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舞踏会初日〜ハトとクラウスの舞台裏〜

舞踏会の初日。


「ヘレンちゃんを舞踏会へ連れてこい。さもないと、おまえは首だ(処刑的な意味で)」


第二王子エリックから命を受け、クラウスがヘレンの家へ向かっていた時。

彼の肩に止まっていたハト——に変身した王太子のクロードは緊張で体を強張らせていた。


小刻みに震えるその姿は、一見すると、寒さに震える哀れなハト。

だが震えの原因は、どうやら別にあるようだ。


クラウスは訝しげに首を傾げた。

たかだか一人の少女に会いに行くだけで、どうしてここまで怯えるのか。


「ヘレンという少女は、もしや危険な人物なのですか」

「うん⋯⋯あ、いいや、大人しくてお淑やかな女の子だよ! ただなぁ、王子様への憧れが強い子だから、もしかしたらエリックにコロッといっちゃうかもしれない」


最悪なのは、ヘレンがエリックを好きになって敵に回ってしまうこと。

その不安に、クロードは怯えていた。

もしそうなったら、エリックを倒す方法がなくなってしまう。


そんなクロードを、クラウスは心配そうに見つめる。


ヘレン——打倒エリックの鍵となる少女。


にわかには信じ難いが、クロードがここまで拘るのなら、何かあるのだろう。

彼の行動は思いつきやノリでやっているように見えるが、いつも不思議と良い結果を引き寄せる。

その度に、周囲は『まさかそれを見越して⋯⋯』と驚き、

クロードは『見越してねぇぇ! こんなことになって俺が一番驚いてるわぁぁ!(ガクブル)』と、予想外の成果に内心びびっているのである。


彼の転生ボーナスである『聡明な人格者の王太子』補正。

クロードは周囲からそう見えるだけの能力だと思いこんでいるが⋯⋯。

実は自分の取る行動や結果の方に補正がかかっているとは、気が小さくて自己評価が低いクロードは思いもしないのだった。


そんなクロードが、なぜヘレンの家へ向かっているのかというと——。


エリックからクラウスが「ヘレンちゃんを舞踏会へ連れてこい」と命じられた時。

彼のローブの内ポケットに隠れていたクロードが、その場の話を全て聞いていたからである。


「まさかさ、〝魔法部署(王太子専用)にも制服があった方がいいよね〟と思って作ったローブがこんなところで役に立つとは」


自分でもびっくりだわー、とクロードは呟く。


舞踏会初日の夜。

クラウスがなぜローブ姿でヘレンの前に現れたのか。

これは彼の職場である魔法部署(王太子専用)の制服——つまり、仕事着だからである。

最初は魔法使いっぽくとんがり帽子をかぶっていた。しかし、職場の出入り口に帽子の先が当たって邪魔になり、目深なフードに落ち着いたのだ。


「殿下、まさかこれを見越して——」

「何を見越してだよ! 暗殺されかけた後、おまえの内ポケットに隠れてエリックの話を盗み聞きすることを見越すの!? 何で手前で起こる暗殺をスルーしてその後の対策してんだよ俺!」


クロードはツッコミを入れた後、目的地が見えてきたのを見てふわりと空へ飛び立った。

上空からヘレンの家を見下ろし、ため息をつく。


「⋯⋯エリックもひどいこと言うよな」


まさか、あんな理不尽な命令をしてくるなんて。

クラウスのローブに隠れ、話を聞いていたクロードは驚愕した。


(⋯⋯行きは歩きで、帰りだけかぼちゃの馬車に乗って来いだなんて)


