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白いハトと王太子

「まず自己紹介するな。俺は転生者で、今世は王太子をやっていました。クズな弟の第二王子に暗殺されかけるも、クラウスの魔法でハトになったおかげで飛んで逃げて事なきを得ました。以上」

「へえ、そうなん——ちょっと待てい!」


とんでもなく重大な内容を、ものすごく軽いノリで説明された。

おかげでうっかり聞き流しそうになったじゃないか。


「騒ぐな、あとでちゃんと説明するから。まず、俺が転生者だって明かした理由は、おまえもそうだと思ったからだ」

「え?」

「おまえに違和感を抱いた理由は二つある。一つは、白菜の馬車なんてやべーもんに乗って、平気で街中を移動できる鋼のメンタル。あの時点でこいつはおかしいと思った。二つめは、エリックに名前を聞かれた時、『ジェーン・ドゥ』って言ってただろ。この世界には存在しない言葉だから、あれで確信した」


待て。後半はともかく、前半はただ私をディスっただけでしょうが!


そう言えば、『ジェーン・ドゥ』で思い出したけど。


舞踏会から去る時。

エリック王子は『それ名無しの権兵衛じゃねえか!』と突っ込んでいた。

ジェーン・ドゥ(※外国における女性の名無しの権兵衛)を知っているということは、まさか彼も転生者!?


「気付いたようだな。そうだ、あのクズ王子にも前世の記憶がある。あ、クラウスは普通にこの世界の人間だから、あいつには前世のことは黙っとけよ、混乱するだろうから」


ハトの王太子——長いからハトでいいか。ハトの言葉に頷く。

ちなみにクラウスさんは、ハトの命令により、少し離れた場所で話が終わるのを待っている。


「さて、ここからが本題だ。この世界についてだが、おまえはどこまで知っている?」

「おとぎ話のシンデレラの世界じゃないの?」


首を傾げる私に、ハトが呆れたようにやれやれと首を振る。

いちいちイラッとくるハトだ。


「⋯⋯おまえの知るシンデレラの童話に、シンデレラを連れてこねーと王子から首にされる(処刑的な意味で)、そんな可哀想な魔法使いが出てきたか?」


言われてみれば、確かに。

薄々何かおかしいなとは思っていたけど。


「つまり、ここはおとぎ話のシンデレラとは違う世界⋯⋯てこと?」


ハトが真剣な目で頷いた。


「そう。ここはおとぎ話なんて、女性が夢見るような世界じゃない」


ハトの雰囲気が、先ほどまでの軽薄な感じとは打って変わる。

思わず息を飲んで次の言葉を待つ。




「ここは——俺が前世でハマったギャルゲー『シンデレラ・ガーデン』の世界だ」


⋯⋯⋯⋯は?


「ギャルゲー?」


ハトが頷いた。


「主人公の王太子(俺)が、貴族や平民の美少女たちと恋する恋愛シミュレーションゲームだよ。メインヒロインはヘレンっていう、攻略難易度が鬼畜レベルの女の子」

「それってまさか⋯⋯私のこと!?」


ハトが大きく頷いた。


「本来のヘレンは、お淑やかで儚げで献身的かつ恋愛に初心な女の子だ。おまえとは対極にある子だから、すぐにおかしいと気付いた」


ハトをぶん殴りたくなるのを必死で堪える。

見た目が可愛いハトな分、余計腹立つ。

落ち着け、私。今は現状把握を優先しないと。


「本来のシナリオだと、俺が舞踏会を開く予定だったんだ。そしてガラスの靴には、最終的に〝俺への好感度が最も高い女性〟を持ち主に選ぶ魔法がかかっていた」


好感度が一番高い女性を持ち主に選ぶ? ということは⋯⋯。


「つまり、条件を満たした女性なら、誰でも靴を履けるってこと?」

「当たり前だろ。ガラスの靴は攻略対象と結ばれるためのマストアイテムだ。おまえしか履けなかったら、他の女の子攻略できねーじゃん」


他の女の子も履けるなら、シンデレラ(わたし)いらないじゃん!


「じゃあ、私がシンデレラと同じ境遇なのは?」

「タイトルがシンデレラ・ガーデンだから、メインヒロインはシンデレラをモデルにしている⋯⋯て、ゲームのPVで言ってたぞ」


ハトが笑いながら、何でもないことのように言う。

そんな軽いノリで、あの意地悪な継母と義姉たちをあてがわれたんかい!


ハトの話では、ハーレムエンドというものまであるらしい。

ガラスの靴を履いた女性を正妃に、その他の攻略対象たちは側妃に迎えるエンドだという。

ガラスの靴の存在意義すらないじゃないか。

ギャルゲーだからって自由にやり過ぎでしょう!


「まあ、それでだ。よっしゃ、舞踏会開くぜ! て思っていた矢先に、毒を盛られてな⋯⋯俺の可愛いハトリーヌが死んじまった」

「ハトリーヌ?」

「ああ⋯⋯」


ハトの声が急に沈んだ。

その目には涙が滲んでいた。


「俺が飼っていたペットのハトだ。あの日——俺は急に空を飛んでみたくなってな。クラウスの魔法で、ハトリーヌを俺の姿に、俺の姿をハトリーヌに変えてもらって、部屋で楽しく遊んでいたんだ。そこへ、運ばれてきた毒入りの枝豆ポタージュを、俺に変身したハトリーヌが口にしちまって」


部屋で何してんだこの王太子は。

あとクラウスさんに何させてんの。


「俺は猫舌だから、熱々の枝豆ポタージュが飲めなかったんだ。だから冷めるまで、おやつのマカロンをクチバシでつついて食べていた。その間に、俺の姿をしたハトリーヌが、ポタージュに浮いてる枝豆を食っちまって⋯⋯ハトリーヌは⋯⋯」


ちょっと可哀想になってきた。

可愛がっていたペットを亡くしてしまったのね。

なんと声をかけていいのか分からない。


「そ、それで?」

「やべーここにいたら殺されると思って、俺は窓から飛んで逃げた。でも行く宛がなかった俺は、近くの木の上に止まってクラウスを待ってたんだ。そして、いつも通り定時で仕事を終えたクラウスに泣きついて家に匿ってもらい、再起する機会をじっと伺っていた」


重たい内容のはずなのに、いまいち緊迫感が伝わってこないのはなぜだろう。


「ハトリーヌが身代わりになったことで、俺は世間では死んだと思われてる。その後、第二王子のエリックは次期王太子として俺の地位を奪った。それだけじゃない。クラウスを脅してガラスの靴を改造させ、『ヘレンしか履けない靴』に魔法の効果を書き換えちまったんだ」

「何でそんなことを?」

「ゲームの因果を逆手に取る気だろう。クライマックスでガラスの靴が履けるのは『王子への好感度が最も高い女性』だ」

「つ、つまり⋯⋯?」

「クライマックスの時点でガラスの靴をおまえが履いていれば、逆説的に『王子への好感度が最も高い女性だから靴を履いてる』判定を受けて、ゲームの強制力によっておまえはエリックを大好きになる」

「ふざけんなぁぁー!」


私は思わず大声で叫んだ。

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