ガラスの靴と白菜
「⋯⋯足認証システム?」
めちゃくちゃこの世界にそぐわないワードをハトが言った。
認証って、まさかあれ?
前世のスマホやパソコンなんかに搭載されている、顔や指紋で認証するシステムのことか。
「その通り。ガラスの靴はヘレンにしか履けない。これを『ガラスの靴がヘレンの足だと認証しないと履けない』という内容に魔法を書き換えた」
それはもう魔法じゃなくてITの分野だわ!
いや、ちょっと待て。それが何だと言うの。
「私の足だと認証しないと履けないなら、結局私しか履けないじゃない」
「馬鹿野郎。おまえはスマホの画面を顔認証で開いたことがないのか。あ、もしかして⋯⋯パスコードしか使わない方でしたか?」
急に「もしそうだったらどうしよう」みたいな顔でそわそわしだすな。
「いや、普通に顔認証で使ってたけど」
「なら知ってるだろ!」
ハトが不機嫌そうに声を荒らげた。
何か嫌なことでも思い出したのかしら?
「あれ、場合によっては本人でも弾いてくるぞ。俺は毎朝、寝起きの顔で『別人』判定されて弾かれてたんだ本人なのに! うるせー寝起きが別人みたいな顔で悪かったなって、イラッとしながらパスコード入れてたんだぞ」
待て、クラウスさんがいるんですけど。
「ああ、気にしないで。殿下の突拍子もない言動はいつものことだから」
クラウスさんはすっかり慣れた様子だ。
いつも付き合ってくれているのか、このハトに。
「そうだ。俺が窓をぶち破って外に出ても怒らない優しい奴なんだ、クラウスは」
「それはちょっと怒ってますよ」
「⋯⋯それでだ、ヘレン。ここに指サックがあるから、足の指に付けて履いてみてくれ」
ハトが羽の中から、指サックをクチバシで取り出す。
何で指サックがあるのかはもう聞くまい。
言われた通り、右足の小指に指サックを付ける。
再びガラスの靴に足を入れようとし——。
「……あ、あれ? 入らない?」
足が入らなかった。
指サックが邪魔⋯⋯と言うより、靴のサイズが急に小さくなったような。
「よし、成功だ! 顔認証もマスクや眼鏡でたまに弾かれるから、足もそうじゃないかと思ったぜ!(上手くいって良かったぁぁ)」
「これって……まさか、本当に……?」
見ると、ハトがホッとした顔で足をガクブルさせている⋯⋯。
冗談というかバカみたいな話にしか聞こえなかったけれど。
実際にこうして、ガラスの靴が私の足を拒んでいる。
本当に足認証システムとやらが働いているというの?
「その通りだ、ヘレン。そのガラスの靴は今、おまえの右足を『これはヘレン様ご本人の足じゃないので弾きますね』と判断した。ヘレン様ご本人の足なのに、別人の足だと判断されたんだ」
「それは分かったわよ! でも、さっきの話だと他の人も履けるようにしたんじゃないの? ここからどうすれば私以外も履けるようになるのよ?」
ハトが「嘘だろ⋯⋯おまえ」みたいな顔で私を見た。
ここまで腹立つ言動を一貫して取れるのもすごいわね。
「おまえは何を言っているんだ? スマホの認証システムに弾かれた時、おまえならどうやって画面を開く。まさか、そこで諦めるのか?」
「はあっ! その時は、パスコードを使って入ればって⋯⋯⋯⋯ま、まさか」
「そうだよ。4桁のパスコードを入れれば、ガラスの靴が『パスコード入れたならご本人様ですよね』と認証して、コードを入れた女性はみんな履けるようになる。前提を間違えるな。本人だから認証されるんじゃない、パスコードを入れた人が本人だと認証されるんだ」
パスコードを入れて履くってどんなガラスの靴だぁ!
ちょっと待て。
どんどん話がバカバカしい方向に転がっていっているのだけど。
私たちはどこへ向かおうとしているの。
「ちなみに、4桁のパスコードは『8931』だ。白菜の馬車に乗ったシンデレラのおまえに相応しいだろう」
しれっと白菜の設定をここで活かすなー!