当初は馬車を手配して、ヘレンの家まで行くつもりだった。

そこへエリックが、怒り心頭で待ったをかけたのだ。


『魔法使いが普通の馬車に乗って現れたら、雰囲気ぶち壊しだろ。タクシーで魔法使いが迎えに行くようなもんじゃねーか。いい運動になるから歩いて行け!』

『⋯⋯たくしぃ?』

『そこはいいから、早く支度しろ! 遅くても夕方の五時までには城を出ろ! あとこれ、台本作っておいたから!』

『⋯⋯ちなみに、城からかぼちゃの馬車で行くのは?』

『なんで普通の馬車で来なかったんですかって、万が一突っ込まれたらどうする! 馬車がないので作りますねという流れで、相手の畑にあるかぼちゃを馬車にしろ』


——そんなやり取りが脳裏に蘇る。

城からヘレンの家まで、徒歩だと三時間はかかる。


クラウスが気の毒だった。

だから、道中はクラウスの話し相手になるため、彼の肩に止まっていた。

そして、ヘレンの家の近くに到着し⋯⋯。


「クラウス、大丈夫か。ちゃんと水分補給しておけ」

「大丈夫ですよ。早めに城を出て、ゆっくり歩いてきましたから」


さすがに、長距離を歩いて息切れした状態で登場するわけにはいかない。

クラウスは水分補給を終え、息を整える。


「で、この後どうするんだ?」

「エリック王子殿下は、台本に指示が書いてあると言っていましたが」


クラウスは、エリックから渡された台本を取り出した。

それは〝台本〟——と手書きされた一枚の紙切れ。

ひっくり返して裏を見ると、こう書き殴られていた。


【以下三つは厳守すること】

・玄関からおじゃましますは厳禁!

・魔法使いっぽく登場すること

・魔法の馬車を使って城へ来ること

※上記を守らなかった場合、命令違反で首にする。

【以下はヘレンちゃんの前で言う台詞】

・今日まで辛い境遇によく⋯⋯


「「⋯⋯」」


クロードとクラウスは無言で目を合わせる。

指示が大雑把すぎるだろう。ちゃんと書いてあるの台詞の指示だけじゃん。

あと玄関からおじゃましますは厳禁って⋯⋯不法侵入しろってことか?


「仕方ねー。お化けみたいな登場になるが、魔法を使って誰もいない背後から登場とかは?」


クロードの提案に、クラウスは申し訳なさそうに首を振る。


「すみません、殿下。私は物を生み出したり変化させる魔法は得意でも、人や物を別の場所へ転移させる魔法は苦手で」

「あ、そっか。どうしよう。じゃあ、ここの塀に梯子を立てて、庭から入ってこっそり背後から登場⋯⋯は、どう見ても不審者だな」

「——っ!」


この時、クロードは軽い気持ちで口にしたことを後悔した。

だが、それほどまでに、この時のクラウスは追い詰められていたのだ。

ここでエリックの命令を遂行できなければ、待っているのは首。

そうなったら、誰がクロードを助けるのだと。


「クラウスゥゥー! 考え直してえぇぇ!」


クロードは慌ててクラウスを止める。

と言ってもハトの姿なので、必死に飛び回って制止するだけなのだが。


「いいえ! もしここで、普通に玄関から『お邪魔します』なんてしたら、エリック王子の命令に背いたとして首になってしまいます(処刑的な意味で)」

「ばれたら社会的な意味で死んじゃうからぁ! 今のおまえ絵面がめっちゃやべーぞ!」


クロードが悲痛な声を上げる。


魔法で手作りした梯子を塀に立てかけ、そこに足を掛けて民家の庭へ入ろうとするクラウス。

その姿はまさに——不法侵入を企む、全身フード姿の怪しい人物そのものだった。


「私が死んだら、誰が殿下の大好きな高級枝豆を買うんですか」

「何で自分の命より俺の主食の心配してんだよ! おまえもうちょっと自分の命に重きを置けや! 俺の枝豆のために、犯罪者になって捕まるようなことやめてぇぇクラウスゥゥ!」


クロードは泣いた。

自分が『まさか本当にやらないよね』と冗談で言ったことを、こんなにも真剣に実行するなんて。


そしてこれが、まさかの予想外の結果を招くことになるのだった。

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