんだ。
やばい、頭が混乱してきた。
誰かこの状況を——じゃなくて目の前のハトよ、この状況を説明して。
「俺も正直びっくりしている。現実ではありえねーもん。でもな、この世界でなら起こり得るんだよ」
どういうことかしら?
怪訝に思う私とクラウスさんに、ハトは真剣な顔で言う。
「実際にこのありえない光景を見た後なら、今から話すこともすんなり頭に入るはずだ。それじゃー、人のいない場所に移動してサクッと説明するぞ!」
ハトの提案で、私とクラウスさんは人気のない河川敷へ移動した。
なぜ河川敷なのかは分からない。
「——というわけで、俺とヘレンには前世の記憶があるんだわ」
「なるほど。そういうことでしたか」
ハトはクラウスさんに、自分と私が転生者で、前世の記憶があることを話した。
妙に納得した様子のクラウスさん。
まあ、昨晩も馬車の中で、散々前世の話をしていたし。何か察するところがあったのかも⋯⋯⋯⋯。
「ちょっと待てえぇぇい!」
サクッと説明するってそっちかい!
クラウスさんを混乱させないために、彼には前世のことは黙っておけと言っていたくせに!
「だって情報量が多いとさ、一気に説明されても混乱するだろ?」
「それは、そうかもだけど⋯⋯」
「ご飯は少量ずつ食べた方が消化しやすいじゃん? 同じように、少しずつ前世についての話を聞かせてから種明かしすれば、理解しやすいかなって⋯⋯」
「分かるかー! なら最初にそう言いなさいよ!」
だからクラウスさんの前で、普通に前世の話をしてたんかい。
なんでこのハトは、後になって「実はこういうことでした」みたいな説明をしてくるのよ。
「落ち着いて、ヘレン」
「クラウスさん⋯⋯」
「殿下の言う通り、君たちの前世についてのやり取りを見たおかげで、すんなり理解できたというのはあるよ」
そう言われたら、さすがにハトを怒れないじゃない。
(ま、まあ⋯⋯これでクラウスさんに、前世のことを隠さなくて済むわけだし)
隠せていたかはともかく。
怒りを渋々収めた私の頭を、クラウスさんが撫でてくれる。
(嬉しいのだけど、これは子供扱いされているわよね⋯⋯)
しょんぼりと肩を落としていると、ふいに頭を撫でる手が止まった。
どうしたのかと不思議に思っていると——躊躇いがちに、そっと肩へ手が回される。
(あっ⋯⋯)
肩に置かれた手とクラウスさんの顔を交互に見た。
ま、まさかクラウスさんの方から来てくれるとは!
目が合った瞬間、クラウスさんがちょっとぎこちない感じで微笑む。
「その、嫌だったら⋯⋯」
クラウスさんが肩に置いた手をわずかに離そうとする。
その手に慌てて自分の手を添えた。
「嫌じゃありません! ぜひこのままで!」
「そ、そう⋯⋯。君ははっきり意見を言うね」
なぜか苦笑されてしまった。
再び肩に手が置かれ、嬉しさと気恥ずかしさでつい顔が緩みそうになっていると⋯⋯。
「クラウス、ヘレンの怒りをそのまま鎮めておいて。じゃあ、クライマックスも近いし、ちゃっちゃと説明するぞ」
怒りを鎮めるって、私は悪霊か何かか!
このハト⋯⋯どんな状況でも全くブレないわね!
「で、なぜ町が白菜王国みたいになったかと言うと、恐らくヘレンが白菜の馬車に乗ったせいです」
「はあ!?」
ど、どういうことよ。
白菜の馬車に乗っただけで、町があんなことになるはずが⋯⋯。
「本来のシナリオではな、三日目になると、町がかぼちゃ祭り状態になるんだよ。ゲームのヘレンはちゃんとかぼちゃの馬車に乗るから」
「いや、それはゲームの話でしょう。一晩で町があんな状態になるはずが⋯⋯」
「恐らく〝ゲームの強制力〟が働いているんだろう」
ハトの言葉に目を瞠る。
ゲームの強制力? 確かにここはシンデレラ・ガーデンっていうギャルゲーの世界だけど。
まさか、そのせいで現実ではあり得ないことが起こっているというの?
「ゲームの強制力っていうのはな、起こることが確定している運命なんだ。俺も実際に町を見るまでは確証が持てなかったけど、物理法則や時間の概念さえも無視しちまうみたいだな」
つまり⋯⋯。
ゲームの強制力なら、現実では不可能な現象も起こせてしまうと。
だから一夜明けて、町全体が全く違う光景に変わってしまったというの?
さらに、私がかぼちゃではなく白菜の馬車に乗ったから、町は白菜祭り状態になったと。
「そういうことだろうな。でも、ヘレンが白菜の馬車に乗ってくれたおかげで、俺たちにとっていい方向へ事態が動き出したぞ」
急にハトが嬉しそうに羽を広げ、飛び跳ねながら言った。




