ストラップを魔法で手作り
地獄のような広告塔の仕事を終え——。
私は夜勤を終えた直後みたいな疲労の中、馬車へ戻った。
「た、ただいまぁ⋯⋯」
「ああ、おかえ——ど、どうしたの!」
「おまえ、足が生まれたての子鹿みたいにガクガクしているぞ!」
出迎えたクラウスさんとハトからぎょっとされた。
馬車の段差で躓きそうになった私を、クラウスさんが素早く支えてくれる。
そのままクラウスさんに手を引かれ、よろよろと馬車に乗った。
その後、二人から事情を聞かれたので、会場での出来事を話した。
エリック王子とのドッグリード・ダンス。テラスで向かい合っての膠着状態。
義姉二人の登場からの王子連行。カミラ夫人との白菜談義。
そして、『8931』の広告塔として、諸君、狂いたまえと心の中で唱えたこと。
「要点だけまとめてるから逆に分かんねーよ! 最後いきなり吉田松陰が出てきたんだけど!」
「大変だったんだね、お疲れさま」
混乱のあまりツッコミを入れるハト。
『分からないが色々あったんだろう』と、理解を諦めた顔で察してくれたクラウスさん。
私はクラウスさんからお疲れさまと頭を撫でてもらい、ようやく一息つく。
「家に着くまで、横になって休んでいなさい」
クラウスさんの言葉に頷き、アクセサリーを外して箱にしまう。
馬車の座席に体を倒すと、やがてゆっくり馬車が動き出した。
舞踏会も明日で最終日。その翌日が勝負の日だ。
とは言え、ちょっと無茶しすぎたかもしれない。
この子鹿の足で、明日の舞踏会は大丈夫かしらと心配になる。
「無理させてすまねー。これさぁ、今日の舞踏会前に渡すつもりだったんだけど」
ハトが珍しく、遠慮がちな様子で声をかけてくる。
見ると、左右の羽で挟むようにして木箱を持っていた。
それを「はい」っと私に差し出してくる。
「今度は何⋯⋯」
「まあ、開けてみてくれ」
木箱を受け取り、恐る恐る蓋を開けてみると——白い布でできた足裏バンドと膝サポーターが入っていた。
「これ⋯⋯」
「足の血行促進とコリに効く磁気サポーター。おまえが足を酷使すると思ったから、クラウスと一緒に手作りしたんだ」
な、なんですって。
そんなまともな気遣いができるハトだったの!
「どーいう意味だよ! いらないなら返せ!」
「いるわよ! ありがとう」
ムキーッと怒るハトに、笑顔でお礼を言う。
私の反応が予想外だったのか、ハトは一瞬目を丸くして固まり、ぷいっとそっぽを向いた。
どうやら照れているみたいだ。ちょっと可愛いと思ってしまった。
「クラウスさんも一緒に作ってくれたんですか?」
「うん。でも、アイディアを出してくれたのは殿下だよ。僕はそういうのが苦手で⋯⋯」
クラウスさんは自嘲気味に笑う。
「それって、得意分野が違うだけでしょう? アイディアを形に出来るのだって、立派な才能ですよ」
「ありがとう。初めて会った時も思ったけど、君と殿下はどこか似ているね」
何でだ! いや、いい意味で言ってくれているんだろうけど。
それにしても、わざわざ手作りしてくれるなんて。
クラウスさんとハトからの気遣いに、胸が温かくなるのを感じた。
そういえば、さっきのハトの一言が気になるわね。
「さっき、今日の舞踏会前に渡すつもりだって言ってなかった?」
「ああ。おまえの白菜のアクセサリー作りをしていたら、間に合わなかった」
なぜそっちを優先したし。
あと、アクセサリーは、クラウスさんが魔法で手作りしたんじゃないの?
「俺も手伝ったぞ。まず、クラウスにおつかいのメモとお金を貰って、お土産屋さんに白菜のストラップを買いに行った」
「よく売ってたわね、そんなもの。⋯⋯ん? ちょっと待って。おかしくない?」
私の疑問に、ハトはコテッと首を傾げて。
「ああ! どうやって買ったのかというと、お店の人にメモを見せたら伝わったから、喋ってはいない——」
「そこじゃないわ!」
白菜の〝ストラップ〟だと? イヤリングとネックレスとティアラは?
「ああ、それな。ストラップに付いていた白菜の飾りを、イヤリングとネックレスの金具に付け替えた」
それ、ハンドメイドじゃないか! 魔法で手作りって話はどこ行った!?
「魔法も使ったぞ。ティアラはストラップの王冠を、クラウスの魔法で大きくしてもらった」
「ティアラしか魔法使ってないじゃない!」
怒って抗議する私に、ハトが怪訝な顔をした。
え⋯⋯私、何かおかしなこと言った?
「おまえは何を言っているんだ? 舞踏会前の会話をよく思い出してみろ」
「⋯⋯?」
舞踏会前の会話って確か⋯⋯。
『——おまえのアクセサリーも当然チェックするはずだ』
『ふざけているのかな?』
『違うって! 舞踏会の参加者に、パスコードを広めるための広告塔になってほしいんだよ』
だからって、こんなふざけたティアラを付けて舞踏会ヘ行けと言うのか。
『おまえ⋯⋯こんな目立つ馬車はオッケーでティアラは駄目ってどういうことだよ。あと、それクラウスが魔法で手作りしたアクセサリーだからな』
〝それ(※ティアラ)クラウスが魔法で手作りしたアクセサリー〟
「あ⋯⋯」
「な? お互いティアラにしか言及していないだろ?」
膝から崩れ落ちそうになった。
このハトに論破されるなんて⋯⋯。
なんということだ。
ティアラが魔法で手作りなら、イヤリングやネックレスもそうだと拡大解釈してしまった。
「ところで、魔法で手作りってどういう意味よ。ストラップの飾りを大きくしただけなら、手作りとは言わないんじゃない?」
「〝魔法でひと手間加えて作りました〟を略して魔法で手作りだ。分かりやすいだろう」
「分かりづらいし紛らわしいわ!」
別の意味で疲れてきた。
明日の舞踏会に響いたらどうしてくれるんだ、このハトは。
「大丈夫だ。その足サポーターには、クラウス特製『魔法の磁石』を内蔵している。これを足に付けて寝れば、一晩で疲労が回復するはずだ」
「魔法というより、某猫型ロボットの未来の道具に思えてきたわ⋯⋯」
ハトへのツッコミで余計に疲れたじゃないか。
クラウスさんも何か言って。このハトを止めて。
そう思っていたら、クラウスさんが微笑ましそうにこちらを見ているのに気付いた。
「二人とも、この短い時間でずいぶん仲良くなったね」
「どこがだ!」「どこがですか!」
私とハトの声が、ほぼ同時に重なる。
確かにいつの間にか、遠慮なく言い合える仲にはなったけど。
お城で助けてもらった時は、まさかこんなに尊大でキャラが濃いハトだとは思わなかった。
つい頭を抱えていたら、ふいにクラウスさんがぽつりと呟く。
「年も近いし、二人なら身分違いでも上手くいくんじゃないかな」




