かぼちゃパイとハトの作戦
「要するに、エリックは自分が主人公になってハーレムを作りたいんだ。だから俺を殺し(たと思って)、成り代わった」
「で、何で私が狙われているわけ?」
ハーレムを築きたいのは分かった。でも、私をピンポイントで狙う理由が分からない。
「ゲームのヘレンはな、舞踏会で必ず一回はダンスに誘わないと次の日から来なくなるんだ。ヘレンが舞踏会を欠席した時点で、ハーレムエンドは失敗になる」
「はぁ」
やたらしつこくダンスに誘ってきたのは、そういうことか。
「それとエリックはヘレン推しの女好きだから、おまえを正妃にして他の子は側妃として囲うつもりなんだろう」
やっぱりクズだったか、あの王子!
「——だが、そこに勝機がある!」
ハトがキラーンと目を光らせた。
何かいい案があるのかしら?
返事を待っていると、突然ぐぅ〜とお腹の虫が鳴る音がした。
音が止み、ハトがお腹を羽でさする。
「喋ったら腹減った。ヘレン、さっき食わなかったかぼちゃのパイ、まだある?」
「あるけど」
ポケットに入れていたかぼちゃのパイを取り出す。
ハトが物欲しそうな目を向けてきた。
「朝から何も食ってないんだ。それ、いらないなら俺にくれ」
「ええ、いいけど」
「サンキュー」
器用に両手の羽でパイを挟み、美味しそうにクチバシでつついて食べている。
ここだけ見るとちょっと可愛い。
「あ、そうそう。クラウスー、話終わったからちょっと来てくれー」
ハトに呼ばれ、クラウスさんが戻ってきた。
「頼んどいたガラスの靴の調整、終わった?」
「はい、既にできております」
ハトはよっしゃと声を上げて私の方を見る。
「ヘレン、ちょっとここで試したいことがある。クラウス、ガラスの靴を出してくれ」
ハトの指示で、クラウスさんが手をかざす。
私の足元の地面が淡く光り、二足のガラスの靴が現れた。
「それちょっと履いてみ(もぐもぐ)」
パイを食べながら言うハトに首を傾げながら、ガラスの靴に足を入れる。
昨日と同じように、足にぴったりとはまった。
特に変わった様子は感じられない。
「⋯⋯履いたけど」
「その靴はヘレンしか履けないって話はさっきしたな」
ハトの言葉に頷く。
エリック王子がクラウスさんを脅して、ガラスの靴の効果を書き換えさせたのよね。
「エリックが選んだのがおまえで良かったよ。他の攻略対象だと、普通にお城へ行ってガラスの靴を結婚式場で履いて終わりだから(このパイうめー)」
それもう指輪でいいだろと思う。
「だがヘレンの場合は違う。童話のシンデレラみたいに、国中の女性にガラスの靴を履かせて探すローラー作戦が行われる(げほっ、喉に詰まった!)」
何でそこだけ無駄にシンデレラなんだ。
あと真面目な話をパイ食べながら話すな。
(あれ? て言うかあの王子、私の家の場所を知ってるよね!?)
クラウスさんを迎えに寄越したじゃないか。
なのに何でローラー作戦?
疑問に思う私を置き去りに、ハトがどんどん話を進めていく。
「最悪のパターンはな、ガラスの靴を履いたおまえが城に迎えられること。その瞬間にこの世界の因果『好感度が最も高い女性がガラスの靴を履ける。あ、あなたがガラスの靴を履いてるから、そうなんですね』の法則により、おまえはエリック大好きになり、物語はクライマックスを迎える」
頼むから真面目に言って。だんだん腹が立ってきたから。
それはそうと、色んな意味で最悪のクライマックスだ。
「だがそうはならない。俺はクラウスにこっそり命じて、その靴にある細工をしてもらった。エリックの目を欺き、尚且つ——おまえ以外の誰でもガラスの靴が履けるように」
「な、なんですって⋯⋯! そんな方法があるの?」
クチバシのまわりをかぼちゃとパイ生地だらけにして、ハトが得意げに頷いた。
せっかくの決め顔と雰囲気が台無しだ。
ガラスの靴が履ける女性は一人だけのはずなのに。
このハトは、どんな方法でその問題を解決したというの。
「聞いて驚け。言い出しっぺの俺も、まさかこの世界で出来るなんて思わなくてびっくりした」
「ど、どんな方法なの?」
「その方法は——」
「殿下、ちょっと失礼しますね」
「あっ、ありがとう」
⋯⋯大事な場面なのに、緊張感がない。
クラウスさんにクチバシのまわりを拭いてもらい、ハトが再び決め顔で言った。
「その方法とは——足認証システムだ!」




