馬車になるはずだったかぼちゃは⋯⋯
「まずは、ドレスを用意しないとね」
クラウスさんが指をパチンと鳴らす。
すると、私の周りに無数の光の粒子が出現し、渦を巻くようにして全身を覆っていく。
やがて私の体が眩い光に包まれ、光が弾けるように消え——ぼろぼろだった服が純白のドレスに変わっていた。
灰や煤で汚れていた髪や肌もきれいになっている。
思わず「おお!」と声が漏れた。
(すごい、すごい! まさか魔法を直に体験できる日がくるなんて!)
お洒落に興味はないが、魔法となれば話は別だ。 このドレスやきれいな姿も、魔法によるものだと思うと胸が高鳴る。
「はい、見てごらん」
クラウスさんが魔法で水鏡を出してくれた。
水鏡の前に立つと、見違えるような自分が映っていた。
腰まで流れる若草色の髪に、明るい金の瞳。
灰で汚れていた肌は、白く滑らかになっている。
純白のドレスは所々にフリルやレースがあしらわれ、可愛らしさと上品さを兼ね備えたデザインだ。
「気に入ったかな?」
「すごいですね! 違う自分に変身したような気分ですよ!」
ついはしゃいでしまう私を、クラウスさんが微笑ましげに見つめる。
「あ! ところで、さっきの告白のお返事なんですけど」
「このタイミングでくる!? えっと、まずは舞踏会へ行こうか」
⋯⋯流されてしまった。
勢いで告白したとはいえ、なけなしの勇気を振り絞ったのに。
「そもそも、魔法使いなんて世間じゃ胡散臭い連中だと思われているんだよ。お嬢さ——」
「ヘレンでお願いします」
「⋯⋯ヘレンも僕のような人間には本来関わらない方がいいんだ。今回が特例なだけでね。魔法なんて得体の知れない力、君だって本当は怖いだろう?」
いや、わくわくしか感じない。
前世の地球では、魔法とも言えるレベルで科学が発達していたから。
この世界では人知の及ばない力も、前世なら人知の及ぶ力だったりする。
そんな世界でさえ、魔法の力に憧れを持つ人たちは大勢いた。 だから、この世界もそうなのかと思っていたのに。
クラウスさん曰く、この世界での魔法や魔法使いに対するイメージはあまり良くないらしい。
人々は不可思議な力である魔法を、本能的に怖がるのだそうだ。
「〝力〟を恐れるっていうのは、私にはよく分からないですね。悪いことに使えば悪い力になるし、善いことに使えば善い力になるでしょう。結局は使う人の問題じゃないですか?」
「あはは、ある人からもそう言われたなぁ。君は面白い子だね」
「そうですか。では一度お付き合いしてみるのは——」
「一度王子に会ってみるといい。誰もが見惚れる美しい王子様として評判のお方だ。舞踏会で姿を一目見れば、気持ちも変わるかもしれないよ」
見事に受け流された。
仕方ない。一度王子に会ってみるとするか。
「ところで、城へ行くための馬車のことなんだけど」
馬車——と聞いて、はたと思い出した。
シンデレラで馬車と言ったら、かぼちゃの馬車だ。
「ちなみに馬車ってどうやって用意するんですか?」
私は恐る恐る聞いてみる。
あることを思い出し、頬を冷や汗が伝った。
魔法使いさんはそんな私に気付かず、にこやかに答える。
「馬車のような大きな物は、元になる物がないと難しいね。できれば作物がいい。大地の恵みを受けて育った作物は、魔法との相性もいいから」
「へ、へえー⋯⋯」
「旬の作物だと特にいいね。今の寒い時期だとかぼちゃかな。もし畑とかにあったら、持ってきてもらえるかい?」
なるほど。 あのかぼちゃはこの時のためにあったのか。
実はうちの畑に、一個だけかぼちゃが残っていたのだ。
⋯⋯昨日までは。
空腹に耐えきれなかった私は、継母たちの留守中にこっそり収穫して食べてしまったのである。
やばい⋯⋯どうしよう。




