魔法の手作り
舞踏会二日目。
夜中の十時。
町の多くの人々は寝静まっている時間だ。
それなのに、なぜか各家の窓には明かりが灯っていた。
「俺がビラを撒いておいた。『夜中の十時に白菜の馬車がここを通ります』って」
「何でそんなことを」
「パスコードを広めるための宣伝だよ。今日と明日で急ピッチで広めなくちゃならない。舞踏会の翌日が、エリックを打倒する最初で最後の機会だ。もう時間がない」
ハトの声から緊張が伝わってくる。
さすがに、ふざけている余裕はないようだ。
「ヘレン、舞踏会にはこれを付けていきなさい」
クラウスさんから二つの小箱を渡された。
「クラウスさん、これは⋯⋯」
「殿下の命令で作ったんだ。なぜ作らされたのかは、僕にも分からない」
嫌な予感しかしないじゃないか。
恐る恐る開けてみる。
一つ目の箱には、小さな白菜のモチーフが付いたイヤリングとネックレスが入っていた。
これ、もしかしてクラウスさんの手作り? 意外な特技だ。
白菜の飾りがゆらゆら揺れて可愛い。葉っぱの模様まで細かく作り込まれている。
そして2つ目の箱には——「8931」の大きな数字の飾りが付いたティアラが入っていた。
「⋯⋯」
「会場の女性たちは、昨日、エリックがおまえにダンスを申し込んだのを見て注目している。おまえのアクセサリーも当然チェックするはずだ」
「ふざけているのかな?」
「違うって! 舞踏会の参加者に、パスコードを広めるための広告塔になってほしいんだよ」
だからって、こんなふざけたティアラを付けて舞踏会ヘ行けと言うのか。
「おまえ⋯⋯こんな目立つ馬車はオッケーでティアラは駄目ってどういうことだよ。あと、それクラウスが魔法で手作りしたアクセサリーだからな」
魔法で手作りって何だ。
もう魔法の定義が分からない。
「気に入らなかったなら、無理に付けなくていいんだよ」
クラウスさんが気遣うように言う。
くぅぅ⋯⋯、クラウスさんの苦労を無碍には出来ない⋯⋯。
「いいえ、喜んで付けていきます!」
私は気合を入れ、全てのアクセサリーを装着した。
馬車を降り、舞踏会の会場へ向かう。
色んな意味で行きたくはないが、仕方がない。
クラウスさんとハト、そして自分の未来がかかっているのだ。




